連載 『二月の勝者』で考える中学受験のリアル

「この子にはもっと高度な学習プランを立ててやらないと!」これってホント?|『二月の勝者』で考える中学受験のリアル

専門家・プロ
2021年11月13日 西村創

テレビドラマ『二月の勝者-絶対合格の教室-』の内容を受験指導専門家の西村創さんが「実際の現場ではどうなのか」という視点で考察します。

※原作やテレビを見ていない方の完全ネタバレにならないように留意していますが、本コラムでは内容の一部分を紹介しています。予備知識なく原作漫画や録画したドラマを楽しみたいという方は、先にそちらを見ることをおすすめします

受験指導専門家の西村創です。今回はTVドラマ『二月の勝者』の11月13日放送の第5話を題材に、塾現場を知る者として「実際はどうなの?」といった点をお伝えしていきます。

[考察・その1]夏期講習は中学受験の天王山です

ひとつめの考察は「夏期講習は中学受験の天王山です」という黒木先生のセリフです。

このセリフは実際のリアル度100%。黒木先生のおっしゃるとおりです。夏期講習でどう勉強するかによって、受験結果が決まると言っていいくらいです。

黒木先生は言いました。

「夏を逃したらもう二度と挽回の機会はないと思って望んでください」

これは、まさに黒木先生の言う通りなのです。

どの塾も夏期講習を必修扱いにしているのは、売上確保のためでもありますが、夏の間にどう勉強したかによって5割、いや8割か9割くらい受験の結果が決まるからです。春期講習や冬期講習も大事ですが、夏期講習は春期講習や冬期講習の約4倍の長さです。大事な春期講習や冬期講習の4倍くらい重要だということです。

夏期講習ではこれまでの総復習をして、夏明けの過去問演習に入るための準備を終えます。秋以降、塾で新たに勉強する単元はもうありません。

秋以降は、夏までに学んだことを入試問題(過去問)でどうアウトプットするか、要領を身につけて、制限時間のなかで得点を最大化するトレーニングをする段階に入るわけです。

秋からの過去問の実践演習のなかで、どんどん得点力を高めていく生徒がいますが、それは夏までに勉強した成果が現れるからです。夏が終わってからの勉強が、すぐに得点に現れているわけではないのです。

私は生徒たちに「がむしゃらに受験勉強に取り組むのは夏まで。秋以降は体調管理を最優先で、入試問題を解くなかで、冷静に点数の上げ方を分析して、過去問の解き直しと復習をしていく時期だよ」と言っていました。

そう考えると、中学受験を目指す現在の小学5年生は、受験の天王山まであと半年ちょっとです。5年生も4年生も、そしてすでに入試まであとわずかになった6年生も、過去やこれからのことを考え過ぎないで「いま、何をするのが、望む結果にいちばんつながるか」を考えて行動に移したいものです。

[考察・その2]この子にはもっと高度な学習プランを立ててやらないと!

ふたつめの考察は「順にはもっと高度なプランを立ててやらないと!」という、島津順くんのお父さんのセリフです。

こちらのセリフも実際のリアル度100%です。

100%というのは「本当にこのようなお父さんがいる」という意味での100%です。

ただし、「もっと高度な学習プランを立ててやらないと」というセリフの正しさが100%というわけではありません。

先日、Twitterであるツイートを見たんですね。それは、以下のようなものでした。

「自分が中学受験をしていないので、子供をうまく導くことができない、応援しかできないなんて無力だ」

私はこのツイートを拾って「むしろ良いと思います。経験上、自分の成功体験を子供の受験に当てはめようとする親の方がうまくいかない」とツイートしました。子供は親に勉強のプランを組んでもらったり、勉強内容を教えてもらったりしたいと思っていないものです。

では、何を望んでいるかというと、応援です。「応援しかできない」というのは最高だと思います。

親は、わが子のことを誰よりも本気で考えていると思います。わが子のことは、アカの他人である塾講師よりも、当然 親の方が深く考えています。ただ、「生徒の成績を上げて、志望校に合格させてあげたい」という思いは、塾講師も一緒です。

確かに塾は営利目的のサービス業です。でも、だからこそ塾生の成績アップと志望校合格、まして順くんのような御三家志望者の指導には一生懸命になります。単に合格実績を出すためだけでなく、何年も指導していれば「なんとか合格してもらいたい!」という情も入ります。

そのうえで塾は、塾講師は、これまで同じように御三家――いや御三家だけでなく、塾生それぞれの志望校に合格した教え子たちが、いつの時点で何をどれくらいできている必要があるか、何年、何十年、何十人、何百人もの客観的なデータをもとに、いちばん合理的なカリキュラムに基づいて最も効果的だと考えられる指導をします。

それなのに、それを否定するような、逆行するような指導で横やり入れられてしまうと、客観的にベストだと考えられるプランからズレていきます。

もちろん塾にもいろんな塾があって、指導する講師もまちまちですから、信用ができないケースもあると思います。その場合は、できるだけ早く見切りをつけて、転塾した方がいいでしょう。

でも、保護者が受験に関して強い持論展開をされる場合、往々にして自分自身の中学受験経験、いや高校受験や大学受験の経験を、お子さんの中学受験にあてはめて力説されるケースが多いんですよね。

受験って内容も受け方も、王道の勉強の仕方も、毎年変化しています。だから、ひと昔前の勉強法や知識が通用しなくなったり、かえって妨げになったりするのです。

しかも、いくら順くんのお父さんが中学受験で絶大な成功を収めたとしても、それは自分の子ひとりの成功例でしかありません。黒木先生は数百、数千の教え子を見てきているはずです。自分ひとりの成功体験しかない順くんのお父さんと、数百、数千の成功・失敗体験を積んでいる黒木先生とでは、歴然とした差があります。

それだけではありません。仮に順くんのお父さんが現役の塾講師で、しかも平均以上の指導力のある講師だとしましょう。それでも通っている塾以上の強制力を発揮して、子供の受験指導をすると、たいてい失敗します。

それはなぜでしょうか。ひと言で言うと「船頭多くして船山に上る」ということです。指導者が複数いると、指示される側は混乱しちゃうんですよね。指導は一貫性があることが重要です。

もし、お子さんの塾の学習計画に不信感を持って、軌道修正をしようとするのであれば、まずは塾に「なぜいまその指導をしているのか」を確認することをおすすめします。お子さんをサポートするなら、塾の指導方針の延長線上で、塾がやり切れないことを、代わりに請け負うというスタンスで子供を支えてあげられるといいですね。

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※記事の内容は執筆時点のものです

西村創
この記事の著者
西村創 専門家・プロ

早稲田アカデミー、駿台、河合塾Wings、栄光ゼミナール、明光義塾などで指導歴25年以上。新卒入社の早稲田アカデミーでは入社初年度に生徒授業満足度全講師中1位に輝く。駿台ではシンガポール校講師を経て、当時初の20代校長として香港校校長を務め、過去最高の合格実績を出す。河合塾Wingsでは講師、教室長、エリアマネージャーを務める。また、全国の中学校・高校でのセミナー講演、書籍執筆などに携わる。著書は『中学歴史が面白いほどわかる本』(KADOKAWA)の他多数。「にしむら先生 受験指導専門家」としてYouTube配信中。