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理科入試、問題を作成する中学校が考えていること|なるほどなっとく 中学受験理科

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2021年1月13日 水溜 兼一(Playce)

学習範囲が広く、難しいイメージがある理科の中学入試問題。難関校に多くの子どもを合格させてきたカリスマ講師・小川眞士さんが、子どもの理科力を育むためのヒントを伝えます。

学習塾ではまもなく新学年の授業がスタートします。これから本格的に受験勉強に取り組むご家庭も多いでしょう。理科の入試問題は、ひと昔前とは内容が変化しています。問題を作成する中学校側の思いについて、小川先生に聞きました。

知識問題から「理科的思考力」を測る問題へシフト

受験生を持つ保護者のなかには、理科は「暗記教科」と認識されている方が多いかもしれません。確かに、理科の入試が知識量を測る問題を中心に構成されている学校も一定数あります。しかし近年は知識量よりも、身の回りの事象を理科的な視点で捉えて考える「理科的思考力」を測る問題が増える傾向にあります。これは難関校、中堅校の垣根を超えた全体的な傾向です。

このような傾向になっている理由のひとつは、「どれだけ覚えてきたか」を問う知識問題がメインでは、記憶力勝負になってしまうことを中学校側もわかっているからです。別の理由としては、理系志向の高まりもあります。近年は子どもを理系に進ませたいという保護者が以前よりも増えてきました。それに呼応するかのように、理系の生徒育成に力を入れる中学校が増えています。女子校のなかでも、吉祥女子中、普連土学園中、光塩女子学院中、洗足学園中などのようにこれまでは文系のイメージが強かったところも、理系の授業に力を入れています。

また、中学校では理科の授業において実験を重視しているところが少なくなく、「理科的思考力」を持った子どもたちを集め、実験を通してレベルの高い授業を提供していきたいと考える先生方もいらっしゃるようです。このような背景も入試理科の問題が変化している要因と考えられます。

さて、入試における「理科的思考力」を測る問題とはどのようなものかと言いますと、仮説、実験・観察、結果の考察について述べた文章を読み、条件を整理しながらさまざまな問題に答えるものが代表的です。また、いろいろな表やデータを読み取らせる問題も増えています。これらの問題を解くためには、単なる詰め込み式の学習では歯が立ちません。普段から身の回りのさまざまな事象に興味を持ち、注意深く観察し、理科的な視点で考える力が求められます。中学受験の理科学習において確実に身につけなくてはいけない基本事項はある程度限られていて、あとはその基本事項をベースに考えれば問題が解けると私は考えています。ですから、知識事項に関してもなんでもかんでも覚えようとするのではなく、何を覚えるべきかという見極めが大事です。

理科の入試問題のテーマは無限

知識量を測る問題から「理科的思考力」を測る問題へのシフトにより、入試理科の問題では、小学校や塾の授業で扱わないテーマやデータが出題されるケースも増えています。小学校での理科の授業は、中学のように第一分野(物理・化学)、第二分野(生物・地学)と分野ごとに分かれているわけではなく、身の回りのさまざまな事象について学ぶという博学的な要素があるので、出題のテーマとしては何でもありの状態です。

小学校の授業内テストは、教科書で学習した範囲に関しての内容が出題されます。中学入試の問題は、中高一貫校の理科の各分野を担当する専門家の先生が集団で作成します。各分野において理科的な整合性があれば、入試で扱うテーマやデータは作成する先生方の裁量に任されています。一例を挙げると、「遺伝子や血液型の組み合わせについての考察」「オオカマキリの産卵と積雪量についての考察」「パスタの折損強度測定」など、小学校の教科書では扱わないテーマやそのデータが扱われたケースもあります。このような出題では問題文に十分な説明があり、仮説、実験・観察、結果考察のプロセスなどについて、受験生が問題を解くためにしっかりとした誘導があり、十分理解し解答に到達できるように問題が配慮されています。

受験生が見たこともないようなテーマを含め、いろいろな問題を出題することで、これまで学んできたことをベースにどのように解くか、受験生の理科的な思考力を中学校の先生方は見たいのだと思います。表やグラフのデータ処理についても、「これぐらいのデータ解釈はしてほしい」という先生方の期待が込められています。

中学校側は、ただ知識事項だけを覚えて勉強した気になり「これは、こういうものだ」と物事を見てしまう子どもではなく、素直な目線でさまざまな事象を見て、そこからわかることを読み取ろうと努める子どもに入学してほしいのだと思います。そのような子どもを入試を通して見つけるために、中高一貫校の先生方は日頃から考え、長い時間をかけてより良い問題を作成しています。

実際に中学校の先生と話をすると、「物事に素直に感動できる子や、理科的な興味を持った子に入学してほしい」とおっしゃいます。このような中学校側の思いに目を向けてみると、理科の受験勉強は覚えることがメインではなく、身の回りの事象を理科的視点で捉えることが大事だと理解できて、学習に対する姿勢がこれまでとは違ったものになってくるのではないかと考えます。


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※記事の内容は執筆時点のものです

小川眞士
小川眞士 専門家・プロ

小川理科研究所(東京都豊島区)主宰。都内の中学校教諭を経て、四谷大塚進学教室理科講師に。開成や桜蔭の特別コースを約25年間担当、コース生28人全員が開成中学に合格した実績を持つ。教務主任や副室長も務めた。2009年4月に小川理科研究所を開設。主な著書に、『中学受験 理科のグラフ完全制覇』(ダイヤモンド社)、『これだけ理科』(森上教育研究所スキル研究会)、『カンペキ小学理科』(技術評論社)がある。

この記事の著者

雑誌・新聞の編集・ライターを経て、現在は、通信教育企業のキュレーションサイトや大学案内のライティングなどを担当。

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