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変わる入試理科。問題の傾向と求められる力|なるほどなっとく 中学受験理科

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2019年11月25日 水溜 兼一(Playce)

学習範囲が広く、難しいイメージがある理科の中学入試問題。難関校に多くの子どもを合格させてきたカリスマ講師・小川眞士さんが、子どもの理科力を育むためのヒントを伝えます。

理科は暗記・記憶力勝負と思われがちです。しかし、近年の中学入試理科は知識だけでなく思考力を問う問題が増えています。中学受験理科で問われる力とは。入試問題の現状やその背景を伺いました。

実験考察や時事問題。暗記だけでは対応できない入試問題が増加

理科の入試問題というと、以前は知識力を問う問題や計算問題が中心でした。ところが近年では、こうした問題は減少傾向にあり、思考力を測る“思考問題”が増えています。この傾向は難関校になるほど顕著で、偏差値60以上の学校の多くは、問題の7~8割が思考問題です。

思考問題とは、文章や図、グラフを読み取って答えるもので、代表的な出題パターンは大きくふた通りあります。ひとつは、実験の説明や測定値が書かれていて、そこからグラフを作成し、グラフからわかることを記述する問題。もうひとつは、仮説を立てて、確認実験を行い、実験結果を考察した一連の文章を読みながら、さまざまな問いに答えるものです。

例えば開成の2019年入試では、アリの実験に関する問題が出題されました。巣と餌の間に迷路を設置して、アリがどのように移動するか仮説を立て、さまざまな条件で実験を行い、アリが出すフェロモンについて考察する問題が出ました。

実験を題材に思考力を問う問題は、生物、化学、物理でよく出題されます。地学では時事問題が増えていて、実際に起きた災害を取り上げて雨量を計算させたり、天気図を読み取かせたりします。火山や地震に関する問題は時事に絡めて出題されることが多くなっているのも近年の特徴でしょう。

問題の長文化、知識問題の変化

入試理科の特徴として、問題の長文化も見逃せません。前述のような、実験をテーマにした問題は、どのような条件で実験し、どんな結果が出たのかを説明するため問題文が長くなりがちです。したがって問題文を精読して条件を整理しないと答えられません。難関校では問題全体の文字数が4500~5000字のところが多く、なかには2018年の麻布のように9000字超というケースもあります。

思考問題が増加し、問題文が長文化している一方、基本的な知識事項を確認する問題も出題されます。例えば、生物分野では昆虫の体のつくりや育ち方を尋ねる知識問題がよく出題されます。しかし、その問い方や表現のしかたにも、変化が現れているのが近年の理科入試問題の傾向です。例えば、アリやクモの足がどの部分にどのようについているか絵を描かせたり、カブトムシの絵を見て胸にあたる部分を塗りつぶさせたりする問題が出題されています。

こうした問題は、塾のテキストに書いてある昆虫の足の本数などを丸暗記するだけでは太刀打ちできないことがあります。より深い理解力と観察力が必要なのです。

入試で求められるのは、理科的な視点と思考力

中学受験は、算数、国語、理科、社会の4教科入試が一般的です。しかし、算数と国語の試験のみでも学校側が受験生の学力を把握して選抜することは可能といえます。では、なぜ理科と社会の試験を行うのか? 理科についていえば、子どもたちの “理科的な視点と思考力”を調べたいのだと思います。

理科は中学から生物、地学、物理、化学の4分野に分かれ、分野ごとに内容を掘り下げて学びます。しかし、小学校では4分野に分けず、理科全般を幅広く学びます。そこでは細かい知識をたくさん蓄積するよりも、まずは自然現象など、身の回りのさまざまな事柄を理科的な視点で捉えることが大事です。そして疑問を抱いたことは自ら調べ、理科的に考える力をつけることが、中学以降の学習に生きてきます。

入試問題を出題する学校側も覚えたことを単純に答えさせる問題ばかりでは、記憶力勝負になってしまうことをわかっているのでしょう。中学受験では、「どれだけ覚えてきたか」よりも、「どれだけ注意深く観てきたか」、「どれだけ考えられるか」が、問われる時代になっています。こうした理科的な視点と思考力を育むためには、まず小学校教科書の知識を身につけることが不可欠といえます。小学校の理科の授業でも、今後は仮説を立て、実験をして、結論を検討するというプロセスが増えていくでしょう。


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※記事の内容は執筆時点のものです

小川眞士
小川眞士 専門家・プロ

小川理科研究所(東京都豊島区)主宰。都内の中学校教諭を経て、四谷大塚進学教室理科講師に。開成や桜蔭の特別コースを約25年間担当、コース生28人全員が開成中学に合格した実績を持つ。教務主任や副室長も務めた。2009年4月に小川理科研究所を開設。主な著書に、『中学受験 理科のグラフ完全制覇』(ダイヤモンド社)、『これだけ理科』(森上教育研究所スキル研究会)、『カンペキ小学理科』(技術評論社)がある。

この記事の著者

雑誌・新聞の編集・ライターを経て、現在は、通信教育企業のキュレーションサイトや大学案内のライティングなどを担当。