中学受験ノウハウ 連載 今一度立ち止まって中学受験を考える

偏差値以外の点にも注目したい。わが子に合った学校と出会うために、知っておきたい中堅校の魅力|今一度立ち止まって中学受験を考える

専門家・プロ
2021年5月13日 石渡真由美

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中学受験をするからには、できるだけ偏差値の高い学校に入れたい。そう考える親御さんは少なくありません。しかし親が偏差値の高さにこだわりすぎてしまうと、受験勉強がどんどんエスカレートし、子どもがつらい思いをすることも。では、どうように学校選びをしていけばよいのでしょうか? 今回は中堅校の魅力について、いくつか学校の取り組み事例も挙げながら考えていきたいと思います。

過熱する中学受験。難関校に合格できなければ意味がない?

小学校を卒業すれば、皆が入学できる地元の中学校があるのに、あえてハードな中学受験に挑戦する。受験をするからには、できるだけ偏差値の高い学校へ入れたいと願う親御さんの気持ちはわからなくもありません。しかし、それは親の見栄の部分も大きいのではないかと拝察されます。

中学受験の勉強が始まると、塾のテストや模試などで成績が出ます。お子さんの成績が上向くと、親はつい期待してさらに上の学校を狙えるのではないかと、偏差値の高い学校を目標にさせようとします。しかし、必ずしも偏差値の高い学校が、お子さんにとっていい学校だとは限りません。お子さんの現状の学力を無視して、無理をして上を目指そうとすれば、勉強のやらせすぎで勉強嫌いになってしまったり、頑張っているのになかなか成績が上がらず、「どうせ僕はダメなんだ……」と自己肯定感を下げてしまったりすることにもなりかねません。

なぜ中学受験に挑戦させようと思ったのか、偏差値以外の理由を今一度冷静になって考えてみるべきです。「中高6年間のびのびと過ごさせたい」「海外経験をさせてあげたい」など、さまざまな理由が思いつくのではないでしょうか。それを実現できる学校なら、必ずしも偏差値の高さにこだわる必要はないでしょう。難関校に限らず、偏差値40〜55の学校にも、保護者の皆さんのニーズにこたえてくれる魅力的な学校はたくさんあるのです。

校内にいながら留学気分が味わえる山脇学園

では、いくつか取り組みを紹介しましょう。

山脇学園といえば、お母さん達が中高生だった頃は、人気の女子校でしたね。お嬢さま学校というイメージをお持ちの方もいるかもしれません。しかし、近年は英語教育や理系教育に力を入れていて、大学進学実績も伸ばしています。

山脇学園のユニークな取り組みに「イングリッシュアイランド」があります。イングリッシュアイランドとは、校内にいながら外国に留学したような環境で英語を能動的に学ぶことができるエリアです。校内の一角に学校やカフェ、フラワーショップ、銀行、薬局、シアターなど、イギリスを模した町並みが広がり、そこにネイティブの英語教員がホストとして常駐しています。このエリアでのコミュニケーションは、英語で行うのが原則。放課後は全生徒に開放され、カフェでの英会話、シアターでの映画鑑賞を楽しむことができます。日本の学校に通いながら、海外に留学したような体験ができるというわけです。日常的に活用することで、“生きた英語”を身につけることができます。また、同校では海外研修プログラムも充実しています。

10ヶ月間のカナダ留学がある昭和女子大附属のグローバル留学コース

もっと本格的に英語を学び、海外の大学を目指したい。将来は英語を使って仕事がしたいという人は「グローバルコース」など、実践的な英語教育に力を入れている学校を選ぶといいでしょう。

たとえば昭和女子大学附属中学・高等学校の「グローバル留学コース」では、入学後3年間、留学に必要な英語力、コミュニケーション力、積極性、主体性などをしっかり身につけ、4年生(高1)で10ヶ月間、カナダでホームステイをしながら現地の学校に通うというカリキュラムが組み込まれています。今の時代、2週間や3週間の海外研修を行っている私立中高一貫校は珍しくありませんが、10ヶ月もの期間、海外研修を行っている学校はそう多くはありません。英語が話せるようになるだけでなく、異文化や多様性の理解を深めることができます。何よりも10代の多感な時期に親元を離れることで、人として大きく成長できることでしょう。

学年を超えたゼミ学習がある東京電機大中

課題探究学習に力を入れている学校もあります。たとえば、東京電機大学中学校・高等学校には、「TDU 4D-Lab」というゼミ学習があります。ここでは中学生と高校生が協力し合い、ひとつのテーマについてグループ研究を行います。課題を見つけ、調査し、自ら考え、その成果を発表するという4つのステップのサイクルを通じて、「視野の広さ」「冒険心」「向上心」「共感性」「専門性」の5つの力を育んでいきます。部活動では上下関係になりやすいですが、こうした学年を超えたゼミ学習には互い考えを認めつつ、協力し合うなかで人間形成を育むことができる良さがあります。

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このように、魅力的で新しい取り組みを行っている学校は少なくありません。一方最難関と言われる学校は、古くから続く伝統に縛られ、学校としてなかなか新しいことを始められない実態があります。そのため海外留学制度などは、やや立ち遅れているようにも感じます。もちろん伝統校には伝統校の良さがあるのですが、新しい時代を見据えたときに、時代遅れに感じてしまう面があるのは否めません。

最難関以外の学校が時代に流れに応じて、変化するには理由があります。受験生やその保護者に選んでもらえるような魅力的な学校になるためです。東大をはじめとする難関大学に多くの卒業生を出している難関中高一貫校であれば、自ずと多くの受験生がやってきますが、偏差値40〜55レベルの中堅校は学校数も多いので、他校との違いをアピールしていかなければ、生徒が集まりません。生き残りをかけて、より良い教育カリキュラムを生み出しているというわけです。そのため中堅校の取り組みは、新しい時代に合ったものに変化しやすいのです。こうした特徴は中堅校ならではの良さだと、私は考えています。

どんな経験をさせたいか、どんな学びをさせたいか

いつの時代でも、日本は偏差値の高い学校へ入ることが良いことだと考える傾向があります。みんながそう信じて上を目指すため、限られたパイをめぐって受験が過熱します。一方OECDの学習到達度調査(PISA2018)の結果を見ると、シンガポールや北京、香港など、日本の上位にはアジアの国・地域があり、アメリカやドイツなどいわゆる先進諸国で経済水準の高い国々は決して上位にきていません。そもそも世界では、偏差値の高さで学力を判断しません。グローバル化が進むなか、日本だけの判断基準で物事の善し悪しが決められなくなっています。偏差値の高さだけで学校を選ぶ時代ではなくなってきているということです。

コロナ禍にいる今でさえ、先の見通しが見えないのですから5年後、10年後に世界がどうなっているかなど、予測がつきません。そんな時代を生き抜いていくためにも、やみくもにただ「偏差値が高い」というだけで難関校を目指すのではなく、自分の力を伸ばすことができる学校を選ぶべきです。そうして選んだ結果、難関校に進学するのはもちろん構いませんが、難関校だけが「価値のある学校」としてそれ以外を切り捨ててしまったのでは、あまりにもったいない話です。

中高の6年間にどんな経験をさせたいか、どんな学びをさせたいか、どんな力を伸ばしてあげたいか。それを考えて選択することが、中学受験する大きな意味だと私は思います。幸い、首都圏にはたくさんの学校があります。ぜひ多くの学校を実際に見て、「わが子が伸びていきそうな学校はどこか」という視点で、学校選びをしてみてください。


これまでの記事はこちら『今一度立ち止まって中学受験を考える

※記事の内容は執筆時点のものです

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