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お金、子どもに使わせてますか?|低学年のための中学受験レッスン#38

専門家・プロ
2024年4月22日 宮本毅

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算数の授業をしていると、子どもとお金の関りが薄くなっていることを痛感します。

以前なら、たとえば

「300個のおはじきを兄と弟で5:2になるように分けたところ、20個あまりました。弟の取り分は?」

といった問題に苦労している生徒たちに

「じゃあ、300円を兄と弟で5:2になるように分けたら20円あまった、だったらどう?」

と聞くと、途端に多くの生徒が

「それならわかる!」

と反応したものでした(弟の取り分は80円)。

お金の計算は当時の子ども達にとっていわば「死活問題」であり、お金の計算ができないと自分が損をすることをよく理解していただからだと思います。

しかし、今の子たちはお金の問題に変えて解かせても、ピンとこないケースが非常に増えました。

世の中から「おこづかい制」がなくなりつつあり、欲しいものを欲しいときに買ってもらえるようになって、お金に対して必死に考える機会が激減したからでしょう。

お金は子どもと算数を結びつけてくれる生きた教材だっただったのに、それがなくなってしまうことは、教える側にとっても非常に痛手です。

今日はズバリ、子どもが「お金」を実際に使って、「お金」の価値を実感することは、中学受験にも役立ちますよという話をします。

お金に関する出題は意外に多い

中学受験において「お金」に関する問題は意外に多く出題されます。

算数においては「損益算」と呼ばれる単元が代表的です。

たとえば、

ある品物をいくらかで80個仕入れ、20%の利益を見込んで定価をつけたところ、全体の8割が売れたところでそれ以上売れなくなったため、定価の1割引きで残りを全部売りました。その結果1408円の利益が出ました。最初に仕入れてきたときの品物1個あたりの値段はいくらでしょう?

といったような問題がこれにあたります(答えは100円)。

このような問題を解くとき、定価や利益といったことを肌感覚で知っている生徒と知らない生徒とでは、理解の速度に大きな差が生じます。

「利益ってなんじゃ?」「仕入れ値ってなんじゃ?」となっていると、言葉の理解から入らないといけないわけですから、その分時間がかかってしまうのは当然ですね。

私などは、母親から「鶏肉300g買ってきて」とお使いを頼まれたときに、余ったお金はおこづかいにもらう約束にして、スーパーや精肉店を回り、少しでも安い店を探し回ったもです。

「利益」という言葉をわざわざ勉強する必要もありませんでしたし、「20%引き」とか「3割引き」といった言葉にも敏感で、自然と計算ができるようになっていました。「損益算」は得意中の得意な単元でした。

現代においても、算数が得意な子は、日常生活の中での実体験が豊富であり、それが学習としっかりリンクしている傾向が強いです。

実際、成績の良い子たちはみな、「割り増し」や「割引」といったものは感覚的に理解し、割合や比、単位量当たりの大きさなども直感的に数式が思い浮かびます。

一方、「割り増し」や「割引」といったものに日常のなかで触れる経験が少なかった子は、たとえ地頭が良い子であっても、感覚的につかめる子からはどうしてもワンテンポ遅れてしまいます。

もちろん十分な学習を積めば追いつけますが、感覚的に理解しているアドバンテージは、とくに学習の初期段階においては大変有効であると考えられます。

金銭感覚が必要なのは算数だけではない

2021年の芝中の第二回入試の社会で、こんな問題が出題されました。

家庭用ゲーム機の転売をめぐってどのような問題が起こると考えられますか。120字以内で答えなさい(記事に合わせて問題の一部を改変しています)

この問題には1600文字以上の長いリード文が示されており、その中で「転売の現状」や「チケット不正転売禁止法(令和元年6月施行)」の解説などがおこなわれています。

しかし、「仕入れ値」や「定価」や「利益」といった概念の乏しい子が「転売の問題点」について語ることは難しいでしょう。

転売をする人たちが一体どうやって利益を得ているのか、なぜ転売をすると利益率が上がるのか、といった仕組みを理解できないからです。

別の中学ではこんな問題も出されています。

日本の交通には近年様々な問題が現れていますが、交通網の整備はそれまでと変わらないやり方で進められています。交通網に関して近年現れてきた問題と、これから求められる交通網の整備の在り方について、君の知っていることをまあとめて書きなさい(記事に合わせて問題の一部を改変しています)

これに対する解答の例としては、こういったものが考えられます。

自動車の急速な発達は、特に都市部で交通渋滞や騒音、排気ガスなどによる大気汚染などを引き起こした。こうした問題に対応するためには、燃料電池自動車などのエコカーの開発と普及に力を入れるとともに、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素を大量に排出する自動車の利用を制限するような政策が求められる。

さらに、「財源をどうするのか」について言及しておけば、さらなる高得点が望めるでしょうそのためには、普段から税の仕組みや国家予算について興味関心を持っていなければならないということになります。

どうやったら金銭感覚や税に対する意識って高められるの?

低学年向けのコラムなのに、ちょっと小難しい話になってしまいましたね。

今すぐ国家予算をお子さんに理解させろということではありませんよ。なんとなくでいいので、小6の受験期にどんな風に成長している必要があるのか、ゴールを示したくて、少し小難しいところまでお話しました。

じゃあ今、一体どうすればいいの?って話なのですが、こちらはいたってシンプルで、誰でもできるものです。

「お小遣い制」を導入する、ただそれだけです。

お小遣いを設定して、その中でやりくりさせるわけです。

保護者の方がなんでも買ってあげていたのをやめて一ヶ月のお小遣いを決め、足りなくなっても補填しない。

そうすれば子どもは勝手に、「〇割引」を計算するようになり、消費税のかたちで「税」というものを意識し出します。

お小遣いをどうやったら有効に使えるかを工夫するようにもなりますので、思考力も鍛えられます。

一石三鳥にも四鳥にもなる、それが「お小遣い制」です。

もし大金を渡すのがちょっと怖いとお考えなら、一週間ごとに設定してもいいでしょう。

2023年の調査[*1]によると、月額のお小遣いの平均値と中央値はそれぞれ、小1~2では966円と800円、小3~4では1121円と1000円、小5~6では1653円と1000円だったそうです。

ですので、おおよそですが、週300円を渡して、この中でやりくりしなさいと言えばいいのではないでしょうか。

ただし繰り返しとなりますが、たとえ足りなくなっても絶対に補填はしないでください。補填してしまうとお小遣い制の意義が崩れてしまいますので。

同時に陶磁器の貯金箱を与えて、残ったお金はそこに投入させていけば無駄遣いの心配もなくなりますし、お金もたまっていきます。

とにかくお小遣い制は教育上も子育て上もいいこと尽くしです!ぜひ導入を検討してみてくださいね。

参考文献

[*1]ママソレ|【2023年最新】お小遣いの平均はいくら?小学生・中学生・高校生別のパパママにアンケート!

※記事の内容は執筆時点のものです

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