連載 『二月の勝者』で考える中学受験のリアル

「性格が違う塾友2人が化学反応を起こす」これってホント?|『二月の勝者』で考える中学受験のリアル

専門家・プロ
2021年11月20日 西村創

テレビドラマ『二月の勝者-絶対合格の教室-』の内容を受験指導専門家の西村創さんが「実際の現場ではどうなのか」という視点で考察します。

※原作やテレビを見ていない方の完全ネタバレにならないように留意していますが、本コラムでは内容の一部分を紹介しています。予備知識なく原作漫画や録画したドラマを楽しみたいという方は、先にそちらを見ることをおすすめします

受験指導専門家の西村創です。今回はTVドラマ『二月の勝者』の11月20日放送の第6話を題材に、塾現場を知る者として「実際はどうなの?」といった点をお伝えしていきます。

[考察・その1]進学した卒塾生を教室に連れてきて、受験生に話してもらうシーン

こちらのシーンの実際のリアル度は100%です。

塾では卒塾生を呼んで、塾生やその保護者に話をしてもらう機会をつくっています。最近は新型コロナウイルスの影響で、オンライン実施に切り替わっているので省略されていますが、大規模なものだと毎年だいたい3月頃に各塾が実施する入試報告会で、入試を終えたばかりの塾生OB・OGが登壇します。

校舎単位でも、夏期講習や冬期講習などの節目に教え子たちを呼んで、話をしてもらうのはどこの塾でも行われていることです。『二月の勝者』の原作漫画では、いろんな中学から複数の先輩が来ていましたね。

私も毎年、卒塾生を保護者会や講習会の初日などに呼んで、受験生たちに話をしてもらっていました。ドラマの中で黒木先生は「秘策があります」と言っていましたが、このように塾生OB・OGを呼ぶのは、よくあるやり方なのです。

塾生OB・OGを呼ぶメリットは、主に3つあります。

メリット1:モチベーションUP

メリットひとつめは、受験生のモチベーションが上がることです。

塾生OB・OGには、自分が通っている中学校のことを話してもらいます。ドラマでは大森紗良ちゃんが、自分が通っている二葉女子学院の自由な校風を紹介していましたね。

在校生が自分の学校(受験生にとっての志望校)の校風や行事、個性的な先生のことや、特徴的な設備について話すのを聞くことほど、受験生のモチベーションを上げることはありません。

塾講師が話したり、学校説明会で校長が話したりするのとは、視点が違うからです。

在校生が話す「うちの学校のこういうところがいい」という生の声は、これから受験を控えている生徒たちの心に響きます。

「あぁ、自分もそんな学校生活を送れたらな……」と、今までWebページやパンフレットの中の漠然とした世界でしかなかったことを、現実感を伴って頭の中で想像できるようになるのですね。受験生は先輩を憧れの眼差しで見つめながら話を聞きます。

メリット2:希望を与える

塾生OB・OGを呼ぶメリットふたつめは、受験生に希望を与えることです。

ドラマと同様に、塾では夏期講習前に講師が生徒にプレッシャーをかけます。

「これくらいのことができていないとマズいぞ」

「最低これくらいはクリアしてもらわないと」

というように、高いハードルを提示するのです。

受験生に到達して欲しい目標の2割増くらいの目標を与えるイメージでしょうか。なぜこのような高いハードルを提示するのかというと、塾講師は「たとえ模試の合格判定で80%を出し続けている子でも、入試で不合格になることがある」ということを痛感しているからです。

「この子はこの学校は受からないだろうな……」という講師の予想は、まず外れずにその通りの結果になるものの、「この子ならこの学校は受かるでしょうと思っていたのに結果、不合格」ということは珍しくありません。

だから講師は受験生に「もっと!」「もっと!」と、高い成果を要求するのです。

すると受験生は、「もしかしたら、一生懸命勉強しても自分には無理なんじゃないかな……」と弱気になります。

そこで塾生OB・OGに「ちょうど今の時期を思い出してもらって、どんな感じだったか」を語ってもらうのです。

たとえば、

「この時期はどの先生にもプレッシャーかけられて、レベルの高いことを要求されたけど、全然できなくて。夜、家で泣きながら勉強してました」

「最後の模試でも、国語と社会の偏差値が55の壁を超えられなくて」

このようなことを、誰もが認める最難関校に通っている先輩の口から聞くと、「あんな凄そうに見える先輩でも、この時期はそんな感じだったんだ」と感じ入って、受験生は先輩に親近感を持ちます。同時に「自分でもがんばれば先輩みたく、なんとか合格できるかも」と、希望を抱くのです。

実際に経験して成功を収めた人から、うまくいっていなかった頃のことを直接聞くことほど、希望が湧くことはなかなかないですよね。

メリット3:切迫感を与える

塾生OB・OGを呼ぶメリット3つめは、切迫感を与えることです。

子供たちは塾でも家でも「合格」ばかりに目を向けさせられて勉強に取り組みます。

どこの塾も「○○中 ○○名 合格」というように、合格実績を大々的に打ち出します。

(「○○中 ○○名 不合格」というような情報は、聞けば教えてくれるかもしれませんが……、決して表に出さない情報ですよ)

勉強しても不合格になる、いや、むしろ大半の学校は合格者よりも不合格者の方が多い。実際に不合格になる受験生が大勢いる。そんな不都合な真実から受験生の気をそらそうと、家庭も塾も協力して動いている面があるということは否定できません。

だから、自分が落ちるというイメージを持たない受験生、結構多いのです。

でも、受験を終えたOB・OGから、

「練習のつもりで受けた1月入試の結果が不合格で……」

「今は私の学校に100%満足して通っているけど、じつは第一志望は○○で、受からなかったんです」

というような話を聞くと、受験生は「落ちることがある」という当たり前の事実を、自分事として気づかされることになります。

また、受験生は入試が近づくと共通して抱く思いがあります。それは「もっと、早く本気になっていればよかった……」という後悔です。そんな後悔を、塾生OB・OGの口から言ってもらいます。

「『なんとかなるでしょ』って軽く考えていたあの頃の自分をぶん殴りたい」

などと言うOB・OGを何人も見てきました。

そんなOB・OGは続けて、

「みんなは、まだこれから! これからだから、受験が近づいても後悔のないように、今できることを全力でやったほうがいいということを、全力で伝えたいです!」

って言ってくれます。

こうした言葉が、塾講師から飛ばす檄よりも、生徒たちの心に響くのです。

[考察・その2]私はあの2人のかけ合わせによる大きな化学反応に期待しています

次の考察はドラマの中で黒木先生が発したこのセリフ。こちら、実際のリアル度は5%くらいでしょうか。

実際は、タイプが真逆の子ども2人に、相乗効果が発揮されるような状況は滅多にないです。そんなうまくはいきません。

「タイプの違う2人の混ぜ合わせ」と黒木先生は言いますが、タイプが違うということは、よくいう「水と油」とも言えますからね。「混ぜるな危険」というか、タイプが違いすぎる2人は混じりません。

そもそも人は同調できる相手を求める傾向があります。真逆の性格を持つ2人でうまく相乗効果を発揮して互いを高め合っている子は、私の記憶にはあまりないですね。むしろ、近い雰囲気を持つ子同士でグループをつくる傾向があるように思います。

ただし、複数の子たちのかけ合わせ、つまり「集団授業のクラス内での化学反応」となると、実際のリアル度は100%です。

進学塾のクラスは学力別に分かれているものの、性格はじつにさまざまな子が集まっています。

  • お調子者で常に何か発言したくて仕方がない子
  • できるだけ目立たないように存在感を出さない子
  • 思考のスピードが早くて要領よくどんどん解いていくけど、ケアレスミスが多い子
  • スピード感はないけど、深く考えて大人をびっくりさせるような記述問題の解答を出してくる子

このように、じつにさまざまです。

授業中、講師は答えを言わせるために頻繁に生徒たちを指名するので、生徒たちは「クラス内のほかの子たちが、一体どんなふうに答えを出すのか?」を常に見聞きすることになります。私は、この「ほかの子の考えを知れる機会」が集団授業の最大のメリットだと思っています。

塾は学校と違って、自分に近い学力の子たちがクラスに集められています。クラスの子たちは同じような偏差値の学校をめざしています。でも、問題に対するアプローチの仕方や勉強の仕方はそれぞれです。そのようなクラスメイトの考えを知れるメリットは大きくて、講師が問題の別解を示すよりも子供たちの頭に入るんですよね。

だから私はよく、

「受験勉強は『自分との戦い』とか、『個人戦』って言われていて、確かにその通りなんだけど、『団体戦』『チームプレイ』という側面もあると思ってる。

『クラス内のほか子たちが、どんなふうに考えてその答えを出したのか』ということを学び合うことで、自分ひとりだけでなく、クラスの何人分もの考えが身につく。

だから模試や入試本番で、テスト問題にひとりで向き合っていても、一人ひとりの背後には、このクラスのみんなが背後霊、背後霊ってなんか表現変だな……、まぁそんな感じでこのクラスの人たちと一緒に考えるような感じで向き合えるようになるんだよ」

と言っていました。

集団指導塾では講師だけでなく、クラスのほかの子たちの発言からも学びがあります。自分とは違うタイプの人の考えほど大きな学びがあります。これは、子供に限ったことではなくて、大人でも一緒ですね。

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※記事の内容は執筆時点のものです

西村創
この記事の著者
西村創 専門家・プロ

早稲田アカデミー、駿台、河合塾Wings、栄光ゼミナール、明光義塾などで指導歴25年以上。新卒入社の早稲田アカデミーでは入社初年度に生徒授業満足度全講師中1位に輝く。駿台ではシンガポール校講師を経て、当時初の20代校長として香港校校長を務め、過去最高の合格実績を出す。河合塾Wingsでは講師、教室長、エリアマネージャーを務める。また、全国の中学校・高校でのセミナー講演、書籍執筆などに携わる。著書は『中学歴史が面白いほどわかる本』(KADOKAWA)の他多数。「にしむら先生 受験指導専門家」としてYouTube配信中。