中学受験人気のピークアウトは本当か?|3年後の中学受験#6
コロナ禍、少子化、物価の高騰……社会経済の影響を受けて、刻々とその姿を変えていく中学受験。
どんな子どもでも小学6年生というタイミングで受験と向き合わなければならない以上、中学受験の「今」だけでなく、「今後、何が変わって、何が変わらないのか」について、保護者は見きわめておきたいもの。
多くの中学受験塾や保護者への取材を重ねてきたノンフィクションライターで、『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)の著者の杉浦由美子さんが、3年後を見据えて、中学受験のこれからを探る連載「3年後の中学受験」。
連載6回目のテーマは、中学受験の人気とそのピークアウトについて。中学受験の人気が下降するタイミングはどんなときなのか、首都圏模試センターの取締役教育研究所長の北一成さんにお話を伺いながら、状況を分析します。
2023年の首都圏の中学受験は受験者数が増え、私立・国立中学校の受験者は52,600人となりました。2016年は43,700人だったので、7年間で8,900人増加しています。(首都圏模試センターの推定より)
しかし、一方で、2023年の新4年生の入塾数が減っているという話もあり、そろそろ中学受験はピークアウトかなという印象も受けます。
実際、3年後の受験はどうなるのでしょうか。首都圏模試センターの取締役教育研究所長の北一成さんのコメントを紹介しながら、今後の動向を探っていきたいと思います。北さんは中学受験携わって40年というキャリアを持ちます。
Contents
中学受験人気の拡大とピークアウトの可能性
ここ数年、人気拡大が続いている首都圏の中学受験。
しかし少子化の影響に加え、ほかにもいくつかの理由があって、人気のピークアウトが見えてきたともいわれています。
中学受験人気の過熱が「受験控え」の動きを招く
「中学受験人気がピークになると『受験するのはとても大変だ』という話が広まって、受験を敬遠をする家庭が出てきます」(北さん)
2023年は中堅校の受験が難しくなったと言われます。
ある大手塾の関係者はこう話します。
「コロナ前までは、”名前を書けば誰でも入れるような学校”だった学校の中のいくつかが、2023年は非常に難しくなっていました。合格最低点が非常に高くなっていました」
その理由のひとつとしては、学力が上位の受験生が、中堅校も受けるようになってきたことがあげられます。
かつては、「一定の偏差値の学校に受からなかったら公立中学に進学する」という受験生も多かったですが、今は中学受験をするからには私立中学に進学をするという希望が多くなっており、トップ校を受験するような層でも、安全校として中堅校を受験するのです。
2023年度に中堅校に進学した生徒の保護者はこういいます。お子さんは5年生の夏休みから塾に入り、当初から中堅校への進学を希望していました。
「うちの子にとっては本命の中堅校の受験会場で、小学校のクラスメートに会ったんですよ。驚きました。だって、サピックスのαクラスにいて、御三家を狙っているような子なんですよ。ちょっと前なら、ああいう子がうちの子と同じ学校を受けるなんてあり得なかったと思います」
この話を話してくださったのは、タワーマンションに住んでいるママさんです。
タワーマンションはキッズスペースやパーティースペースなどの共有スペースも充実しているので、お子さんがいる世帯はつながりが強く交流が盛んです。
こういうママさんが、「息子の受験のときね、こんなことがあって」と話せば、同じマンションの小学生低学年のママたちは「そんなに大変なら、うちは中学受験は止めよう。塾の代わりに、英会話や公文を続けよう」と考えるかも知れません。
中学受験の人気が過熱し、入りやすいと思われていた学校が難しくなり、「中学受験は大変だ」というイメージが広がると、中学受験人気がピークアウトする。こういうサイクルがあるのです。
ほかに、グローバル化の波の影響もありそうです。子どもの将来のためには英語力が必要だと言われていますが、中学入試はまだ四教科(算数、国語、社会、理科)での選抜が中心です。中学受験の対策を優先して、英語学習を中断する子どもも多いです。
しかし今後は、大学受験や社会人になってからのことを考えると、中学受験をさせるよりは、英語をがっつりやらせようと思う家庭も増えてくるかもしません。
景気の悪化も中学受験人気に水を差す
次に中学受験生を減らす要因として想像できるのは景気の悪化です。
「過去に中学受験のピークは、1991年と2007年でした。その直後にバブル景気崩壊やリーマンショックがあり、景気悪化の影響を受けて受験者数が減りました。中学受験は景気の影響を強く受けます」(北さん)
物価上昇から家計が苦しくなり、先行きが見えなくなってきました。景気が悪化するとも言われています。
こうなると、経済的に余裕がある家庭でも、少しでも教育費を節約しようと考えはじめそうです。
私立の中高一貫校に入れれば、塾に通わずに済むから、トータルで考えると公立と差がないと考える保護者もいますが、実際にはそううまくはいかないことも多いです。
宿題や小テストが多い学校ですと、それらの課題をこなすために個別指導塾に通うケースも非常に多いですし、また、中堅校の生徒が「予想外に学力が伸びたので国立医学部を狙いたい」となった場合、学校では医学部対策ができないと、やはり塾に通う必要が出てきます。
また、私立中高一貫校では海外研修旅行で多額の費用がかかることもあります。ある学校では海外研修のために積み立てをしていたのに、円安のために追加で30万円を徴収されたという話も耳にしました。
やはり、公立中学への進学に比べて、私学は費用がかかりがちです。今後は、敬遠する家庭も増えてくるかもしれません。
「周囲が中学受験をするからうちも」という主体性のない受験が減るようにも思えます。
それでも人気が続く中高一貫校も
このように、中学受験以外の選択肢を考える家庭も増えていく可能性はあります。
いっぽうで、私立中高一貫校のメリットをよく知っているからこそ、中学受験をさせたいと考えるケースが増えているとされる層もあります。
とじる
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