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2021年入試を振り返る【第1回】化学、物理、生物、地学分野の傾向と全体的な特徴|なるほどなっとく 中学受験理科

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2021年3月24日 水溜 兼一(Playce)

学習範囲が広く、難しいイメージがある理科の中学入試問題。難関校に多くの子どもを合格させてきたカリスマ講師・小川眞士さんが、子どもの理科力を育むためのヒントを伝えます。

今回から3回にわたり、2021年理科の入試問題の特徴を小川先生が解説します。1回目は、化学、物理、生物、地学の各分野の問題と全体の傾向について伝えます。

【化学分野】水溶液の問題が頻出。身近な題材を扱った問題も

化学分野では水溶液に関する問題が目立ちました。水溶液の性質(酸性・中性・アルカリ性)、溶質、におい、リトマス紙・BTB溶液の反応などをもとに、水溶液を特定する問題などは定番です。ほかに、溶解、中和、気体の発生に関する基本事項も頻出です。酸素、水素、二酸化炭素などの気体発生グラフもきちんと理解しておく必要があります。

入試では実験器具の名称や使い方がよく問われますが、今年は開成中と桜蔭中でメスシリンダーの読み取り問題が出ました。目盛りを正しく読むための目線の位置のほか、「有効数字」を考えて目盛りを読み取る問題が出題されました。誤差を含む測定値の扱いに関しての問題が、男女難関校で同時に出たことは注目すべきで、今後の入試でも実験や観察に伴う測定値と有効数字の取り扱いに関する問題は増加していくと考えられます。

このほか、身近な題材を使いさまざまな現象に関して理科的に検証する問題も出題されました。洗足中の問題では、親子でキウイフルーツのスムージーを作る一連の会話文を読みながら、キウイフルーツに含まれるたんぱく質分解酵素の性質を考えさせました。吉祥女子中では、水素と酸素の化学反応の問題で燃料電池が扱われました。今年からスタートした大学入学共通テストでも身近な題材を扱った問題が出題されています。今後、中学入試でも同様の問題が増えることが予想されます。

【物理分野】力学に関する問題が増える傾向に

物理分野では、てこ、ばね、滑車、浮力などの力のつり合いに関する問題が目立ちました。開成中では複雑な形のおもりを用いたてこのつり合いに関する問題が出題されました。このような問題は、てこのつり合いを確実に理解したうえで、かかる力に関して一つひとつ地道かつ丁寧に計算していく根気強さが求められます。また、駒場東邦中などで浮力に関する問題が出題されました。浮力に関しては上向き下向きのつり合いについての基本的な理解が大切で、そのうえで表やグラフの読み取りを伴う問題が出題されます。

ものの運動では渋谷教育学園幕張中の問題が特徴的でした。内容は、「電車の運動」を題材に時間と速さの関係を表した表や「v-tグラフ」を読み解きながら加速度運動と等速運動を考え、駅間の距離や電車同士がすれ違うまでの時間などを答えさせるというものです。さまざまな図表を交えて思考し、その上での計算です。ものの運動や力学は問題のバリエーションが広げやすいので、今後も入試でよく取り上げられることが予想されます。

また、鷗友学園女子中ではマジックハンドを題材にばねの問題が出ました。栄東中では支点が二カ所ある、てこのつり合いに関する問題が出題され、最終的に荷物を吊り上げたクレーン車の力のつり合いについて考察しました。生物分野と同様、身近な題材を扱いながら、力のつり合いに関して確実に理解しているかを問う問題が近年目立ってきています。

力につり合い・運動・電気など、物理分野の問題はいずれも原理原則をきちんと理解し、問題を解くときに使うことができるかが勝負の分かれ目になります。理解するべき原理原則は限られていますから、それらを押さえたうえで基本的な問題で力を固め、応用的な問題を解き崩していく演習が必要です。

【生物分野】動植物の観察・実験は得点差がつくテーマ

植物や昆虫などの基本的な知識を問う問題は例年通り確実に出題されています。教科書で扱っている植物や昆虫に関してその基本的なつくりや育ちかたを理解する。植物は、つくりに加えて、働きの基本事項の理解も問題を解くための大前提です。今年の入試で、特徴的だったのは、ヒマワリが発芽したときの状態を上から見た絵を描かせたり、アジのひらきの輪郭に背骨とはらわたの部位を描き入れさせたりする問題です。普段の生活のなかで理科的な視点でいろいろなものを観察する姿勢が問われています。

生物では一つだけ条件を変えてその影響を調べる対照実験がポイントとなります。対照実験に関して考察する問題は得点差がつきやすいことが多いです。

今年は女子学院中で時事的な要素を含む問題が出ました。昨年ニュースになったサバクトビバッタについて、普段のサバクトビバッタを孤独相、群れをつくるサバクトビバッタを群生相として、その比較に関する内容です。東洋英和女学院中では、神経細胞の状態が異なる4種類のハツカネズミを使った実験を通して、神経細胞の機能やハツカネズミの行動を考察する問題が出ました。受験生にとって、どちらも初見の題材かもしれません。しかし、普段の学習で、仮説を立て、実験・観察を行い、結果を考察し、そのうえで良問の演習を積み重ねることで問題の意図を汲み取り、解答を導く力がついてきます。

今年は、生物では浸透圧に関する問題が多くの学校で取り上げられました。野菜の塩もみ、干物づくり、海水魚と淡水魚の体液の考察などアプローチは各校異なりますが、身近な題材から浸透圧について考える問題が目立ちました。

【地学分野】豪雨、台風、猛暑など気象に関する問題が多い

地学分野は、気象に関する問題が目立ち、時事問題も多く取り上げられました(時事問題は次回の記事で詳しく解説します)。豪雨、台風、猛暑など、ニュースになったトピックを入り口に知識を問う問題や、データ・グラフを読み解く問題が出ています。近年は熱中症予防のためにWBGT(暑さ指数)が示されるようになりましたが、洗足中の問題では、WBGTについて乾球温度計と湿球温度計の示度の差を示したデータをもとに、飽和水蒸気量の表の読み取りも交えながら、湿度や水蒸気量を計算する問題が出ました。天体では、太陽、地球、月、星の動きに関する問題も確実に出題されています。

地学分野での知識を問う問題は、塾などで学習する基本的な事項について理解できていれば十分対応できます。そのうえでポイントは、やはり初見の問題への対応です。今年特徴的だったのは、「天空の城ラピュタ」のワンシーンを取り上げて、積乱雲や風向きなどを考えさせる市川中の問題と、江戸時代の不定時法について書かれた文章を読んで時刻を答える桜蔭中の問題です。どちらも長めの文章を理科的視点で読み解く必要がありました。初見であっても落ち着いて文章内容を読み取って内容が理解できるかがカギになります。

問題が長文化。図表やグラフを読み解く問題も増えている

理科の入試問題全体の傾向としては、問題の長文化が挙げられます。今年は首都圏約80校の入試問題で、本文と問題文を合わせた文字数が、平均で約5000文字にもなりました。他教科にも言えることですが、限られた時間内で早く正確に文章を読んで理解する力が理科にも欠かせません。

加えて、図表やグラフを読み解くデータ処理の問題が増えていることも大きな特徴です。特に今年は、グラフ作成や作図の問題も増えました。知識量ではなく、データを処理する能力含めて理科的な思考力を測る傾向が鮮明になりつつあります。

このように変化する入試問題対策として、過去問演習の重要度が増しています。入試では単元ごとにたくさんの小問を瞬発力で解いていくタイプの問題はほぼありません。各校とも、さまざまな単元を統合して大問を作るのが一般的です。各単元で学んだことが入試でどのように問われるのか。過去問という“総合問題”に取り組みながら、長文を読み込み、データを解釈して解答を導き出す力を養う必要があります。合わせて、小学生新聞などのコラムで理科に関連した質の高い文章に親しむなど、日頃から理科的視点で文章を読み解く訓練をしておくことも大切です。


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※記事の内容は執筆時点のものです

小川眞士
小川眞士 専門家・プロ

小川理科研究所(東京都豊島区)主宰。都内の中学校教諭を経て、四谷大塚進学教室理科講師に。開成や桜蔭の特別コースを約25年間担当、コース生28人全員が開成中学に合格した実績を持つ。教務主任や副室長も務めた。2009年4月に小川理科研究所を開設。主な著書に、『中学受験 理科のグラフ完全制覇』(ダイヤモンド社)、『これだけ理科』(森上教育研究所スキル研究会)、『カンペキ小学理科』(技術評論社)がある。

この記事の著者

雑誌・新聞の編集・ライターを経て、現在は、通信教育企業のキュレーションサイトや大学案内のライティングなどを担当。