中学受験ノウハウ 親の関わり方

早期教育より「早寝早起き朝ごはん」。よく眠る子は中学受験もうまくいく!?

専門家・プロ
2018年6月20日 鈴木恵美子

「子供の才能を開花させたい」「一芸に秀でた人になってほしい」という願いから、早期教育に力を入れる親は増えています。そのために、連日習い事でスケジュールが一杯という子供も少なくありません。でも一方で、早期教育が結果として脳の発達を妨げると警鐘を鳴らす専門家もいます。幼児〜学童期の子供の脳を育てるのに大切なことは何なのでしょうか。子育てママを応援するプラットフォーム「Mother Quest」代表で、教育ジャーナリストの中曽根陽子さんにお話をうかがいました。

子供の脳は2階建て。早期教育よりも、まず1階部分の「古い脳」を育てるべき

英語や音楽、サッカーにお絵描き……。幼児期から習い事をさせる親が増えています。「早くから多くの機会を与えたい」という気持ちは理解できますが、そうした教育が本当に子供の力を伸ばすことになるのでしょうか。子供の才能を開花させるためには、脳の発達に合った関わり方が大切。脳科学の見地からは、行きすぎた早期教育が「脳育て」の妨げになる可能性も指摘されています。

早期教育よりも大切な睡眠。睡眠不足の子は「自己肯定感」も低い

現代の子供の、発育に関する問題のひとつとして指摘されているのが睡眠不足です。実は、日本人は諸外国に比べて、大人も子供も睡眠時間が短いのです。文部科学省の「睡眠を中心とした生活習慣と子供の自立等との関係性に関する調査の結果」(2015年)でも、小学生の50.8%が午後10時以降に就寝しており、夜型であることがわかります。

子供の睡眠時間が短いことは、私たちが考える以上に多くの影響を及ぼします。同じ調査によると、小中学生は寝る時刻が遅いほど、「自分のことが好き」と言える自己肯定感の強い子の割合が減っていきます。

また、午後10時以降で53.7%、11時以降で63%と、就寝時間が遅くなるほど「何でもないのにイライラする」と答える子の割合が増えます。子供が夜更かしになる原因は、親の生活ペースが優先されていることに加えて、塾や習い事の多さも影響しているのでしょう。

睡眠が子供の育ちに与える影響に詳しい、小児科医の成田奈緒子先生は「人間は太陽が出ている時間に活動する昼行性動物です」と強調します。そのため夜遅くまで起きて強い光を浴びていると、動物としての活動リズムが狂い、脳にも影響を与えて心身の不調となって表れることがあります。特に、幼少期から睡眠不足が積み重なると、小学校入学後に「キレやすい」「些細なことで心が折れる」「学校に行きたがらない」などさまざまな問題を引き起こすことが多いのだそうです。

土台がないまま積み上げる、脳育ての間違い

もうひとつ成田先生が指摘するのは、親の間違った思い込みで脳の発達バランスや順番を間違えた「脳育て」が行われていることです。

実は脳には育つ順番があります。最初に、からだの姿勢の維持・呼吸や睡眠・食欲・情動・自律神経など、生物としての働きをつかさどる「古い脳」(脳幹)。次に記憶や思考、指先を細かく動かす微細運動、言語や情感をつかさどる「新しい脳」(大脳皮質、小脳)が発達。そして最後に、人間らしい高度なこころの働きをつかさどる「前頭葉」が育ちます。

脳が一軒の家だとすると、1階部分(古い脳)→2階部分(新しい脳)→上下を繋ぐ階段(前頭葉)の順に発達するのです。

ところが、問題を抱える子供の多くが、土台となる「古い脳」がきちんと育っていないのに、「新しい脳」を乗っけようとしてきたと成田先生は指摘します。その結果、脳のバランスを崩してしまうのです。教育熱心な親にありがちなのが、幼児期から習い事や勉強を頑張らせ過ぎるパターン。その結果、きちんとした順番で脳が育たなかったのかもしれません。

子供は後伸びすると信じる。早期教育より脳を健康に育てることを優先しましょう

生物としての活動をつかさどる「古い脳」を十分に育てないまま、勉強や習い事の詰め込みで「新しい脳」を積み上げると、子供の心と身体のバランスを崩してしまうことがある。親たちはまずそれを知っておく必要があります。では、どうしたら子供の脳を健全に育てることができるのでしょうか?

「早寝早起き朝ごはん」で子供は自然に伸びる

小児科医の成田奈緒子先生によれば、脳と体と心のバランスを維持するために最も大切なのは「食事と睡眠」。キーワードは「早寝早起き朝ごはん」です。つまり夜になったら早く寝て、朝に太陽が出たら起きて、ご飯をしっかり食べる。そして日中は体を十分に動かすということです。

なぜ、早寝早起き朝ごはんが子供の脳を健全に育てるのでしょうか。脳を活性化して、精神を安定させ、やる気を引き出すのに重要な役割を果たすのが、セロトニンというホルモンとセロトニン神経。そのセロトニン神経の出発点は「古い脳」にあります。セロトニンは24時間周期のお日様のリズムに深く関係し、光の刺激によって脳内にネットワークをどんどん伸ばしていくのです。

ですから、早寝早起き朝ごはんは「古い脳」をしっかり育て、セロトニン神経を鍛えることに繋がります。そうした生活を一定のリズムで繰り返すことこそが、子供の脳を健康に育て、才能を花開かせるために最も有効なのです。小さな子供ほど、勉強で睡眠時間を削るのではなく、生活リズムを守ってよく眠ることを最優先にするべきだと思います。

睡眠時間が長くても難関中学校に合格できる!?

一方、中学受験では塾の終わる時間が遅いこともあり、寝る時間を削って勉強することになりがちです。

私自身は、その点が中学受験の一番のデメリットだと考えています。成田先生は「本来は小学生も夜9時には寝て、1日9時間の睡眠時間を取って欲しい」と強調しますが、受験生の親御さんの多くが「無理!」と思うことでしょう。

それでも9時が無理なら、遅くとも夜10時には床に就かせる努力をして欲しいのです。それくらい子供にとって睡眠は大切なものです。

実際に、睡眠時間は学習意欲にも影響を及ぼすことがわかっています。平成25年度の全国学力調査では、毎日8〜9時間眠っている児童が、一番正答率が高いという結果も出ているのです。また、塾から帰ったらすぐに寝て、早朝に起きて勉強するスタイルで中学受験にのぞみ、複数の難関校に合格した子を知っています。時間の使い方を工夫すれば、そうしたことも可能なのです。

受験期も子供の成長を第一に

今は多くの親が仕事や家事で忙しい中、一生懸命に情報を集めて子育てを頑張っています。でも、その頑張る方向を間違っていたとしたら、とても残念ですね。

子供の脳育てに大切な生活リズムをつくることなく、勉強や習い事を積み重ねるのは本末転倒です。

脳の育つ順番など、科学的な根拠をきちんと理解して、睡眠と食事、できるだけの外遊びを大切にしてください。そうした環境を用意することが、詰め込むだけの早期教育などよりよほど子供の人生を充実させるためには重要なことではないでしょうか。

※記事の内容は執筆時点のものです

中曽根陽子
中曽根陽子 専門家・プロ

教育ジャーナリスト。小学館を出産のため退職後、「お母さんと子供達の笑顔のために」をコンセプトに数多くの本をプロデュース。子育て中の女性の視点を捉えた企画に定評がある。教育雑誌から経済誌、紙媒体からWeb連載まで幅広く執筆。中学受験に関しては「受験を親子の成長の機会に」という願いを込めて『1歩先行く中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』『後悔しない中学受験』(共に晶文社)『子どもがバケる学校を探せ』(ダイヤモンド社)などを執筆。教育現場への豊富な取材や海外の教育視察を元に、講演活動やワークショップもおこなっており、母親自身が新しい時代をデザインする力を育てる学びの場「Mother Quest」も主宰している。近著は『成功する子は「やりたいこと」を見つけている 子どもの「探究力」の育て方』(青春出版社)

1歩先行く中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい 成功する子は「やりたいこと」を見つけている 子どもの「探究力」の育て方