連載 プラスにする中学受験

【連載第23回】「プラスにする中学受験」~下剋上受験~

2017年1月16日 杉山 由美子

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金曜ドラマ「下剋上受験」はおもしろくなりそうだ。

中卒の父親が、出来のいい娘につきあって二人三脚、合格をめざし、ひたすらドリルを解こうというのだ。めざすは桜蔭中学。中学受験をめざす人なら知らぬものはない女子校の最難関中学である。

このありえないこの設定がマンガチックだが、どうやら父親は本気である。母親は設定そのものを相手にしない。母親も中卒。これまで二人とも勉強で無理をすることはなかったけれど、いいこともなかった。

転職やパートをくりかえし、安い月給に甘んじてきた。その両親もそんな具合だから勉強に期待することもなかった。人生こんなものと受け入れてきた。でも娘もそれでいいのか。娘は素直で、学校の成績もいい。

でもこのままでいけば、両親のようになってしまうかもしれない。

できの良い娘だけはこの出口の見えない人生から救ってあげたい。こうして娘可愛さをてがかりにして無謀にも最難関中学をめざして親子でがんばることに父親が決めたのだ。

なにしろ受験するのが初めてだ。無理な希望もいだいたことはない。だいそれた目標のほうがよかったのかもしれない。

それからの特訓はすさまじい。算数、国語、理科、社会、父親も務めに行く以外、小学受験のドリルをめくり、娘もそれに付き合う。

本気になって何かに取り組むのは人生始まって以来である。この光景はアスリートの親子に似ている。

親の得意なスポーツを子供に教え、特訓する。卓球の愛ちゃんだって3歳から、お母さんに泣きながら教わったではないか。

考えてみれば、今だって勉強の得意だった両親がつきっきりで、手取り足とり勉強を教えているから、幼くして才能を発揮するのではないか。でも取材して思ったのは、アスリートより勉強ができるということのほうがよほど才能は発揮しやすいこと、単純に考えて東大には毎年何千人も受かるのだから。

東大生の親は中学受験に夢中になることが多いが、そうやって「頭のいい家系」になる。教員の子はだいたい成績がいい。家にも勉強する雰囲気がある。そしていまどきの子どもは勉強に囲まれている。勉強ができないのはつらいのである。できない子は気の強い子に劣等感を抱きやすい。

主人公の女の子にとって大好きなお父さんが本気になって勉強を見てくれるのは嬉しいことだった。たいていの子がそうだろう。

親に従順な子が多い時期、中学受験に向かわせるのは親と子の蜜月時代にいい時間なのかもしれない。ただし、そこに親が甘えて無理をさせるのが問題だけど。

こうした親子のハッピーな受験は、ハッピーなエンドにはならない。

でもそれでいいのだ。

聡明な娘は落ちても次の目標をめざしてがんばる。父親は新しい世界を見つける。

努力することが大切だと自費出版の本で、今や文庫化した本書から教わった。

※記事の内容は執筆時点のものです

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