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子どもの性格と中学受験への向き不向きについて|低学年のための中学受験レッスン#17

専門家・プロ
2023年7月03日 宮本毅

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お子さんがまだ小さいと、わが子が中学受験に向いているのかいないのか、なかなか判別しづらいですよね。

でも周りはどんどん塾に行き始めるし、塾からは「早くに始めておかないと間に合わなくなりますよ」と煽られるしで、一体どうしたらよいのか焦る方もいるでしょう。

向いているなら試してみたいけど、向いていないなら無理に挑戦させたくはないと考える親御さんも多いと思われます。

今回は「子どもの性格と中学受験の向き不向き」について解説したいと思います。

中学受験は人生の必須ルートではない

まず大前提として、「中学受験は絶対に通る必要があるルートではない」ということを、すべての保護者の方にわかっておいていただきたいです。おうちの壁のどこかに「標語」として貼っておくことをおススメします。

というのも、中学受験をスタートさせて一度沼にハマると、多くの保護者の方がこの大前提を忘れ、沼から抜け出せなくなってしまうからです。

もし「うちの子は、やっぱり中学受験は向いてないんだ」と感じる時が来たら、撤退しても全く問題ありません。

たとえ撤退したとしても、お子さんの人格形成や脳の発達には何も悪い影響はないと断言できます。むしろ無理やり続けさせることの方が、その後の人生に悪影響を及ぼす危険があります。

ですから「撤退しても全然OK」という心構えで、気楽に中学受験を始めていただて良いと思います。

中学受験に向いている子・向いていない子

多くの親御さんが気になる「向き・不向き」について、まず結論から申し上げますと、中学受験に向いていない性格はありません。

どんな性格の子、どんな特性の子であっても、中学受験を始めていただいて大丈夫です。

もちろん、たとえば学習障害などをお持ちのケースですと、いわゆる難度の高い中学への合格は難しいですが、偏差値という物差しで志望校を決めない限りはよほどのことがない限りは合格できる学校は見つけられます。

「うちの子、こんなにおっとりしていて中学受験に耐えられるかしら?」「落ち着きがなくじっと机に向かえない子だけど中学受験は無理かしら?」といったご不安はごもっともなことだと思いますが、そう心配される必要はありません。

「いつでもやめていいんだから」という気持ちで、気楽に始められることをおススメします。

ただし、いくつかのケースにおいて「中学受験ではなく高校受験の方がよい」場合もありますので、個々に解説していきたいと思います。

プライドが高く、小さいころに比較的成績の良い子は、大きな挫折を味わう危険がある

幼稚園や小学校低学年の時に、途中式も書かずに頭の中でパパッと計算問題をそつなくこなし、保護者の方が「うちの子ってもしかして天才なんじゃないかしら」と感じるタイプのお子さんは、意外なところで挫折を味わう危険性があるので注意が必要です。

ぶっちゃけ話をしますと「うちの子ってもしかして天才?」と感じるのはたいていの場合「親バカ」と呼ばれる状態です。我が子のことは何でも「良く」見えるものです。

実は、低学年の時に器用に何でもこなしてしまう子というのは、意外と珍しくありません。そうはいっても、親としてはどうしても期待してしまいますよね。子どもがポンポン答えを出して正解したり、本をものすごく早く読了したりすると、親はついつい褒めてしまいます。

けれどこういった子どもの中には、小4くらいまでは割と成績優秀で過ごしたものの、複雑な解法過程をたどらないと正解にたどり着けなくなる小5以降にガクンと伸び悩むタイプがいます。高学年に入ると問題の内容がグッと難しくなるので、丁寧に途中式を書いたり図を書いたりしないと理解できなくなるからです。

これは、生来の勘の良さを持つがゆえ、こういったまどろっこしい作業を面倒に感じて、「考えること」をおろそかにしてきてしまったケースですね。幼少期に図を書いたり式を書いたりして、亀のようにのろのろ理解しながら着実に「考える力」を鍛えてきた子たちに一気に抜かれてしまうわけです。

結果として、プライドを傷つけられて、お勉強に気持ちが向かなくなってしまう場合も。せっかくの素晴らしい能力を発揮できず、中学受験を挫折したり、全く勉強しなくなってしまう子どもは、本当に多いのです。

こうしたタイプのお子さんには、幼少期にポンポン答えを出させたり、本をさっさと読み終わってしまっても、条件反射的に過度に褒めすぎないことが重要です。「じゃあママに解き方を教えて」「本のあらすじを聞かせて欲しいなぁ」と、中身をきちんとチェックして、確認できてから思いっきり褒めるようにしましょう。

「結果ではなく過程を褒める」これ、めちゃくちゃ重要です!

活発で競争するのが好きな子は、人格形成に悪影響を及ぼす危険性あり

中学受験急進派の中には「子どもは元来競争好きなのだから、そこをうまくたきつければものすごくやる気を引き出すことができる」とおっしゃる人もいます。確かにその通りなのですが、少し偏りすぎているような気がします。

競争は確かに、勝者にならんとして個々人のモチベーションを一時的に高めます。しかし、競争というものは一般に、一部の勝者のために、多数の敗者を必要とします。

偏差値がそのいい例で、一般に上位7%に入れば偏差値65以上を取ることができますが、それは残りの93%の人がいてこそ、その数値が取れるわけです。だから、競争を突き詰めていくと、ごく一部の生徒は「やる気をたきつけられ」どんどん勉強するようになるいっぽうで、多数の「やる気を持てない子」「自己肯定感を持てない子」を生み出す結果となってしまいます。

あなたのお子さんがそのひとりにならないとは限りませんし、仮に勝者の側に入ったとしても、これはお子さんたちが生きていくこれからの社会にとって大きな損失です。

でも、せっかく競争するのが好きで、それを通して頑張れる子なら、競争させないのはもったいないですよね。

そこで必要になってくるのが「全人教育」であると私は考えます。「全人教育」とは大正デモクラシー期の教育改革運動の中で教育学者、小原國芳先生により提唱された考え方で、人間がもつ様々な資質をバランスよく育成しようとする教育理念のことです。

この考え方にのっとり「学業で優秀な成績を収めることは素晴らしいが、他者に対して敬意を払ったり、他者の心をきちんと理解して慈しむこともまた、人を形成する大切な要素だから、良い成績を取ったからと言ってそれをおごらず、他人を見下すことのないようにしよう」とお子さんを導いてあげて下さい。

そうすれば競争に奔走し、人よりも良い成績を取ることに一生懸命になっても、人格的に問題のある子どもには育たないと思います。

一般に「中学受験に向かない」とされる子の導き方

おっとりした優しい子、落ち着きがなく集中力が持続しない子、お勉強があまり好きではない子。

このようなタイプのお子さんは、一般的には中学受験には向かないと考えられがちです。塾の先生からもそのように言われてしまって親子で落ち込むことも少なからずあります。

確かに、自分から進んで意欲的に学習に向かい、授業中はずっと集中して先生の話を聞いて、家庭学習もテキパキとこなす「優秀な生徒」は、きっと中学受験でもきちんと結果を残すでしょう。そうした子に比べると、我が子は「中学受験には向いてない」のではと不安に感じてしまうこともあるでしょう。

しかし中学受験というものは、必ずしも「一流校を目指す」ことだけがその目的とは限りません。

「高校受験に分断されない6年間を手に入れる」「公立中にはないきめ細かな面倒見のよい教育を受けさせたい」「蔵書数の多い図書館や放課後利用できる自習室など、学習環境の整ったところで生活させたい」など、中学受験をする目的は様々です。

「少しでも偏差値の高い中学へ入れたい」というのでなければ「優秀な生徒」と競わせる必要もありませんし、「優秀な生徒」が多数通う、小学生のお尻を叩いてひたすら勉強させるような塾に入れる必要もありません。

おっとりした子ならマイペースで学習できる塾を、集中力が持続しない子なら授業中頻繁に声をかけてくれる塾を、お勉強が好きでない子なら様々なアプローチで学習に対する興味を喚起してくれる塾を、ぜひ頑張って探してみてください。

塾を探す際に一番良い方法は「口コミ」です。ご近所さん、小学校の先輩後輩、親戚など、我が子のことをよく知っていて信頼できる方からの情報を元に塾を探せば、ハズレに当たってしまうことはまずないでしょう。

ネットの情報も良いのですが、発信元が信頼できるかどうか確かめようがないので、直の口コミを活用されるのがよろしいかと思います。

まとめ

私の教え子の中には、偏差値40くらいの私立中学から早稲田大学や慶応大学、国立大学に進学したという子がたくさんいます。そういう子に話を聞いてみると、みな一様に「中学受験してよかった」「中学受験で身につけた勉強の仕方が大学受験でも役に立った」「中学のレベルは関係ないと思う」と言います。

小学6年生の「2月」という狭い時期の学力で輪切りにしたところで、実は「勝者」などは存在せず、その後の人生の勝ち負けなど決まらないと強く感じます。あまり気負わず、それぞれのご家庭に合った中学受験を始めてみてくださいね。

※記事の内容は執筆時点のものです

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