
「やる気がない我が子」の解像度を上げよう―― 親子のノリノリ試行錯誤で、子供は伸びる
こんにちは、中学受験専門塾 伸学会代表の菊池です。
あなたのお子さんは、自発的に勉強に取り組んでいますか?
もしなかなか勉強に取り組んでくれないとお悩みなら、今回の記事はきっとお役に立つのではないかと思います。
子どもが勉強に対してやる気にならない理由と、解決策をお伝えしますので、ぜひ参考にしてみてください。
なぜ子どものやる気を引き出せないのか?
「うちの子がやる気を出してくれない」と悩む親御さんはたくさんいらっしゃいます。
これまでに、保護者セミナーでも、塾生の保護者さんとの面談でも、何度も何度もそうした相談を受けました。
そういうご家庭に、「では、なぜやる気を出してくれないんだと思いますか?」と聞いても、多くの場合答えられません。「たぶんこうだと思います」という仮説すら出てこないのです。
そして、やる気が出ない理由もわからないまま、「やる気がない!」「やる気を出せ!」と叱咤し続けていたりします。
その結果、やる気が出ない状況がずっと続いたり、勉強が嫌いになってますます勉強しなくなる悪循環に陥ったりしています。
原因がわからなければ、有効な対策が打てないのは当然ですよね。
子どものやる気を引き出すためのアプローチは、体調不良を治すのに似ています。
もしあなたのお子さんが「お腹が痛い」と言ったらどうしますか?
もちろん、お腹が痛い理由をまずは考えるでしょう。あなたが自分でわからなければ、病院でお医者さんに診断してもらうでしょう。そして、原因に合わせて、薬を飲むなどの対応をするでしょう。どんな病気も治す魔法の薬はありません。まずは原因の特定が必要です。問診や検査を受けて、原因を見つけていくのです。
子どものやる気を引き出す際も同じです。
本人と話をしながら、やる気が出ない原因を特定していくことが、効果的な対策を打つためのはじめの一歩です。
①「やる気がない」とはどういう状態だろう?
ではここで「やる気がない」とはどういう状態かを考えてみましょう。
相談の際に親御さんがおっしゃる「やる気がない」の意味は、人によってバラバラでした。
たとえば、ある方は勉強に対しての「興味・関心がない」という意味でおっしゃっていました。
また、別のある方は「やらなきゃいけないという納得感がない」という意味で使っていました。
また、「やらなければいけないことを実行する意志の力がない」という意味で使っていた方もいます。
こうして並べてみると、一言で「やる気がない」と言ってもその意味合いは曖昧で、解像度が粗いことがお分かりいただけるかと思います。
そして、この曖昧さによって、親子の間ですれ違いが生まれることが多々あります。
たとえば、子どもが「やらなきゃいけないことはわかっているけど、どうしてもやりたくない」と感じていたとします。
こうしたことは特に受験前にはありがちです。
不安や焦りから、勉強が手につかなくなってしまうのです。
本人もそれではいけないとわかっています。
そんな状況で悩んで、「やる気が出ない」と親御さんに相談したとします。
そのときに、親御さんが「やる気が出ない」という言葉の意味を「やらなきゃいけないという納得感がない」と解釈したらどうなるでしょうか?
きっと、なぜ勉強をやらなければいけないか、子どもに力説することでしょう。
そうすると、子どもとしては、やらなきゃいけないけどやれなくて悩んでいるのに、ますますやらなきゃいけないという思いばかりが強くなって、追い込まれることになります。
あるいは、親御さんが「ただ怠けているだけ」と受け止めてしまったらどうでしょうか?
受験生としての自覚が足りないと、一方的に叱責してしまうかもしれません。
そうなると、子どもは自分で受験生失格だと感じ、無気力になってしまうことも考えられます。
いずれのケースでも、状況は悪化します。
そして、ますますつらい状況になり、そこから目を背けるためにゲームやYouTubeに逃避するかもしれません。
親が抱く問題意識と、子どもの実際の状態との間に、ギャップがある状態ではうまくいきません。
「やる気がない」とはどういう状態なのか、解像度を高めていかないと、打つ手を間違えてしまうことがお分かりいただけたでしょうか。
あらためてですが、「やる気がない」という状態を具体的に分解し、どの部分に課題があるのかを明確にしていきましょう。
先ほど挙げた「興味がない」「納得感がない」「意志の力がない」以外にも、疲れていて「元気が出ない」ということもあります。
さらに、「意志の力がない」、つまり「やりたくないと感じている」という場合も、理由はもっと細かく分けると、「難しくてできる気がしない」「今じゃなくて後でいいと思っている」「他にやりたいことがある」などいろいろなパターンがあります。
1つではなく、いくつかの要因が絡み合っているかもしれません。
こうした様々な可能性を1つ1つ検討していく必要があります。
検討する際には、たとえば、「子どもはどの場面でやる気がなくなるのか?」「どのような状況ならやる気を出すのか?」といった具体的な行動パターンを見つけ出しましょう。
それが原因特定のヒントになります。
「勉強に取り組むのが面倒くさい」と感じているのか、「自信がなくて避けている」のか、あるいは単に「疲れて休みたいだけ」なのかを見極めましょう。
この解像度の向上によって、適切なサポートが可能になります。
②意欲を捉えるARCSモデル
「やる気」をより具体的に考えるとき、その中核にあるのが「意欲」です。
意欲とは「何かをしようと思う気持ち」を指し、行動のきっかけとなる重要な要素です。
しかし、この意欲もまた漠然と捉えられがちで、何がそれを引き起こし、維持するのかについては、十分に理解されていないことが多いのではないでしょうか。
ここで役立つのが、意欲を構造的に分析するARCSモデルです。
このモデルは、意欲を「注意(Attention)」「関連性(Relevance)」「自信(Confidence)」「満足感(Satisfaction)」という4つの要素に分解し、それぞれを具体的に高める方法を示しています。
これにより、子どもの意欲の状態を詳細に理解し、適切なアプローチを考えることが可能になります。
1. 注意(Attention):「面白そう」と思わせる
まず、意欲の出発点となるのが「面白そうだ」と思わせることです。
どんなに重要な課題でも、注意を引けなければ始まりません。
子どもが興味を持つきっかけを作るためには、教材や方法に工夫が必要です。
たとえば、理科の実験や歴史にまつわる謎解きゲームなど、子どもが「もっと知りたい」「自分もやってみたい」と感じる活動を取り入れることで、最初の一歩を踏み出しやすくなります。
また、親子でテーマに沿った会話をすることや、面白い関連本や動画を一緒に見ることも効果的です。
注意を引くための多様なアプローチを試してみましょう。
2. 関連性(Relevance):学ぶ意味を感じさせる
注意を引いた次に重要なのが、「それを学ぶことが自分にとって意味がある」と感じさせることです。
これは子どもの意欲を大きく左右します。
勉強の意義を実感できなければ、たとえ興味があっても持続的な学習にはつながりにくいものです。
具体的には、学ぶ内容が日常生活や将来の目標にどのように関係するかを説明することが有効です。
たとえば、「算数ができると買い物のときに量と値段を見比べてどれがお得かわかるよ」「英語が話せると旅行で便利だよ」など、子どもの身近な体験や将来の夢と結びつけて伝えると良いでしょう。
さらに、子ども自身に「これを覚えると何ができるかな?」と考えさせることで、主体的に学ぶ姿勢が生まれます。
3. 自信(Confidence):自分にもできると思える
意欲を持続させるためには、「自分にもできそうだ」という自信を育むことが欠かせません。
自信がないと感じると、子どもは学習に取り組む前から諦めてしまいます。
この自信を育てるには、成功体験を積み重ねることが大切です。
課題の難易度を調整し、小さな成功を経験させましょう。
たとえば、少し簡単な問題から始めて段階的に難しくしていくことで、できたときの達成感を感じやすくなります。
また、テストの結果だけを評価するのではなく、「昨日よりも集中できたね」「これを自分で解けるなんてすごいね」といった努力そのものを褒めることで、自分の成長に気づけるようサポートします。
4. 満足感(Satisfaction):やってよかったと思わせる
最後に重要なのが、学習の結果得られる満足感です。
「やってよかった」「自分でもやればできる」と感じられれば、その行動は繰り返されます。
この満足感を高めるためには、達成感を感じられる仕組みを作ることが効果的です。
たとえば、学習した内容を活かせる場面を設けるのも一つの方法です。
学んだ知識を使って家族にクイズを出したり、親子で実生活の中で使ってみたりすることで、「勉強したからこれができるようになった!」という実感を持たせます。
また、結果が出るまでのプロセスを楽しめるような工夫も有効です。
たとえば、勉強をゲーム化して、ポイント制や達成感を視覚化することも役立ちます。
やる気がない原因を見極めることが最初の一歩
子どもの「やる気がない」状態の原因は、上記のどれかが欠けていることが多いものです。
注意が引けていないのか、関連性を感じられていないのか、自信が足りないのか、満足感が得られていないのか。
これらを見極めることで、「やる気がない」という漠然とした問題を具体的なアプローチに分解することができます。
親や周囲の大人が「なぜやる気が出ないのか」に注意を払い、欠けている部分を補う工夫をすることで、子どもが自分から学びに向かう姿勢を育てることができます。
そして、すべての要素が揃ったとき、子どもは「やる気がないように見える」状態から脱し、自発的に行動できるようになるでしょう。
③意志は、条件を整えることで対応
「意志」とは、困難や面倒を感じても、やらなければいけないことを実行する力を指します。
とても大切な力です。
しかし、この意志の力に過度な期待をしてしまうと、子どもが「頑張れない」「やりたくない」と感じたときに親子ともに挫折感を味わってしまうことがあります。
意志は誰にとっても無限ではありません。
それを補うためには、意志そのものに依存するのではなく、「意志の力がなくてもなんとなく行動を続けられる環境」を整えることが重要です。
意志の力に頼りすぎてはいけない理由
多くの親が、子どもが行動を起こさない理由を「意志が弱いから」と考えがちです。
しかし、心理学の研究によれば、人間の意志の力とはそもそもとても弱いものだということがわかっています。
大人だって、たとえば、「毎日運動しよう」「早起きしよう」と決めても、気分が乗らないときや疲れているときには続けるのが困難です。
あなたにもきっと、やろうと思ったのに続けられなかったことがいろいろとありますよね。
まして子どもであれば、勉強や習い事などに取り組む際、意志の力を発揮できない事があるのは普通のことです。
意志の力に頼らずとも自然に行動に移れるように、環境を整えることが必要です。
行動しやすい環境を整える上では、以下のポイントを意識すると良いでしょう。
1. 学習を習慣化する
習慣化された行動は、意志の力を必要としません。
たとえば、毎日同じ時間に勉強を始めるリズムを作ることで、子どもは意志の力を使わずに自然と机に向かうようになります。
リズムを崩さないよう、週末も同じ時間帯で取り組むようにするとよいでしょう。
2. 学習を簡単に始められる状態にする
取りかかるハードルが高いと、子どもは「何をすればいいかわからない」と感じ、行動を始める意志が削がれます。
勉強道具を整理して手が届きやすいところに置いたり、次に解く問題集やページをあらかじめ開いておくようにしたりしましょう。
3. 行動を促すトリガーを設定する
特定の行動に結びつく「きっかけ」を用意することで、意志に頼らずに行動を誘発できます。
たとえば、「食事の後は勉強時間」というルールを作ったり、アラームをかけておいて、時間が来たらすぐにわかるようにしておいたりすると良いでしょう。
4. 親も一緒に行動する
子どもが一人で頑張らなくてもいいように、親や兄弟が一緒に机に向かってあげましょう。
一緒にやる仲間がいるだけで、自然と勉強に取り組める環境が作れます。
親も読書や仕事をしながら子どもの横で勉強に付き合い、学習内容について質問を受け付ける体制を整えてみてください。
意志を鍛えるより、環境を整える
「意志が弱い」と感じたときにすべきことは、意志を鍛える努力ではなく、意志を補う仕組みを整えることです。
子どもが「なんとなくでも机に向かう」「無意識に学習を始める」状況を作り出すことで、行動を持続させることが可能になります。
そうした意志を必要としない仕組みの中で、子どもが努力を重ねるうちに自然と成功体験が積み上がり、意志の力も徐々に育っていきます。
我が子をよく見ることから始めよう
あらためて最後にまとめですが、子どもが勉強に対してやる気がないと感じたら、その原因を深掘りし、解像度を高めましょう。
我が子の「やる気がない」というのは、より具体的に言うとどういう状態か、なぜその状態なのか、把握するように努めましょう。
原因がわかれば適切な手を打ち、状況を変えていけますよ。
p.s.
今回の記事は、1月に出版された私の新刊『中学受験 親がやるべきサポート大全』(SBクリエイティブ)からの抜粋になっています。
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※記事の内容は執筆時点のものです
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