中学受験ノウハウ 連載 中学受験との向き合い方

「嫌気」をうまく原動力に変える方法 ―― 中学受験との向き合い方

専門家・プロ
2019年8月29日 やまかわ

首都圏の一部では、4人に1人の小学生が挑戦するともいわれる中学受験。子供の受験に親はどう向き合えばよいのでしょうか。この連載では、『中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由』の著者である、田中純先生に中学受験との向き合い方をテーマにさまざまな話を伺います。

前回は、家が癒しの場所となるためのポイントを解説しました。今回は、「やる気」の対義語について、田中先生に伺います。

坂道を上ろうと思う状態は「やる気」があるということ

子供がやる気があるかないかを判断するには、子供が坂道の途中にいる姿をイメージしてみてください。お子さんは志望校合格と上を目指して歩みを進めています。このように、「目標に向かってやるべきことをこなしていこう」と自発的に考えている状態は「やる気」がある状態です。

しかし、親から受ける過度なプレッシャーや受験に対する不安などのストレス反応によって「やる気」が削がれ、「やる気」とは真逆の気持ちが心の中に発生することがあります。

やる気の反対は「嫌気」

「やる気がある状態=坂道を上ること」と表現しましたが、やる気が削がれた状態は、坂道で止まったり、ひっくり返ってジタバタしたり、後ろ向きに進もうとしたりすることに似ています。目標を達成するためには不利益なことだとわかっているはずなのに、立ち止まったり、目標から遠ざかるような行為に及んでしまったりする。このとき、心のなかには「やる気」ではなく「嫌気」が満ちています。

ひとつ具体例を紹介しましょう。

2018年のテニス全米オープン、大坂なおみVS.セリーナ・ウィリアムスの試合の一場面。試合終盤、セリーナは審判の判定に激昂してラケットをコートに叩きつけました。その結果、ゲームペナルティとして1ゲームを失うことになります。本当は勝ちたいはずなのに、勝利のためには何のメリットもない行動をとってしまったのです。

スポーツの世界でも受験の世界でも、思うような結果が出なかったり、ひとつひとつの過程に納得がいかなかったりすることはよくあること。目標に向かって突き進むなかで、大なり小なりの「嫌気」を抱えています。セリーナの場合は、それが積もりに積もって爆発してしまいました。

嫌気を原動力に変える

嫌気はマイナスのイメージでしかないように思えますが、使い方によっては坂道を上るための力強いエネルギーにもなります。

たとえば、お腹を空かせた1人の原始人が野原を歩いているところを想像してみてください。今、彼の目の前を鹿が横切りました。しかし、お腹が空いて元気が出ず、追いかける気力がなかなか湧いてきません。

ここで、「空腹が辛い」→「辛い現状から脱したい」→「気力を振り絞って獲物を追いかけよう」というように考えることができれば、空腹という嫌気をキッカケに前に進む力が出てきます。さらに、獲物を追いかけている最中に後ろから猛獣に追いかけられれば、もっと必死に走るでしょう。

嫌気から逃げること、嫌気と向き合って戦うこと、どちらも自分の心を守るための行動ですが、二次的な効果として目的に近づけることもあるのです。中学受験の勉強で嫌気とうまくつき合うためにはどうすればいいのか、具体的な対策を見ていきましょう。

自分を客観視する

嫌気に満ちている状態を放置すると、本来の目的からどんどん遠ざかります。

嫌気が出たときは、「今、自分のなかに嫌気が出ているな……」と自分で気づく、あるいは「あなたは今、嫌気が出ているよ」と他人が声掛けすることが大切です。自分の現状を客観視することで、嫌気に振り回されない行動を選択することができるでしょう。

大人が子供を見守り、見守っていることを伝える

前述した全米オープンの試合を見た大御所マルチナ・ナブラチロワのコメントは素晴らしいものでした。

「私も現役時代に何度もラケットを粉々にしたいと思った。でも、そのときは子供たちが見ていると考えた。そうすることで、渋々でもラケットを収めていた」

つまり、子供たちの眼差しを感じることが残念な事態を回避するのに役立っていたと言うのです。大切な人からの関心のこもった柔らかな眼差しを感じることで、その大切な人が心の中についていてくれる、と思えるようになるのではないでしょうか。

嫌気がさして「うるさいな!」という反応はしばしば親の余計な一言によって生じます。ですから、余計なことは言わず、つまり口を出さず、もちろん手も出さず、そして目を離さないでいること。それが子供自身が嫌気と上手に付き合えるようになる親の振る舞いのコツです。

嫌気に負けそうなときの対策

坂道の下から迫るプレッシャーやストレスが手に負えなかった場合、イライラしたり、ネガティブになったりと、精神状態が不安定になる人が少なくありません。そんなとき、自分自身でどう処理するのか、周囲の人間は何ができるのかを解説します。

嫌気を成長させない

ここでは嫌気を「やだモン」というキャラクターに例えて説明してみましょう。「やだモン」を飼いならすためには、彼らを肥大させないことが大切です。彼らの大好物は「ちっとも進歩していない」という焦燥感です。ならば、「自分は前進している」という感覚を絶やさなければいいんです。

たとえば、目標設定の記事で解説したように、日課を達成したら○をつける習慣を持つこと。これは「やだモン」のライバルである「やったモン」を元気づけることです。あるいは、周囲の人が「先週できなかったことができるようになってるね!」と声をかけ、前進していることに気づかせてあげることも大事です。ひとつひとつのハードルを越える喜び、すなわち「やったモン」を再確認できれば、「やだモン」はおとなしくなります。

また、「夢中」「熱中」状態になる経験をたくさん積んできた子供は、嫌気に苦しんだり、悩んだりしにくい傾向があります。勉強には関係ないことであっても、小さいうちから目がキラキラするような、楽しんで知識を身につけられる体験をたくさんするといいでしょう。

家族全員で心にゆとりを持つ

家から一歩外に出たときに、目の前をトラックがビュンと通る家は怖いですよね。心に余裕を持てないときというのはそういう状態です。

具体的には、子供が家に帰ってきて100点満点中30点だった答案を見せてきたときに、「全然勉強してないじゃない!」と怒ってしまうような場合です。心に余裕を持てないとき、子供は嫌気に飲みこまれて、どんどん調子を落とします。

子供であっても大人であっても、思わぬ失敗をすることや不条理な目に合うことは多いもの。そこで沈んだり投げ出したりせずに、むしろ笑い飛ばして「さぁ次に行こう!」と開き直る気持ちを持つことはとても大切です。

この心にゆとりを持たせる特効薬はユーモアです。ユーモアの前では「やだモン」も小さくなってしまいます。心の中の「やだモン」を上手に飼いならして、自分の原動力に変えて坂道を進みましょう。

次回は「学ぶことの意義」について解説していきます。


これまでの記事はこちら『中学受験との向き合い方

※記事の内容は執筆時点のものです

田中純
田中純 専門家・プロ

開成中学校・高等学校、国際基督教大学(ICU)教養学部教育学科卒業。神経研究所付属晴和病院、中高教諭、学校カウンセラーを経て公文国際学園開講準備に参加。現在は赤坂溜池クリニックやNISE日能研健康創生研究所などでカウンセリングやコンサルテーションを行っている。「一家にひとり、一課にひとりのコミュニティ・カウンセラー」を育てることを目標としている。著書「ストレスに負けない家族をつくる」「中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由」(みくに出版)

この記事の著者

編集・ライター。学生時代から都内で6年間塾講師を務める。塾講師時代は、おもに作文・国語・英語の科目を担当。小学生から中学生までの指導にあたる。現在は編集・ライターとして教育関連をはじめ、街歩き・グルメ記事の執筆取材をおこなう。

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