連載 下剋上受験

知識の整理|桜井信一コラム「下剋上受験」

専門家・プロ
2014年11月25日 桜井信一

桜井信一ブログ『父娘の記念受験』で過去に掲載されていた記事から、一部を編集して掲載しています。この記事の内容は 書かれたものです。

今夜は、「知識の整理」がテーマです。よろしくお願いします。

引っ越し屋さんの作業をよく観察するとわかるのですが、転居先の搬出のことを考えてトラックに荷物を積み込んでいます。

食器などの重く破損しやすいものはなるべく下に積みます。軽くてつぶれやすいものは上の方に積んでいるのです。

トラックの左右のバランスも考えながら、隙間なく積み込んでいるのです。

アマゾンから届く商品を見てもわかりますが、小さいからといって箱も小さくなるとは限りません。

小さな文具であっても本と同じ大きさの箱に入っています。一見無駄な梱包にみえますが、同じ大きさの箱の方が重ねやすくトラックに積みやすいのです。

これらの工夫は、1台のトラックにたくさんのものを積み込むこと、安全に運ぶことが目的です。

こうして運ばれた荷物が転居先に到着すると、早速荷下ろしの作業に入ります。

引っ越し屋さんの場合は、このときのことを考えて冷蔵庫や洗濯機など、あらかじめ置く場所がはっきりしているものを手前に積んであります。

それを運んでいる間にどんどんトラックから荷下ろししていくことができるのです。

つまり、積み込むだけではなく荷下ろしするときのことまで予め考えているのです。

簡単そうな作業にみえますが、プロになるまでかなりの期間を要します。

引っ越し屋さんが家に見積もりにくると、家の中を見てまわるだけで、どのサイズのトラックが必要か判断します。

営業マンは元々作業をしていた人が多く、家具をみただけでトラックに積み込んだ状態を想像できるのです。

これは知識にも同じことがいえます。

あたまの中にどんどん放り込んでいくだけでは、簡単に荷崩れが起きてしまいます。

また、取り出そうとするときにどこに積んだかわからないのです。

本の中でもふれましたが、ここが最後の砦となります。

よくいわれるインプットとアウトプットというやつですが、アウトプットが大事だという漠然とした勉強法にただ頷いているだけになっていないでしょうか。

色々なサイトにアウトプット学習の需要さが書いてありました。酷い話ですが、勉強法を語る方もかなり抽象的です。実はよくわかってないんじゃないの? と思ったりしたのですが、どうやらそういう事情ばかりではなさそうです。

アウトプットを具体的に例えると、引っ越しのように当たり前の話になってしまうものですから、大層なアドバイスになりにくいのです。

漠然として煙にまいておく方がありがたい話のように感じるわけです。

例えば私がいま書いている記事は、取り出すときのことなどまるで考えていません。日々順序も考えず思いつきで書いているわけです。

ここから算数の話だけ取り出そうとすると、かなりややこしくなります。たくさんの記事数になると、書いている私でさえどの話を書いたか覚えていないし、探すのも面倒なのです。

もしこれが最初からアウトプットを主目的にしていた場合、カテゴリー分けをしながら重要度に合わせて並べていくでしょう。

しかし、アウトプット向きに作られていないので箱のなかに無造作に放り込んであるだけなのです。

そのなかから必要な情報を取り出そうとするとき、過去に書いた記事はすぐに探せません。アウトプットを意識していないために内容がすぐわかるタイトルになっていない場合もあるのです。

もしかしたら、重要なテーマが最初の方に偏っているかもしれません。これがインプットだけを続けたごちゃごちゃの箱を作り上げている結果です。

カバン店に行くと、棚にずらっと商品が並べられています。

お客さんがどれを好むかわからない状態で見て頂くわけですから、取り出しやすいように一列に並べておかなければいけません。奥の商品は見つけにくい。つまり、見つけてもらいにくいのです。

いくつかの商品を手に取りやすいように陳列するというのは、このように場所をとります。サイトの場合、ずらっと並べてしまうと巻物のように長い記事になります。これはこれで探すのが大変です。ディスプレイの範囲で探しやすいように陳列しなければならないわけです。

知識は、大型店舗のように一列に並べておくことができません。

あたまという小さなスペースの中に詰め込んでいきますが、知識は取り出す機会が多く、スムーズに取り出せてはじめて武器となるのです。

サイトの記事との大きな違いは、ここにあります。記事は読み手側が時間をかけて取り出せばすみます。しかし、知識は自分で取り出して相手に示すことが求められます。短い時間で示すことが求められるわけです。

駅にあるキヨスク程度の店舗にできる限りたくさんの知識を詰め込みたい。発車までのわずかな時間に取り出さなければならない。

たくさん詰め込むことと、素早く取り出すことの両方を考えながらレイアウトしなければならないわけです。

日常生活の中でも同じで、春になると冬物の布団を圧縮袋に入れてクロゼットの奥に詰め込む。

当分取り出すことはないから一番奥に収納する必要があるのに、面倒だからとりあえず手前の空いたスペースに入れる。

すると7月にはもう水着が必要になり、これが布団の奥にある。二度手間、三度手間になるのです。

常にあとのことを考えて生活する。それが苦痛ではなくて自然とできる子に育てる。

こんな当たり前のことをなかなか教えることができない。

勉強と直接関係ないような気がするこの日常生活が、後に大きな差となってあらわれる。

一緒に勉強している親の私が、知識を大量に詰め込むことが大事だと思っていました。人に負けないほど詰め込んだはずなのにどこに置いたかさえわからない知識の数々。まるで整理されていないその知識は、多分あたまのどこかにあるわけです。そして、あたまのどこかにあるという満足感がさらに散らかった状態のまま次の知識を詰め込む。

これに疑問さえ持たない親が難関中学を目指すという無謀な挑戦は、やはり親力で負けてしまうと思うのです。

これを何とかうまく伝えようと思ってはみたものの、やはり整理されていないままではうまく文章にできていないのです。

これではダメなのです。最難関は突破できないのでしょう。

また、悔いてもダメなのです。一発勝負だから。

もう一回受験勉強のスタートから始めるわけにいかないのです。

これはマズかった。だからゲームのようにリセットボタンを押してやり直したい。

心機一転なんて都合のいい言葉を持ち出してやり直そうとする発想だからこうなるのです。

この考えが染みついていると、暴走してスタートするのです。

無我夢中で走り出してしまう。後半に起きるだろう障害は、「そのときまた考えよう」という発想で今だけを過ごす。

やっぱ中卒が間違いの始まりかぁ、と気づいたのが受験前のお正月でした。

うすうす気づいていたのです。マズイと。このままじゃマズイと気づいていた。しかしハッキリさせるわけにはいかない。今までの苦労が無駄になるから。

結果が出てからさらに気づいた。しまった……、さらに失敗を重ねていた。

たとえ1ヶ月ほどしかなくてもハッキリさせておくべきだったのです。多少は整理できていた。うやむやにせずに向き合うべきだった。最難関は勢いだけで辿り着くほど甘くなかったのです。

合格発表のとき感じました。

想像していた風景ではなかった。頷くように合格する親子をみて、子育ての差を感じたのです。

まだ間に合う。
知識を整理する時間はまだあります。

詰め込んだ荷物をいったん取り出す。
最小限の荷物だけを選ぶ。
そして急いで積み込む。

それなら、この最小限の知識だけは受験の日に使えると思うのです。

多分奥の方でホコリをかぶっている大事な荷物があるはず。大事にしまったはずが、もう忘れかけている。

エビングハウスの忘却曲線は、どのようにトラックに積み込んだかを考慮していない話。

勉強の知識は体系的なものだから、一定量をこえると無意味な音の記憶とは様子が異なるのです。

取り出すときのことを考えて詰め込むとずいぶん違ったカーブを描くことに気づかなかった。あのとき気づいたのは、生きやすいように忘れやすくしてくれることだけだった。

人は思い出したくないこともたくさんあるのだから、すべて鮮明に覚えていたのでは生きにくい。たとえ体系的なものであっても忘れる機能は生きていくうえでどうしても必要。

思い出したくないものは取り出すときのことを考えずインプットされる。これは忘却曲線に任せるとしよう。

でも勉強は思い出すためにインプットしているのだから、積み重ねる方法によって曲線は大きくうねる。

あともう少しで本番を迎える受験生のお父さんお母さん。今から知識の整理を子どもに教えるお父さんお母さん。

少しはうまく伝えられたでしょうか。

2014.11.25 am 0:00

桜井信一

※記事の内容は執筆時点のものです

桜井信一
この記事の著者
桜井信一 専門家・プロ

オンライン塾「下剋上受験塾」主宰。中卒の両親のもとで育ち、自らも中卒になる。 娘の下剋上のために一念発起して小5の勉強からやり直す。塾には行かず、父娘の二人三脚で偏差値を41から70に上げ、100%不可能とされた最難関中学「桜蔭学園」を目指した。その壮絶な受験記録を綴った『下剋上受験』はベストセラーに。 2017年1月には待望のドラマ化。学習講座「桜井算数教室」「国語読解記述講座」にはのべ2000人の親子が参加し人気を博した。2020年、オンラインの「下剋上受験塾」を立ち上げた。

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