人の話を聞けない子どもが増加中。家庭で「聞く力」と「自分で考える力」を育むには?|低学年のための中学受験レッスン#16
私は塾講師歴40年近くになります。
それだけ長いことやっていますと、子ども達の学力の変遷が分かるようになってきます。
中でも、私が特に強く感じることは、子ども達の「国語力の低下」です。
この15年間、私自身の著書を含め、さまざま媒体の中で、何度も警鐘を鳴らしてきましたが、残念ながら一向に改善されないどころか、悪化の一途をたどっているように感じます。
Contents
子どもの「聞く力」が危機的状況に?!
文部科学省では「これからの時代に求められる国語力」として「考える力」「感じる力」「想像する力」「表す力」の4つの力を挙げ、これら4つの力が具体的な言語活動として発現したものが、「聞く」「話す」「読む」「書く」という行為であるとしています。[*1]
私はこのうち、現代の子ども達は特に「聞く力」が低下しているように感じています。
毎年実感する塾生の変化
具体的には、たとえば私の塾では毎年同じ時期に同じ内容の授業をおこなっています。
けれど、同じように解説しているにもかかわらず、授業内容を一発で理解できる生徒の数は年々減少しています。
毎年同じような偏差値帯の生徒が集まっているにもかかわらず、「今年は去年と比べて理解力が低下しているなぁ」と毎年感じるのです。10年前の生徒と比べると、力の差は歴然です。
ひとつの傾向として「注意力散漫な生徒」「集中力を持続できない生徒」が増えたという印象です。
増えたというより、むしろ激増したという感覚の方が近いでしょうか。とにかく、こちらの話を最後まで聞けないんですね。集中できていないんですから、授業内容を一発で理解できないのも当然のことです。
逆に、聞く能力が高い生徒は授業中にどんどん理解していきますので、問題演習に取り掛かるまでの時間が短縮でき、結果「聞く力」の弱い生徒との学力格差が広がっていくことになります。
「聞く力」は人生を左右する重要なスキル
ところで「聞く力」というのは、実社会においてどのような場面で役立つのでしょう。
たとえばクライアントから仕事の依頼を受けたとします。
その際に「こういう風に仕上げてください」という希望を出されても、「聞く力」がないと相手の意図をきちんとくみ取ることができず、イメージ通りの商品を納品することができませんよね。下手をすると、仕事の依頼をもらえなくなってしまうなんてことにもなりかねません。
それだけ「聞く力」とは人生を左右する大変重要なものといえましょう。
脳を鍛えて「聞く力」を育てよう! 家庭でできるトレーニング法
では、この「聞く力」は、いったいどのようにして鍛えればよいのでしょう?
まずは知りたい、脳の仕組み
「聞く力」は前頭前野により醸成されます。
すなわちこの前頭前野を鍛えれば自然と「聞く力」も備わっていくといえます。また前頭前野は「記憶・理解・思考・創造・情操」などをつかさどる脳の中枢であり、「脳の中の脳」ともいわれます。
この前頭前野が発達していることが、生物学的な意味での「ヒト」の特徴でもあります。ですから表題にある「自分で考える力」もまた、「聞く力」を育てることで勝手に能力を高めていけるのです。
この前頭前野は6歳~12歳の間に成熟が始まり、20代前半頃までにおおよそ完成すると言われています。
成熟のスタートがどのタイミングになるかは個体差があるため、一概に「この年齢からトレーニングを始めれば効果的です」、とお伝えすることは難しいです。中学受験では花開かなかった子が、その後覚醒して優秀な大学に合格できたという逆転のケースが数多くみられるのも、成熟スタートのタイミングが6歳~12歳と幅が広いせいです。
ですから、たとえ現時点で「聞く力」が弱かったとしても、焦る必要は全くありません。
親に必要なのは、子どもの話を「本気で」聞く姿勢
まずご家庭で実践してほしいのは、親が子どもの話をよく聞いてあげることです。
6歳未満というのは親の影響を最も受けやすい時期です。その時期の子は親の真似をして成長します。3~4歳の子がママのお化粧道具を使いたがるのも、その一例です。
ですからこの頃の子どもの話は、さえぎらずじっくり聞いてあげて下さい。
その際、子どもの話を絶対に否定しないでください。否定されると、子どもは話をすることはいけないことなのだと感じ、話をしなくなってしまいます。
実は「話し上手」な人のほとんどは「聞き上手」でもあるのです。「話すこと」と「聞くこと」は表裏一体です。子どもの「聞く力」を育てたければ、たくさん話を聞いてあげることが大切です。
そして「ながら聞き」も厳禁です。スマホを見ながら、お料理をしながら、掃除機をかけながらはNG。
子どもの目を見て、相手に「あなたの話をちゃんと聞いてるよ」と伝えてください。それによって子どもは安心して話を続けることができます。
親子でリアクション対決!
次に大切なのは、「お友達やパパママの話をじっと聞かせる」そして「きちんと相槌を打たせる」ということです。
「聞く力」の弱い子は、残念ながらコミュニケーション下手であることが多く、たとえば相手の話を遮って自分のことを話し始めてしまったり、相手の話に対して上手に返せなかったりします。会話のキャッチボールができないんですね。
このコミュニケーション下手が原因で、将来、本人が困りごとを感じてしまう日が来てしまってはかわいそうに思います。
ですから、できれば小学校低学年のうちから、相槌を打たせたり、相手の話を最後まで聞かせる訓練をしておきたいものです。
家族で食卓を囲む際など、複数で会話しているときに、パパとママがお互いの話に対して上手にリアクションしてお手本を示してあげましょう。
子どもは真似をして少しずつリアクションできるようになっていきます。うまくリアクション出来たときに「腕を上げたね」と褒めてあげるとより効果的です。
家庭内で「リアクション大会」を開いてもよいと思います。誰が一番相手の話を上手に聞けたかを競うのです。子どもはどんどん吸収して、素晴らしい聞き上手になっていくと思います。
音声だけで情景をイメージさせる
最後にご紹介したい方法は「ラジオを聴く」というものです。
脳神経外科医の和歌山県立医科大学名誉教授板倉徹氏によると、ラジオは情報が音声だけで視覚情報がないので、それを補おうとして前頭前野が活性化するのだそうです。
脳の血流量の変化を測定する光トポグラフィー検査で、ラジオを聴いている人の前頭前野のはたらきと、テレビを見ている人の前頭前野のはたらきを比べると、ラジオの方が明らかに前頭前野が活性化されていることがわかります。[*2]
しかし子ども向けのラジオ番組ってそうそうないですよね。
そこでおススメしたいのが、好きなアニメを映像なしで音声だけ聞かせるという方法です。これならキャラクターも頭に入っているでしょうから、脳内にイメージを作りやすいですよね。
物語文の読み聞かせも非常に有効ですが、パパママもなかなか時間が取れないでしょうから、ラジオやアニメ音声の活用をお勧めします!
まとめ
かつては、ご近所の頑固じいさんや駄菓子屋のおばあちゃん、犬を散歩させてるおばちゃんなど、子どもが大人と話す機会は非常に多くありました。
しかし最近では子どもの安全が優先されるあまり、親以外の大人と会話する機会が激減してしまいました。「お友達のママ」とさえもあまり話さなくなってしまっています。
そうした「コミュニケーション機会の激減」こそが「日本子ども達の国語力低下」を激しく助長し、「コミュニケーションが苦手な若者」を増大させていると強く感じます。
しかしだからと言って、子ども達のコミュニケーションの機会を急に増やすことは難しいですよね。ですからご家庭でコミュニケーションの機会を増やしていただくしかありません。
今回は、塾生たちと日々接する私の実感を交えながら、子どもの「聞く力」の低下についてお話ししました。
他者の話を聞くことは、中学受験に限らず、生きる上で最も重要なスキルのひとつ。保護者の皆さんのちょっとした働きかけで、子どもたちのコミュニケーション能力はグンと向上するはずです。
家庭でできるトレーニング法、ぜひチャレンジしてみてください。
[*1]「これからの時代に求められる国語力」2004年/文部科学省
[*2]「ラジオは脳にきく―頭脳を鍛える生活習慣術」板倉徹著/2006年/東洋経済新報社
※記事の内容は執筆時点のものです
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