連載 中学受験との向き合い方

家庭で被る心の仮面のトリセツ ―― 中学受験との向き合い方

専門家・プロ
2020年6月04日 やまかわ

首都圏の一部では、4人に1人の小学生が挑戦するともいわれる中学受験。子供の受験に親はどう向き合えばよいのでしょうか。この連載では、『中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由』の著者である、田中純先生に中学受験との向き合い方をテーマにさまざまな話を伺います。

仮面とはマスクです。世界中でこれほど多くの人々がマスクをつけるようになるとは、日本昔話の鉢かづき姫の作者も、コロナ禍の約1年前に亡くなったプロレスラーのザ・デストロイヤーも、想像だにしなかったでしょう。

周囲の人間に対して心を閉ざしたり、本音を見せなかったりする姿勢を「仮面を被る」と表現することがあります。中学受験を控えた家庭では子供の受験をきっかけに、親同士が不和状態になったり、親子間でいさかいが生じたりしたとき、誰かが心に仮面を被ってしまうことがあるでしょう。

本来は、家庭は誰にとっても心と体が休まる癒しの空間であって欲しいのですが、現実と理想の間にはしばしばギャップがあります。必要に応じて自分の本当の姿を隠したり、見せたい自分を演じたりすることもあり得るのです。ここで「仮面を外せ」というのも、しばしば建前という仮面だったりします。また、カウンセリングをしている人たちの言い回しとして、「玉ねぎをむくように」という本物の自分探しについての喩えもあります。仮面を重ね着しているうちに、本人もどれが素顔なのかわからなくなってしまうというお話です。

家庭内で心の仮面を被るということ

家庭内で誰かが心の仮面を被るというのは、どんな状況なのでしょうか。ここでは、親が仮面を被ってしまうケースと、子供が仮面を被ってしまうケースに分けて見ていきます。

親が心の仮面を被ってしまうケース

心の仮面を被る原因には、さまざまな要素が挙げられます。たとえば、見栄という仮面を張り付けがちです。周囲から幸せな家族に見られたい、周りの親御さんから優秀な子どもを育てている立派な親だと思われたいという気持ちにこだわりすぎると、そういう仮面を被って外向きに演技します。その「外向き」と内実とのギャップが大きくなると、その歪みの影響が家庭内の空気を汚染するようになりかねません。

DVの事例などでは、暴力的な夫(あるいは妻)から自分の安全を守るための仮面を母親(あるいは父親)が被り、子供を守るという本来の役割が果たされなくなって悲劇に至る、ということがあります。また「あるべき(と思っている)父親像」や「あるべき(と思っている)母親像」というマスクが、まるで鉄仮面のように子供を怯えさせるというケースもあります。

新型コロナウィルス対策のマスクも、ゴワゴワしていたら着けにくいし、カチカチだったりしたらかえって隙間だらけで本来の役目が果たせませんね。

子供が心の仮面を被ってしまうケース

子供が被る仮面のことで私が最初に思いついたのは、中高時代のカンニング。しばしば定期試験の後に、職員室の前に名前が貼りだされているのを見ました。虚飾の成績という仮面を被ってしまうんですね。卒業後45年も経つと、そんな仮面を被ったことのある連中も立派な大人になって ―― と言うより、もう立派だった仮面もボロボロになって「正真正銘のただの爺さん」になってちゃんと生きています。

では中学受験を控えたお子さんは、どのような状況で仮面を被ってしまうのでしょうか。それは、ひとつの結果に対してネガティブな捉え方をしたり、目を背けてしまったりする状況によって引き起こされます。たとえば、塾のクラスが下がってしまったときや、テストの成績が下がってしまったとき。こうした事実に恥ずかしさを感じたり、親に事実を隠そうとしたりすることがあります。

自分がどの位置にいるのか、どんなラベルを貼られて分類されているのか、そういった事柄が自分の価値だと勘違いしてしまいがちです。

つまらない仮面を被らなくていいようなコミュニケーション

タイガーマスクも、ザ・デストロイヤーのマスクも面白い。京劇の仮面もぜひ検索してご覧になることをおすすめします。もしも私たちが、着け心地が抜群で、効果的で、自分や相手が面白がる仮面を上手に「着こなす」ことができたら、素敵です。一方、自分を守るため”だけ”の頑なな仮面はつまりません。着け心地が悪いならさっさと外せばいい。でも、家内”不安全”ではおいそれと外せないのです。

では、家庭内で誰かが心を閉ざして仮面を被らなくても済むようにするためには、どのような関係性を育み、どのようなコミュニケーションをとれたらいいのでしょうか。家族間、親子間の視点からそれぞれ見ていきましょう。

家族間で仮面を被らなくていい環境にするには

お父さんはお父さんらしく、お母さんはお母さんらしく、というように、相手に対してカチカチの役割を負わせすぎないことを意識しましょう。仮面はしなやかで通気性が良ければ、着け心地が良く、傍目から見も堅苦しそうでなくて、どこかユーモラスであれば見ている方も面白い。笑いを誘うような仮面を自由自在に着脱できたらいいですね。

家事が不得手なお母さんもいるでしょう。力仕事が苦手なお父さんだっているかもしれません。誰でも不得意なこと、弱点はあるものです。それをむやみに非難してしまうと、相手は心を閉ざします。家族それぞれが構えずに、ありのままの「自分らしさ」を出していられる環境が必要です。失敗を責めず、役割にとらわれることなく、苦手なことは別の誰かが補えるような家族がチームとして理想的です。

子供に仮面を被らせないためには

親に対して後ろめたいことや、話しにくいことを溜め込まなくてすむために、日ごろからなんでも言い合えるような関係性を築いておくことが大切です。子供の話を頭ごなしに否定せず、耳を傾けることはもちろんのこと、親御さん自身がその日にあった出来事などを話してみるのもいいでしょう。そのうえで、「○○になったらどうしよう」という不安を子供が打ち明けてきたときには、寄り添うようにして同じ目線に立ち、親子一緒にもう一歩先に視線を向けてみることが大切です。

中学受験生は、入試がうまくいかなかったら「どうしよう」、塾でクラスが下がったら「どうしよう」といった不安を抱えがち。お子さんが不安を抱えているときは、「じゃあそうなったときに、どうにかできるかどうかを一緒に考えてみようか」というような声掛けをしてみましょう。

小学生が抱える不安の多くは、それが現実となったとしても致命的なショックを受けることはありません。また、新しい生活が続いていくだけです。うまくいかなかったとしてもその事態に対応して、どうにかできるだろうという見通しを持てて、それがゆとりを生んで楽しい生活があるということに気づくことができれば、安心しやすくなるはずです。

家族全員が気持ちよく過ごすためには首尾一貫を心がける

家庭内で仮面を外しやすくするための秘訣は、首尾が一貫していることです。たとえば、ひとつの事象に対して容認しているときもあれば、必要以上に怒ってくることもある。こういったことが続くと、相手は混乱してしまいます。

子供の目線で考えてみると、「こういうことをすると、(親は)叱ってくれるんだろうな」「褒めてくれるんだろうな」、というように、親の気持ちがお見通しできる状態が望ましいですね。もしもそれができないと、子供は親御さんに対して機嫌を伺い、恐怖感を抱いてしまうことがあります。見通しが悪いと、見透かされないように仮面を被るのです。

「どうしよう」はストレスの元です。それに対して「どうにかできるだろう」という感覚はストレスの肥大を防ぎます。首尾一貫感覚はそのための見通しの良さを生みます。手作りマスクのように「ねえ、見て。こんな仮面、作っちゃった」と家族で笑いながら楽しめれば、中学受験に向けての良いコンディションをつくっていけるでしょう。


これまでの記事はこちら『中学受験との向き合い方

※記事の内容は執筆時点のものです

田中純
田中純 専門家・プロ

開成中学校・高等学校、国際基督教大学(ICU)教養学部教育学科卒業。神経研究所付属晴和病院、中高教諭、学校カウンセラーを経て公文国際学園開講準備に参加。現在は赤坂溜池クリニックやNISE日能研健康創生研究所などでカウンセリングやコンサルテーションを行っている。「一家にひとり、一課にひとりのコミュニティ・カウンセラー」を育てることを目標としている。著書「ストレスに負けない家族をつくる」「中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由」(みくに出版)

この記事の著者

編集・ライター。学生時代から都内で6年間塾講師を務める。塾講師時代は、おもに作文・国語・英語の科目を担当。小学生から中学生までの指導にあたる。現在は編集・ライターとして教育関連をはじめ、街歩き・グルメ記事の執筆取材をおこなう。

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