中学受験ノウハウ 連載 中学受験との向き合い方

学びに対する好奇心を育むには? 疑問の扱い方と問い方を考える ―― 中学受験との向き合い方

専門家・プロ
2022年6月16日 やまかわ

首都圏の一部では、4人に1人の小学生が挑戦するともいわれる中学受験。子供の受験に親はどう向き合えばよいのでしょうか。この連載では、『中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由』の著者である、田中純先生に中学受験との向き合い方をテーマにさまざまな話を伺います。

何を勉強するのであれ、夢中になって学ぶ人には「好奇心」が宿っています。2021年にノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎さんも「最も面白いのは、好奇心に基づく研究だ。私は気候変動の研究を本当に楽しいと思ってやってきた」と語っていました。では、好奇心を持って学ぶために、親や周囲の大人は子どもたちに対してどのようなサポートができそうでしょうか?

子供が疑問を共有してもOKな存在でいる

子供が幼い時期には「なんで?」「どうして?」と質問攻めをしてくることがありますよね。大きくなるにつれて、少しずつこうした傾向は徐々に減ってくるものの、小学生の間は身近な大人に質問をぶつけたくなるものです。これは一種の好奇心の発露なので、このチャンスは活かしていきたいですね。

ここで保護者の皆さんにお伝えしたい大事なことは、子供の質問に対して、何から何まで答えを教える必要はないということです。親御さんだってわからないことはありますからね。素直に「わからないなぁ」と言ってもよいんです。

ただ、そこで完全にコミュニケーションを遮断してしまったり、「そんなことを考えてないで、○○しなさい!」と、粗雑に言い放ったりするのは、好奇心を育む上でもったいないだけでなく、学ぶこと自体への悪影響が懸念されます。

手間はかかりますが、できる範囲でよいから、「じゃあ一緒に考えてみようか」とか、「調べてみようか」とか、「うーん。どうなんだろう……。○○先生に聞いてみて、わかったらお父さん/お母さんにも教えてほしいな」といったリアクションをしてあげるのが良いと思います。親子一緒にネットで調べたり、本を読むなどして、「調べてみてどこまでわかった?」と、互いに進捗を報告しあうのもよいですね。

要するに、「あなたは親に疑問を共有してもOKなんだよ」とか、「子供が『何で?』を共有できる仲間になる」というスタンスを持つということです。

学校であれ塾であれ、その他の習い事であれ、子供はさまざまなことを「知るための冒険」に出かけているわけですが、親がその冒険のお供になる、冒険への出発を勇気づけるようなスタンスとも申せます。

本物に五感で触れる

前述したスタンスを生かすためにぜひ留意いただきたいことがあります。それは体験を大切にするということです。別の言い方をするなら、疑問を持った対象に可能な限り五感で触れることを大切にしていただきたい。ご存じの通り、五感というのは視覚、嗅覚、聴覚、触覚、味覚の5つです。

「子どもたちは知るための冒険に出かけている」と言いましたが、その冒険のお供として、今もっとも便利で手軽なものは、インターネット、スマホかもしれません。検索サイトや動画サイトで調べれば、方法や答えが手早く見つかります。それはそれで、その利点をうまく活用すればよいと思います。

ただ、子どもたちの冒険のお供がいつも画面、仮にスマホの画面ばかりだとすると、やはりその大きさの窓には限界があります。画面を切り替えて、いろんなものが見えるとしても、結局のところ画面の大きさでしかない。ところが現場に行く、本物を見ると、周りを見渡しただけで違うものが見えてきたり、香ってきたりするわけです。行けるものなら行く、触れられるものなら触ってみるというようなことも、やはり大事にしてほしいと思います。

お子さんが動物の生態に疑問を持っているなら、動物園に行ってみる。手で触れなくとも鳴き声を聞いてみたり、動物独特のにおいを感じたりできます。鎌倉の大仏が気になったのであれば、現地に行ってその大きさを目と肌で感じ取ったり、細部を観察してみたりする。食べても大丈夫なものであれば、実際に舌で味わってみるのです。

こうした本物の経験は、画面や紙面で学ぶ際に、一層の好奇心を掻き立てることがあります。たとえば、理科や社会の勉強をすると「あ、私、見たことある!」といった具合に。また、そこで新たなクエスチョン(?)が生まれたりもします。すると、またそれを知りたくなる。そして、その疑問が解けたり、深く知れたりすると、「あ、はあ!」とか、「なるほど!」とか、「へぇー!」という気持ちになるでしょう。

最近の記事でも申し上げましたが、疑問のハテナ(?)が、わかった(!)になる体験は一種の「快感」です。この快感は、好奇心の「好」、すなわち「好き」につながるものなのです。

好奇心の「奇」を刺激する

勉強と好奇心の話で、親御さんからよく聞く悩みがあります。「うちの子、好きなアニメや漫画、ゲームは詳しいのに、勉強の知識は全然増えないんです……」という悩みです。この点についても考えてみましょう。

ガッカリされるかもしれませんが、好きな物事の知識が増えるのは当然で、仕方が無いことです。好奇心の一文字目は「好」です。好きなモノの知識は不思議と頭に入ってきます。こう考えると「勉強を好きだと思ってもらうのは、骨が折れるぞ……」と感じられるかもしれません。たしかに、一筋縄ではいかないかもしれません。

ですが、できることはありそうです。

好奇心のもうひとつの字に注目する――「奇」に注目するとどうでしょうか?

「奇」という文字は「奇妙」「奇天烈(キテレツ)」などの熟語に使われますね。「え、なんだろう?」と不思議に思うニュアンスです。あるいは、「ちょっと不気味だけど、なんか見てみたい……」といったニュアンスもあるかもしれません。

たとえば、小学校の算数で「通分」をやりますね。学校では、いわば手続き的に、約束事のように通分を学ぶわけですが、「通分ってどういう意味があるんだろう……?」と問われると、「え、なんだろう……?」となります。学校では決まり事のように教えられたけど、「なんか腹落ちしてないんだよね」というようなことがあるかもしれない。知識として伝えられたけど、腹落ちしてないことって色々あるかもしれないわけです。

ほかにも、理科の生物で昆虫を学ぶ際に、「完全変態」という言葉が出てきます。こういった言葉は、奇妙さ、奇天烈(キテレツ)さ、不気味さに満ち溢れたものでしょう。

こうした「奇」の気持ちを刺激するために、周りの大人が子供に対してどんな「問い」を発するのか。どのように知的冒険に促すのか、これが子ども達の好奇心を育み、学びに導くカギのひとつだと思います。

ちなみに、スマホやゲーム、テレビといった、受験生を魅了するアイテムとどのように向かっていくべきかについては、過去にこちらの記事で解説を致しております。ご関心がある方は、ぜひ御覧ください。

教えることよりも、好奇心をもって問う

前述のような問いを発して、お子さんの好奇心を刺激するには、親御さんや周囲の大人にも好奇心が必要です。

たとえば、受験勉強の場面では、子供のテストの答案や問題集をチェックすることがあります。そこで、「これは正解になっているけど、ほかに正解になりそうな答えってないかなぁ?」と問いかけてみたり、「この問題の解き方、お母さんにも教えてくれない?」と聞いてみたり、さまざまな問い方があると思うのですが、「奇」に注目して、刺激するために「考えさせる質問」を投げかけてみてほしいのです。

「ほかに」というフレーズは、物事を相対化し客観視する訓練を助けます。とりわけ、ネット情報のリテラシーを高めるには、「ほかには?」「本当?」という問いを常に携えておくのがおすすめです。

こうした「好奇心に基づく問い」を親が持っていて、それを子供に伝えて、一緒に考えていくというような親の姿勢がうまく機能すれば、今まで全然興味を持っていなかった教科に対して子どもが興味を持つようになったり、「好き」に転じる可能性は大いにあると思います。

親自身が好奇心をいつもアイドリングさせておいて、子どもに関わるときにそれを伝えてみる。それを問いの形で子供と共有していくのです。

疑問の貯まり過ぎ、問い過ぎに注意

子どもたちの好奇心を刺激するために、「知るための冒険のお供になるというスタンスをもつ」「親自身も好奇心を持ち、問う」といった、ふたつの事項をお伝えしました。ここで、ひとつ気をつけなければならないことがあります。

それは、矢継ぎ早で、根掘り葉掘りな問いです。

この記事の前半で、疑問のハテナ(?)が、わかった(!)になるのは、「快感」だとお伝えしました。しかし(?)は、ストレスでもあります。たくさんあると消化できません、消化不良は「不快」です。積りに積もると、「うるさいなぁ。質問はもういい、たくさんだよ!」となります。

私達カウンセラーが行うカウンセリングの場でも、相手に対して根掘り葉掘り問いかけるのは要注意とされています。問われる側からすると、質問で追い立てられているように感じ、心理的に不安全になりかねないからです。

子供の成長を願って問いかけることが、「取り調べ」のようになってはいけません。そういう意味でいうと、矢継ぎ早で根堀葉掘りの質問は、人を育てるどころか逆効果になりうるのです。この点は肝に命じる必要があります。

もちろん、好奇心の「好」を相手と共有できていれば、そういった矢継ぎ早の質問も成立することがあります。たとえば、同じアーティストが好きなAさんとBさんで会話する際――Aさんが「この間、○○の音楽ライブに行ったんだよね」と言って、Bさんが、「それでどうだったの?」とか、「え?! 何を歌ったの?」とか、矢継ぎ早の質問をしても、コミュニケーションは成立しうるわけです。

しかしこれが、追い立てるような感じに受け取られると、「不快」なものになってしまいます。

では、どうしたらよいかというと、問われる側の思考の過程やテンポ、リズムを尊重して、それに乗っかることです。

これは要するに、「その問いがストレスになるかどうかを知っているのは誰でしょう?」という話になります。一番知っているのは誰か。それは問われる本人です。中学受験でいえば、一番知っているのは子供ということです。

ですから、「今こうやって、お母さんがいろいろと訊ねているけれど、追い立てられるみたいな感じはする? ちょっと心配に思っているんだよね」などと、素直な気持ちで、爽やかに確かめてみればよいのです。

問いが育む好奇心と自問自答力

中学受験勉強ではどうしても「教える、教わる」ということに目が行きがちです。確かにそういう一面もあります。わからない問題にずっと頭を抱える状態は、子供にとって苦痛体験ですから、ときには親がその苦痛を吸い取ってあげたり、教えられることは教えてあげることも必要でしょう。

しかし、子どもたちが自らの好奇心を動力に学びに向かうには、「教える、教わる」といったことだけでなく、自ら問い、自ら答える姿勢が必要です。好奇心の次にあるものが、自問自答するスキルです。これらを身につけるには、親を含めた周囲の大人からの問いが大切だとお伝えします。他問自答と自問他答、そして自問自答のスキルを上手に使いこなしましょう。そして、冒頭にお伝えした先達が伝える「楽しさ」「好奇心」を膨らませ、興味の味覚の虜になったら、やめられない、もう止まりません。


これまでの記事はこちら『中学受験との向き合い方

※記事の内容は執筆時点のものです

田中純
田中純 専門家・プロ

開成中学校・高等学校、国際基督教大学(ICU)教養学部教育学科卒業。神経研究所付属晴和病院、中高教諭、学校カウンセラーを経て公文国際学園開講準備に参加。現在は赤坂溜池クリニックやNISE日能研健康創生研究所、コミュニティ・カウンセラー・ネットワーク(CNN)などでカウンセリングやコンサルテーションを行っている。相性はDon先生。著書「ストレスに負けない家族をつくる」「中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由」(みくに出版)。公式YouTubeはこちら

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この記事の著者

編集・ライター。学生時代から都内で6年間塾講師を務める。塾講師時代は、おもに作文・国語・英語の科目を担当。小学生から中学生までの指導にあたる。現在は編集・ライターとして教育関連をはじめ、街歩き・グルメ記事の執筆取材をおこなう。