医学部進学を目指すために ―― FPに聞く中受と教育費のキホン

専門家・プロ
2019年6月24日 佐藤あみ

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「難関」かつ教育費は高額というイメージの医学部。しかしそれでも目指そうとする家庭は多いです。現在の医学部人気は、「少子高齢化に伴い医療の需要が増えているため、また時代が変わっても“手に職を”と考えるご家庭が多いためでしょう」と語るのは、教育資金設計等のコンサルティングを行うファイナンシャルプランナーの竹下さくらさん。今回は、医学部にかかるマネーについて伺いました。

医学部でかかる出費

医学部は、在学年数が6年と長いこともありその学費は高額なイメージですが、そのなかでも国公立大学と私立大学の差は歴然です。それぞれどのくらいなのでしょう。

国公立大学は、入学料28万2,000円と、授業料年額53万8,000円で、6年間では約350万円。「ただし公立大学は、地域外からの合格者には入学金を高めに設定している傾向があります。地域外から受験をする場合は、入学金は多めに見込んでおきましょう」(竹下さん)

国公立大学 医学部 の学費等の例

学生納付金 金額
入学料 282,000円/入学時
授業料 535,800円/年額
教材購入費 金額
テキスト代など 約150,000円程度/年間
その他諸経費 金額
同窓会終身会費など 170,000円
後援会費(共有試験等受験料を含む) 100,000円
学生教育研究災害傷害保険料 4,800円
学研災付帯賠償責任保険料 3,000円
クラブ・サークル協議会費 4,000円
学友会費 9,500円

一方私立大学は、2,000~5,000万円ほど(6年間の総額)と、国公立大学と比べて桁違いなうえに、大学によってかなりの幅があります。たとえば自治医科大学の場合、入学料100万円と授業料年額180万円、さらに実験実習費や施設設備費が年額180万円かかり、6年間では約2,260万円になります。

私立大学 医学部の学費等の例

学生納付金 金額
入学料 1,000,000円/入学時
授業料 1,800,000円/年額
実験実習費 500,000円/年額
施設設備費 1,300,000円/年額
教材購入費(教科書代など)※1 金額
1年生 約75,000円
2年生 約60,000円
3年生 約130,000円
4年生
5年生
6年生 約160,000円
その他諸経費 金額
学生寮使用料 ※2 8,500円/月額
学友会費 6,000円(6年分)
学生健康保険組合費 12,000円(6年分)
学生教育研究災害傷害保険料 4,800円(6年分)
学研災付帯賠償責任保険料 3,000円(6年分)
学校管理下中特約付普通傷害保険料 2,170円/年額
駐車場使用料 ※3 1,000円/月額

自治医科大学ホームページより作成
※1 履修科目の選択により購入金額が変わります
※2 入寮者のみ
※3 使用者のみ

「加えて留意しておくべき点は、医学部ならではの出費です」と竹下さん。わかりやすいのは、白衣や聴診器。こういった実習備品代は2万円ほどかかります。また、最近は国家試験合格のための専門予備校に通う学生も多く、その費用は200万円を超えるそうです。さらに、下宿する場合は下宿代も準備しなくてはなりません。

「一年間の生活費を仮に150万円として、6年間では900万円近く必要になります。しかも医学部生は、必修科目を1単位でも落としたままにすると卒業できないため授業をおろそかにはできません。勉強が最優先となるので、アルバイトに頼ることは難しいです」(竹下さん)

国公立なのか私立なのか、また下宿があるのかないのかで、必要な費用は大きく変わってきますが、いずれにせよ医学部でかかる費用は、ほぼ家計と貯蓄から工面することになります。

実質的に授業料負担を軽くできる三大学

とにかく大金が必要な医学部ですが、ありがたい仕組みのある大学が3つあります。在学中の学費を借り入れ、条件を満たせばその返還を免除してくれるというもの。竹下さんも「当然人気は高いですが、医学部を目指すなら一度は検討したい」といいます。

まず防衛医科大学。その名から想像できる通り防衛省組織のひとつで、大学卒業後は自衛隊として9年間勤務する義務があります。入学料や授業料、その他の学納金も実質かからないどころか、月に11万円ほどの給料(学生手当)を受け取ることができます。これは入学すると同時に、特別職国家公務員という身分が与えられるためです。

ただし、卒業後の任官を拒否したり、任官途中で離職したりした場合、学費等の返還が必要です。返還額は隊員としての勤務期間によって計算されます。防衛医科大学校医学科学生―自衛官募集ホームページには「平成25年3月の卒業生の償還最高額4,603万円」と記載されています。

次に自治医科大学。地域医療や地方の福祉事業に従事する医師を育成する大学です。入学者全員に入学料や授業料などを貸与してくれ、卒業後に指定の公立病院等に医師として一定期間勤務すると、返還が免除されます。この卒業後の要件を満たせないと、貸与金に所定の利率を乗じて得た額を加えて一括返還することになります。

三大学目は、産業医科大学です。6年間の学費総額3,049万円のうち、6割ほど(1,919万円)貸与を受けられ、実質的な負担は1,130万円(初年度212万円、次年度以降184万円)と、私立のなかでは破格で済みます。

企業の労働環境指導を行う“産業医”を育成する大学なので条件は、卒業後は産業医など指定された職に就くこと。9~11年間勤務することで、貸与額全額の返還義務が免除されます。

三大学とも、家計への負担は少なくて済みますが、将来の選択肢が限定されます。その覚悟があるか、受験前の時点でしっかり吟味してから挑みましょう。

卒業後の地域医療貢献で実質タダ

竹下さんが続いておすすめしてくれたのは「地域枠」。地方都市が貸与してくれる奨学金の一種で、卒業後その地域の医療に一定期間従事することを条件に、入学しやすくしたり、返還を免除してくれたりするしくみです。地方の医師不足や診療費の偏在の対策として広がったもので、全医学部定員の17%(1640人、70大学)※にまで増えています。

各大学の所在地近隣に枠が充てられるのが原則のため地方大学に多いしくみですが、都内にも「東京都地域枠入学試験」というものがあります。順天堂大学、杏林大学、東京慈恵会医科大学の三大学で実施され、入学すると修学費(全額)と生活費(月額10万円)が受け取れます。

「卒業後は、小児医療、周産期医療、救急医療、へき地医療のいずれかの領域で、東京都の指定医療機関において9年間(初期臨床研修期間を含む)以上の期間、医師として従事すれば、奨学金の返還が免除されます。なお、東京都地域枠入学試験の場合は出身地などの制限がありますが、地域枠のある大学では県外からでも出願できるところもあるので、募集要項を確認しましょう」(竹下さん)

ここまででわかったように、高額な医学部進学も工夫次第で負担を軽減できます。しかし、まず目指したいのは、浪人せずストレートでの医学部合格です。それには「中高一貫校をおすすめする」と竹下さん。

「中高一貫校の手厚いサポートは、医学部を目指すご家庭にも魅力的です。高校2年生までで高校の履修内容を終え、高校3年の1年間を丸々医学部受験に備えられる体制のところが一般的です。医師として活躍している先輩の講演を行っている学校もあり、モチベーションを高めることもできます。さらに、入試で行われる面接について、質問内容などの傾向をデータとして持っているのも心強い点ではないでしょうか」(竹下さん)

医学部を目指すことを決めたら、まずは医学部進学に実績のある中高一貫校への入学が、その近道になるかもしれません。

※記事の内容は執筆時点のものです

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