連載 中学受験との向き合い方

受験生の心を支える“エンタルメルス”を取り入れる ―― 中学受験との向き合い方

専門家・プロ
2021年9月08日 やまかわ

首都圏の一部では、4人に1人の小学生が挑戦するともいわれる中学受験。子供の受験に親はどう向き合えばよいのでしょうか。この連載では、『中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由』の著者である、田中純先生に中学受験との向き合い方をテーマにさまざまな話を伺います。

勉強なしに志望校に合格することはできません。しかし、着実に力をつける勉強をするには、適度な気分転換も欠かせません。現在はコロナ禍で、リフレッシュの方法が限られる家庭も多いかもしれませんが、自宅でできる気分転換のやり方はたくさんあります。今回は受験生の気分転換を助ける“エンタルメルス”について解説します。

“エンタルメルス”とは

エンタルメルス。これは私の造語で、エンターテインメントとメンタルヘルスという言葉を掛け合わせたものです。溜まっていくストレスをエンタメで解消し、心の免疫力(メンタルヘルス)を高め、乗り越えようという発想です。

エンタメというのは演劇や音楽、アート、演芸など見ていて楽しい気持ちになったり、感動したり、人々の心が動かされる娯楽のことを指します。エンタメに触れて笑ったり泣いたりすることで「スッキリした!」という経験は、多くの人が持っているはずです。

エンタルメルスに話を戻しましょう。エンタルメルスにあたる行動は、ご家庭によってさまざまです。テレビ番組や映画を見ることもエンタルメルスに挙げられます。

中学受験生へのおすすめは、家族みんなで一緒に楽しむことです。以前の記事で『Fan time together』という考えを紹介しました。家族みんなで同じ時間を共有することは、子供にとって一生の宝物になりうるものです。こうした思い出は「あの頃は楽しかったな」「もう一度あんな時間を過ごしたいな」というように、勉強の合間にモチベーションを高めるのに役立つことがあります。そして何より、家族がチームとなってわが子の挑戦を支える、そのためのチームビルディングの効果が期待できます。

子供が頑張りすぎているように感じたときは、家族みんなで笑い合える時間を意識的に持ってほしいと思います。たとえば家族そろって『笑点』を見てみること。笑点は大人が見ても子供が見てもほどほどに笑える番組です。テレビ以外であれば、ボードゲームなども良いですね。最近ではいろんな種類のボードゲームが発売されていて、コミュニケーションを取りながら楽しく遊べます。日曜日の夜に家族みんなで笑いの時間を共有し、これから始まる一週間を頑張って過ごせるようにやってみる、というのもおすすめです。

エンタメというと、真っ先に笑いを思い浮かべますが、泣く体験も立派なエンタメです。感情が煮詰まっているようなときは、涙を流してリフレッシュするのもひとつの方法です。淡々と日常を過ごしていると、涙を流す機会はそう多くありません。しかし、エンタメの世界には感動する作品がたくさんあります。こうし作品を家族で見てみるのもよいでしょう。自分が直接つらい体験をしているわけではないけれど、画面の向こう側の人に共感して嬉し涙や悔し涙を流すという行為は、心の自浄作用につながります。

またさまざまな作品を楽しんだあとに、家族みんなでそれぞれの気持ちや感想を語り合うこともよいと思います。自分以外の人の考えを聞き、感想を語り合う経験は、多様なものの見方にも繋がります。相手の気持ちを読み解いたり、想像したりする貴重な時間になるでしょう。

家族の“推し”は何だろう

軽く体を動かしたり、お茶を飲んでゆっくりしたり。具体的なアクションを伴うのが気分転換の基本形です。ただ、その応用として、行動が伴わない気分転換もあります。たとえば“推し”について思い起こすことです。

“推し”というのは、自分にとって最もお気に入りのアイドルやアスリートを指す表現ですね。イチオシという言葉に近しいものなのでしょう。イチオシの感覚は一般的な気分転換とはまったく別で、何かをイメージして心から没頭する行為です。自分以外の他者を“推す”ということは、何かに恋するような、とても幸せな感覚なのだろうと想像できます。

「受験が終わったらライブ映像を見よう」「今日は夜に試合がテレビ中継されるから、それまで勉強を頑張る!」というように、“推し”を思い起こすことで、モチベーションが回復することがあります。お子さんの活力になる“推し”は何でしょうか? 親御さんの“推し”は何でしょうか? わが家の“推し”からエンタルメルスを考えるのもよいでしょう。

家族写真がもたらす“推し”感覚

アイドルやアスリートだけではなく、家族に向けても“推し”の感覚を養うことができます。たとえば、家族写真をいつも目に見える場所に飾っておくこと。子供が小さい頃に家族旅行をした写真や家の前での集合写真などです。なかには、家族全員がニコニコとした表情で写っているものがあるはず。そうした瞬間の一枚を家のどこかに貼っておくと、それを見るたびに「ああ、こんな時間もあったよね」と思い出すことができます。

大事なのは、スマホの写真ではなく、現像した写真を家のどこかに貼っておくこと。スマホの中に入っているだけでは、意識的に自分で開かない限り写真を見ることができません。何かにつけて写真が視界に入る状況が良いのです。何回も目に入ることで、頭の中に自然としみついていくものですからね。楽しい思い出に背中を押されることは、大人でも子供でもよくあること。家族の思い出をうまく活用してみましょう。

人生の応援歌

エンタメを話題にしたのに実例がないのも寂しいので、ここで私にとって極め付きの応援歌をご紹介します。それは10歳の夏休みに母と見た映画『サウンド・オブ・ミュージック』です。そう、中学受験活動の開始時期ですね。この映画にはエンタルメルスを語る材料がたくさん盛り込まれていますが、劇中の名曲から「すべての山に登れ(Climb Every Mountain)」という曲を、“推し”に挙げたいと思います。

この曲は、all the mountainsではなく、every mountainというところがポイントです。日本語では「すべての山に登れ」と訳されますが、”Climb every mountain”の趣旨は「あなたの進路にある一つひとつの山に登りなさい」という意味です。百名山だってすべて登るのは至難ですから、すべて(all)の山を登るというのは非現実的ですよね。途上にある一つひとつの山、山が象徴する試練や困難から逃げずに一歩ずつ乗り越えていくということです。

中学受験シーンでも、さまざまな困難が立ちはだかるでしょう。ストレスに苛まれることもあると思います。そんななかでも気分転換しながら粘り強く、一つひとつ挑戦し続けよう――そういったメッセージを読者の皆さんに伝えたいですね。

家族・子供に合ったエンタルメルスを取り入れる

勉強はその時間をどう過ごしたのか、すなわち質も問われます。いろんなことを我慢して積極的に勉強をするのは、過酷なことです。くじけずに勉強を続け、「受験してよかった」と笑顔で中学受験を完走するには、その過酷さに耐えうるだけのメンテナンスも必要です。家族・子供に合ったエンタルメルスを上手に取り入れて、家族チーム一丸となって中学受験を乗り越えていきましょう。Clime every mountain till you find your dream!

■お知らせ
田中純 先生のセミナーが、2021年 10月19日(火) 10:00~ @zoomオンラインで行われます。テーマは「中学受験どうやり抜くか?」。興味のある方は、ぜひこちらを御覧ください♪
https://coubic.com/ccn/730510


これまでの記事はこちら『中学受験との向き合い方

※記事の内容は執筆時点のものです

田中純
田中純 専門家・プロ

開成中学校・高等学校、国際基督教大学(ICU)教養学部教育学科卒業。神経研究所付属晴和病院、中高教諭、学校カウンセラーを経て公文国際学園開講準備に参加。現在は赤坂溜池クリニックやNISE日能研健康創生研究所などでカウンセリングやコンサルテーションを行っている。「一家にひとり、一課にひとりのコミュニティ・カウンセラー」を育てることを目標としている。著書「ストレスに負けない家族をつくる」「中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由」(みくに出版)

この記事の著者

編集・ライター。学生時代から都内で6年間塾講師を務める。塾講師時代は、おもに作文・国語・英語の科目を担当。小学生から中学生までの指導にあたる。現在は編集・ライターとして教育関連をはじめ、街歩き・グルメ記事の執筆取材をおこなう。