中学受験ノウハウ 連載 書籍『やってはいけない塾選び』杉浦由美子さんに訊く

「サピックスは親が大変!」という悲鳴はなぜ起こる? 人気中学受験塾の正しい使い方とは 書籍『やってはいけない塾選び』杉浦由美子さんに訊く#5

専門家・プロ

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中学受験塾のなかでも、その高い難関校合格実績から、圧倒的な存在感を放つサピックス。いっぽうで、実際にサピックスに子どもを通わせている保護者からは、こんな声が聞こえてくるという現実もあります。

「宿題の量が多くてぜんぶやらせるのが大変!」「塾のフォローがあまりにも手薄いのでは?」

中学受験の成否を大きく左右する塾選び。子どもをサピックスに入れてから「こんなはずではなかった」と後悔しないために、保護者が知っておくべきことは何なのでしょうか? うまくサピックスを使いこなし、子どもを志望校に入学させるために、親がすべきことは?

中学受験の入門書としても評判の『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)では、サピックスの実態についても具体的に言及されています。著者でノンフィクションライターの杉浦由美子さんに訊いてみました。

書籍『中学受験 やってはいけない塾選び』

「サピックスは親が大変!」はなぜ起こる?

――サピックスに入ると親が大変だという声はよく聞きますが、実際に、保護者の負担はほかの塾とそこまで違うものでしょうか? たとえば、同じ大手塾である早稲田アカデミーも、やはり宿題の量は多いと思うのですが……。

サピックスと早稲田アカデミーの違い

サピックスでそういう声が多いのは理解できます。宿題の量そのものが多いというよりも、サピックスと早稲田アカデミーではメソッド自体が違うからです。

早稲田アカデミーは、生徒が理解できない様子だと、授業の後に補講をやったりして、塾の中で生徒にじゅうぶんに理解させてから宿題を出します。生徒は塾で習ったことの復習を宿題としてやるから、そこまで大変じゃないわけです。つまり勉強のメインは塾でやっていて、サブとして家でやる宿題が出るわけです。

ところが、サピックスは授業時間が短く、授業は「入り口」で、家での宿題がメインになります。もちろん、短い授業時間ですべて理解する生徒も一部にはいますが、ほとんどの生徒は、まだじゅうぶんに理解していない状態で帰宅します。そこから、宿題を通して、内容を理解していくわけです。当然、子どもは苦戦しますよね。

また、サピックスは自習室もありませんし、質問も基本、授業の後にしかできません。

こうなると、家で、親御さんがお子さんを指導する必要が、どうしても出てきます。

サピックスに入れるなら親も勉強すべき

――塾にお任せではうまくいかないわけですね。「親が子どもを指導する」とは、具体的には、どういうことをすればいいのでしょう?

サピックスでは、『学習計画法』という冊子を配布します。

これが、素晴らしい内容なんですよ。各単元……つまり、「旅人算」なら「旅人算」の学習のポイントや勉強の仕方を端的に説明しています。

サピックス生の保護者は、この冊子を読んで、勉強の仕方をお子さんに指導する。これがいわば、サピックスという塾の正しい「使い方」なのです。ただ、『学習計画法』の内容を理解するためには、親御さん自身もその単元を理解している必要があります。ようは、親御さんが、中学受験対策で学ぶ内容を、基本的にすべて把握していた方がいいでしょう。

――全部ですか!? それは確かに、かなり親を選ぶというか、とくに自分で中学受験を経験していない保護者にとっては、かなり高い壁という気がしますが……。

もちろん、完璧に把握する必要はありません。ただ、基礎的なことはわかっていたほうがいいと思います。また、中学受験経験者の親御さんにとっても、やっぱり大変は大変なんです。子どものころにやったことなんて、もう忘れちゃってますからね。

大学時代に4年間、サピックス算数講師をやっていたというパパさんにお話をうかがったことがありますが、さぞかし順調なのかと思いきや、「大半は忘れているし、覚えている箇所も解き方が進化しているから、古い知識だけでは対応できない!」と嘆いていました。

受験経験者か未経験者に関わらず、保護者も時間を割いて、勉強しないといけないということです。

街なかで見かけるサピックス生家族の姿

サピックスの近くのカフェやファミレスで、小学生が宿題をやっていて、横で親御さんがテキストを読んでいる姿を見かけることがあります。あれはサピックス生とそのご家族の姿の「正解」なんです。

わからない問題を教えてあげるためというよりも、子どもがなにを勉強しているかを把握してないと、ちゃんと管理できないし、指導することもできない。だから、子どもが勉強するだけでなく、親御さんも勉強する必要があるわけです。

――「サピックスは親が大変」の中身が、少しわかったような気がします。わが子をサピックスに通わせるには、保護者にも覚悟が必要だということですね。

サピックスにわが子を入れる前に知っておくべきこと

――たとえ負担が大きいとしても、サピックスの高い難関校合格実績に魅力を感じる保護者は多いと思います。改めて、サピックスへの入塾を考えるなら、保護者は何を理解しておくべきなのか、杉浦さんの考えを聞かせてください。

「サピックスにできないこと」は?

ある有名な家庭教師がこうおっしゃいました。

「学童の機能も求めて塾に入れるのか、それとも難関校に入れたいのか。それを決めてから塾選びをしたらいい」

サピックスは、難関校対策には長けていますが、学童の代わりにはならないということです。そこは、保護者も覚悟というか、把握はしておくべきですよね。

実際に、フルタイムでがっつり働いているお母さんからは「サピックスさんは共働き家庭には向かないと判断したので他塾にしました」という話をよく聞きます。

もちろん、共働き家庭で、サピックスにお子さんを通わせて、御三家に合格させた家庭もたくさんあります。ただ、大抵は、夫婦で分担して受験をサポートされていますね。お父さんが学習のフォローをして、お母さんが学校見学に行ったり、受験スケジュールを考えたりとか。

両親ともにお子さんには時間を割けないというご家庭で、学童の機能も求めてサピックスに入れてしまうと、親がすべきことの多さに、悲鳴をあげる結果になる可能性は高いです。

サピックスとグノーブルの違い

――中小塾で、サピックスと方向性が近いというか、難関校への高い合格実績で知られる塾に、グノーブルがありますね。グノーブルの親御さんからは「宿題をやらせるのが大変」という声はあまり聞こえないような気がします。これはなぜなんでしょう?

グノーブルは、サピックスから独立した講師の方々が始めた塾なので、テキストやメソッドは似ています。その上、社会の進度は非常に速いですし、国語も難しい文章を扱います。

実際、通わせている親御さんは苦労されていますよ。それなのに、グノーブル生の親御さんから「大変すぎる!」という悲鳴が聞こえてこないのは、現状、ある程度「情報通」の親御さんだけが知っている存在だからではないかと。

グノーブルも、学童代わりにはならない塾です。家庭でちゃんと学習フォローをしないといけない。それをわかっていて入塾させている親御さんの割合が、まだまだ高いんでしょう。たぶん、かつてのサピックスもそうだったのではないでしょうか。

今や、サピックスは一学年6000人以上。押しも押されもしない大規模塾です。

こうなると、高い合格実績だけを見て、その合格実績を支えている学習メソッドがどんなものなのか、塾の内容をわかってない保護者さんも、お子さんを入れてしまう例が増えてくる。

これが、「サピックスは親が大変!」という声が多い、いちばんの理由だと考えています。

塾とのミスマッチで苦しまないために

ツイッターで、「タワマン文学」といって、高級タワーマンションに住む人たちの生態を描く小説が人気です。そこでは、「タワマンに住んで子どもをサピックスに通わせる」のが、庶民の夢として描かれています。今は、そういうあこがれからサピックスにお子さんを通わせる方も多い。でも、それだと、親御さんもお子さんも苦しむ可能性は高いです。

サピックスは非常に優秀な塾です。

テキストや配布物、そして、授業も考え尽くされたものです。だからあそこまでの難関校の合格実績が出せます。結果を出すための学習メソッドが確立しているのは、受験生や保護者にとっては、やはり魅力的ですよね。

なので、せっかくお子さんをサピックスに入れるならば、ちゃんと正しく使い倒してほしい。そして、中学受験を成功させてほしいと思います。

また、これは、サピックスに限ったことではありません。この少子化のなか、今も経営が成り立っている塾は、どこも基本的に優秀です。ただ、お子さんによって、ご家庭によって、合う、合わないはあるんです。

塾ごとの特徴を知って、ご自分の家庭やお子さんと合う塾をしっかり選んだうえで、中学受験に挑んでほしいと願っています。

※記事の内容は執筆時点のものです

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杉浦由美子 専門家・プロ

ノンフィクションライター。会社員や専門学校講師などを経て、2005年からライターとして活動を開始。『AERA』『婦人公論』『文藝春秋』などの総合誌でルポルタージュ記事を書き、『文春オンライン』、朝日新聞『論座』などで教育やジェンダーなどの記事を執筆する。『女子校力』(PHP新書)、『ママの世界はいつも戦争』(ベスト新書)など著書多数。