連載 3年後の中学受験

伝統的な男子校人気が復活傾向? 大学合格実績との関係は……?|3年後の中学受験#5

専門家・プロ
2023年7月14日 杉浦由美子

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コロナ禍、少子化、物価の高騰……社会経済の影響を受けて、刻々とその姿を変えていく中学受験。

どんな子どもでも小学6年生というタイミングで受験と向き合わなければならない以上、中学受験の「今」だけでなく、「今後、何が変わって、何が変わらないのか」について、保護者は見きわめておきたいもの。

多くの中学受験塾や保護者への取材を重ねてきたノンフィクションライターで、『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)の著者の杉浦由美子さんが、3年後を見据えて、中学受験のこれからを探る連載「3年後の中学受験」。

連載5回目のテーマは、2023年の中学入試で見られた伝統的な男子校人気の復活傾向について。長期的には共学志向の高まりがみられる中学受験ですが、2023年には一部逆転の現象が観測されたのです。その理由は? 栄光ゼミナール入試情報センター責任者 藤田利通さんにお話を伺いながら、状況を分析します。

 中学受験では共学人気が高まってきましたが、2023年の入試でちょっと違う現象がありました。2022年に比べて2023年は共学校の男子受験数が減ったのです。中学受験生の数と共学の学校の数は増えているのにです。

 理由としては共学の偏差値が上がりすぎていて、敬遠されたという傾向もありましょう。しかし、それ以上の理由として、男子校の人気が復活していきているという見方もできましょう。

 共学志向には男女で差があるように見えます。女子の場合、受験生自身の「女子校は人間関係が複雑でいじめが多そう」といった誤解からくる共学志向もあります。一方で、男子受験生は「女子がいないとつまらない」といった環境的なことを考えることはまずありません。

 でも、この10年ぐらいで男子の間でも共学の人気がでてきているというのも事実。なぜかというと、共学は比較的新興の学校が多いので、トレンドにあった教育を取り込んで、それをうまくプロモーションしていったからといわれます。メディアは新しい試みを取り上げたいから、斬新なことを始めれば取材をします。

海城や武蔵の改革や情報発信の成功

 ここ最近の中学受験では、グローバル教育やICT教育といったものを押し出している学校が人気を集めてきました。

 三田国際のICT教育は専門の教員が管理するものではなく、生徒の自主性を尊重するもので、私の目にも魅力的に見えます。

 女子校では山脇が改革を進め、人気を集めましたが、男子校もそういった革新を試み、それの情報発信がうまくいっている学校が人気を集めています。

 興味深いのは、難関名門の男子校がそういった改革の試みをしている点でしょう。近年では海城が改革に成功しイメージチェンジし人気を集めましたが、今、人気が上がっている難関男子校は武蔵です。

 「2023年入試で武蔵は受験者数を減らしたが、実際の難易度は上がっている」という話を何度か耳にしました。つまり、学力が高い受験生が武蔵を志望するようになっているのです。なぜなのでしょうか。栄光ゼミナール入試情報センター責任者 藤田利通さんに伺うと、こう説明してくださいました。

「まず、情報発信です。杉山剛士校長が積極的にメディアで情報発信をしたり、『校長散歩』という校内の様子を紹介するブログの更新が頻繁であったりと、武蔵の魅力を外部にピーアールされています」

 『校長散歩』では、授業の様子が紹介されたり、武蔵の敷地を通る川にカワセミが来ている写真が載っていたりし、美しいカワセミの写真も同時に掲載されています。

 もうひとつ武蔵の人気の理由があります。

「保護者も今はいかに我が子に合うかで学校を選びます。武蔵は自由な校風で、個性的な男子が伸び伸びと過ごせます。そういったところに惹かれて志望される保護者も多いです」(藤田さん)

 実際、現役武蔵生の保護者はいいます。

「運動が苦手で本を読むのが好きな子なので、文武両道の学校は合わないと思いました。男子校で文武両道ではない学校はなかなかなくて、悩んでいたら、塾から『息子さんは武蔵に向いていますよ』と薦められました。入学をさせて本当によかったです」

鉄緑会の指定校ではない

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杉浦由美子

杉浦由美子

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ノンフィクションライター。
教育やジェンダーなどをテーマに取材を続けるベテラン記者。
現在は『マネーポスト』『ダイヤモンド教育ラボ』などで教育をテーマに連載をしている。『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)、『女子校力』(PHP新書)など単著多数。