中学受験ノウハウ 連載 今一度立ち止まって中学受験を考える

中学受験は4教科のバランスが大事|今一度立ち止まって中学受験を考える

専門家・プロ
2018年12月04日 石渡真由美

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はじめまして。東京の吉祥寺で中学受験専門塾「アテナ進学ゼミ」を運営しています、宮本毅と申します。学生時代の講師バイトから始まり、大手進学塾での指導経験を経て、2006年に独立。トータルで約30年中学受験の指導に携わっています。

首都圏の中学入試に必要なのは、国語・算数・理科・社会の4教科です。多くの受験生が通う大手進学塾では、各教科に専門の先生がいて、それぞれの教科を指導しています。しかし、「アテナ進学ゼミ」では、受験に必要な全教科を私が一人で教えています。

大手塾にはできなくて小規模塾だからできること

受験に必要な全教科を一人で教えるのはなぜか?

まず、私自身がこれまで全教科を教えてきた経験がある、というのは大きいと思います。でも、本当の理由はそれではありません。

中学入試は4教科の総合点で合否が決まります。中学受験に挑む子ども達は、小4~6の3年間かけて、国語だけでも、算数だけでもなく、4教科を学び、その総合的な力を試されることになります。それには、全体のバランスを見ることが大事です。

生徒の本当の力を把握し、伸ばすためには、各教科で専門の先生が指導するよりも、一人の教師が全教科を見るほうがベストではないか。それが、長年中学受験の指導に携わってきた私の持論であり、「アテナ進学ゼミ」のコンセプトでもあります。

しかし、それには限界もあります。アテナ進学ゼミでは、現在小4~6まで約50人が在籍しています。一人の教師が教えるのですから、当然コマ数も、1クラスあたりの生徒数も限られてしまいます。経営者の立場からすると、あまり効率的ではありません。でも、私はそれでいいと思っています。

中学受験は小学生の子どもが挑む受験です。この時期の子どもは成長差が大きく、たとえ学力ごとにクラス分けをしても、理解するスピードに差が生じてしまいます。しかし、大手進学塾は年間のカリキュラムが決まっているので、「今日はこの単元を学習する」となったら、クラスのみんなが理解できていなくても、先へ進んでしまいます。

でも、1学年1クラスの小規模塾であれば、生徒一人ひとりに向き合って指導ができます。「アテナ進学ゼミ」では、偏差値30~70の子どもがひとつの教室で学んでいます。単元の説明は一斉に行いますが、当然学力によって理解度が異なります。そこで、理解できた子は自分で演習を行い、理解できていない子にはフォローをするというやり方で進めています。

中学受験は、最終的には自分との勝負になります。みんなと一緒に学ぶことはよい刺激にはなりますが、生徒一人ひとりの学力を伸ばすことを考えてみると、必ずしも一斉授業が良いというわけではないのです。

多くの受験生を潰す大量の宿題

大手進学塾による弊害は他にもあります。それは、宿題の量の多さです。先ほども言いましたが、大手進学塾では各教科専門の先生が指導をします。

塾は進学実績ありきの世界ですから、塾の先生に対するプレッシャーもあります。各教科の先生は、自分が指導した教科の成績を上げるためにたくさんの宿題を子ども達に課します。

しかし、塾では各教科で横のつながりがあまりありません。どの教科にどのくらいの宿題が出ているのか把握しないまま、それぞれの教科から宿題が出されます。そうなると、大変なのは子ども達です。

実は私も30年以上前に中学受験を経験しています。その頃も、もちろん宿題はありましたが、今の量とは比べものにならないほど少なかったと思います。

また、各学校の入試問題は年々難化しています。何年か前には難問と言われていた問題が、今はスタンダードな問題として扱われています。つまり、年々、受験生の負担が大きくなっているということです。

私が一人で4教科を教えることにした理由の一つに、こうした「宿題の量の問題」があります。教える側が一人なら、「今週は算数のここの単元が重要だから、算数の宿題を多くしよう。その代わり、理科と社会は少なめにしておこう」と調整ができるからです。

中学受験の勉強で大事なのは、やらせすぎないことです。小学生の子どもにとって、受験勉強に必要とされる3年間はあまりに長い。だからこそ、無理なく進めていくことが大事なのです。

近年増加している教科横断型入試にも有効。1回の授業で理科も社会も学べる

一人の教師が4教科を教えるメリットは他にもあります。

中学受験の入試は、国語・算数・理科・社会の4教科それぞれで実施されます。しかし、近年、社会の入試に理科的な要素が含まれていたり、国語の論説文に自然科学の内容が扱われていたりと、教科を超えた横断型の入試が増えています。

こうした入試に対応するには、幅広い知識が必要です。しかも、それを単独で覚えるのではなく、つながりで学ぶことが私は大事だと考えます。

例えば社会でリアス式海岸の話が出てきます。リアス式海岸は入試にも出やすく、塾の先生からは必ず覚えるように言われます。でも、それがどうやってできるのか地学的な話までは触れません。なぜならそれは理科の分野だからです。

また、国語の物語文では戦争の話がよく出ます。授業では主人公の心情を時代背景や登場人物の会話・表情などで読み解いていきます。おそらくその時代がどんな暮らしであったかは、少しは触れるでしょう。でも、詳しくは説明をしません。なぜなら、それは社会の歴史の分野だからです。

私たちの暮らしは、国語も算数も理科も社会もすべてつながっています。ここまでは社会、ここからは理科といったように、分けること自体が不自然なのです。でも、大手進学塾では、教科ごとにその日に教えるカリキュラムが決められているので、先生がもう少し話を膨らませてあげたいなと思っても、それが難しいのが現実です。

私自身も大手進学塾に勤めていたときに、そのはがゆさを感じていました。でも、一人の教師が4教科を教えていれば、それは可能です。むしろそれが最大のメリットだと思っています。

実は中学受験4教科で一番大事なのは「国語」

中学受験は4教科の総合点で合否が決まります。しかし、中学受験界では、「算数が得意な子が有利」と言われています。なぜなら、算数は4教科の中で最も得点の差が開きやすい教科だからです。

しかし、私はその考えに懐疑的です。確かに得点差の武器になるのは算数です。でも、中学受験で一番大事なのは国語だと思います。

というのは、国語で培われる読解力が不足しているために、算数や理科・社会が伸び悩んでいる子がとても多いからです。

例えば、算数でこんな問題が出題されます。

AくんはBくんの3倍のお金を持ち、Cくんの2倍のお金を持っています。全員の所持金が2200円だった場合、Aくん、Bくん、Cくんはそれぞれいくら持っているでしょう。

こうした問題が出たとき、読解力のない子は、「BくんはCくんの2倍のお金を持っている」と勘違いしたり、出てきた数字をただ掛けてみたりします。実はこういう子がとても多いのです。

また2020年の大学入試改革では、これまで選択回答が中心だった大学入試センター試験に代わり、「思考型」「記述型」の入試問題が共通テストで出題されることが決まっています。中学受験の世界では難関校を中心に「記述・思考問題」はずっと出題されていましたが、今後は中堅下位の学校でも、こうした「思考型」「記述型」の入試問題が、さらに増えていくと予想されます。

例えば、理科や社会なら、従来は暗記勝負でくぐり抜けることができました。しかし、こうした思考型や記述型の問題になると、考えるための条件や資料が必要で、自ずと問題文が長くなります。

もし、今の中学受験の入試問題を見たことがないという親御さんがいたら、ぜひ書店にある赤本を手に取ってみてください。昔から難関校は問題文が長いことで知られていますが、今は中堅校でもかなり長い問題文が出題されています。

こうした長い文章を目の前にしたとき、「うわぁ、こんな長い文章は読めないよ」「めんどうくさいなぁ~」と思ってしまう子は、正直中学受験には向きません。

国語の読解力の伸ばし方は、また別の機会に説明をしていきたいと思っていますが、中学受験で一番大事なのは、「問題を読む力」=「読解力」であることをしっかり覚えておいて欲しいと思います。


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※記事の内容は執筆時点のものです

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