連載 中学受験との向き合い方

自分を追いつめすぎない“ポジティブな”完璧思考 ―― 中学受験との向き合い方

専門家・プロ
2020年4月08日 やまかわ

首都圏の一部では、4人に1人の小学生が挑戦するともいわれる中学受験。子供の受験に親はどう向き合えばよいのでしょうか。この連載では、『中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由』の著者である、田中純先生に中学受験との向き合い方をテーマにさまざまな話を伺います。

受験生は模試や塾での小テストや実際の入試問題など、たくさんのテストを経験します。テストを受ける以上、よい点数をとりたいものです。しかし完璧を追い求めすぎると、自分で自分を苦しめる原因になることがあります。一方で高い理想を追求する姿勢が、一概に「悪」ともいえません。大事なのは“ポジティブに”完璧を追い求めることといえるでしょう。

ネガティブな完璧思考が自分を苦しめる例 ―― ミスを恐れ、モチベーションが下がる

一般にいわれている完璧思考の考え方は、減点法にこだわる形が多いでしょう。「○点以上なら上出来だ」という考え方ではなく、「パーフェクトじゃなければ不出来だ」という考え方です。テストを例にするならば、本人にとっては「満点」が合格ラインといった思考ですね。

しかし人間ですから、間違いもすれば見落としをするときもあります。「満点が取れなかったらどうしよう」「70点なんて点数ではダメだ」といった不安・ストレス状態が続いたとしましょう。この場合、余計に脳を使うことになります。勉強に必要な集中力にも影響を及ぼしかねませんし、学ぶ喜びや成長している実感を持ちにくくなります。ミスを恐れてがんじがらめになることもあるでしょう。モチベーションが下がった状態で無理やり勉強することもあるのです。減点法的完璧思考は「完璧でなければダメだ」。一方、その逆の加点法的完璧思考は「より完璧に近づきたい」です。

“ポジティブな”完璧思考とは ―― あるファゴット奏者から学ぶ姿勢

一方、完璧思考も考え方次第では、目的達成に役立つ有効な手段になります。私事ではありますが、趣味でファゴットを吹いています。一度だけ日本で有数の一流奏者からレッスンを受けたことがあるのですが、彼の練習方法は、スモールステップを設けてパーフェクトを目指す姿勢でした。

楽譜のなかには、テンポが速くなったり指使いが複雑だったりと、難易度が高い箇所がいくつかあります。こうした箇所を数小節とりだして、100回連続で成功するまで徹底的に練習するのが彼のスタイルです。

具体的にどのように練習に取り組むかというと、まず机の上にマッチ棒を20本置きAB各10本ずつのまとまりにしておきます。

1回練習して上手くいったらAグループのマッチ棒1本を別のところに移す。2度目に上手くいったら2本目も移す。3本目も4本目も同様にこなしていきます。10回続けてうまくいったら、Bグループのマッチ棒1本を別のところに移します。つまり、Aグループは一の位、Bグループは十の位です。

Bグループのマッチ棒全てが移動したら100回続けて上手くいったということになります。ところが、80回目や90回目で間違えたら、移したマッチ棒をABともにすべて元に戻して1回目からリトライする、という流れです。その話を本人から聞いた時に私は心の中で叫びました。「一流になれるかどうかは、才能ではなく、努力するかどうかだ!」

文章にすると100回という数字が際立ちますが、これは一流奏者である現在の彼が設定している回数です。回数の多い・少ないは問題ではなく、自分の現在地から目標を定め、時間的な余裕、集中力などを鑑みて回数を調節し、その試行錯誤を続けてきたことが彼を一流たらしめている要因のひとつではないかと思います。そしてその持続を可能にしているのが、「より完璧に近づきたい」というポジティブな完璧主義であり、努力すればそれは可能だという信念だと思います。

この話は何かを追求する際の姿勢の参考になるのではないかと思います。子供自身が「【どうしても】この苦手分野を克服【したい】」と思えたときは、こうした「n回チャレンジ」のようなことをするのも良いでしょう。

納得・充実感のあるチャレンジ

肝心なのは、自分が納得できて充実感のある高さのバーを設定し、努力し、試行錯誤することです。たとえば漢字の書き取りであったら、ひとつの新出漢字を5回ずつ書いてみる。算数であったら基礎問題を1日10問ずつ全問正解できるまで何度も解いてみる、というようなルーティンがあってもいいでしょう。

反復の回数が少なかったり、取り組む問題のレベルが低かったりしても、ストレス過多になることなく、自分の実力がついている実感が身につけられればOKです。充実感を持つには、学習内容のレベルを上げ下げすることも大切です。簡単すぎると思ったら問題のレベルを上げてみる、がんばればなんとかなりそうだなと思ったら時間をかけて問題と向き合ってみる。このように少しチャレンジしてみることです。手も足も出ないと感じたら、問題に取り組むのを一時的に中断してレベルを下げてみることも必要ですね。

自分に打ち勝つ克己心をもって勉強する

ここで紹介した話は、ほかの誰かと比較をしていないこともポイントです。とりわけ集団塾で勉強をしていると、周囲のことがどうしても目・耳に入ります。こうした情報を遮断・無視する必要はありませんが、たとえば偏差値(相対的な評価)や他人の点数ばかりを気にして、勉強をしてしまうと自分の成長に気づきにくくなりがちです。

そんなときに思い出してください。「中学受験の競争相手は自分自身だ」ということを。ポジティブな完璧思考は克己心を原動力にするべきです。つまり自分に勝ちたいと思える心ですね。自分の点数や努力の量など、比較対象を自分の内側におくことで、目標に向けての満足度、次にとるべき行動、伸びシロもわかりやすくなります。こうして身につけた習慣は大人になっても必ず役に立ちます。自分がパンクしない範囲で目標を設定し、やるべきことを見定め歯を食いしばって努力する体験は、一生ものの生きる力になります。


これまでの記事はこちら『中学受験との向き合い方

※記事の内容は執筆時点のものです

田中純
田中純 専門家・プロ

開成中学校・高等学校、国際基督教大学(ICU)教養学部教育学科卒業。神経研究所付属晴和病院、中高教諭、学校カウンセラーを経て公文国際学園開講準備に参加。現在は赤坂溜池クリニックやNISE日能研健康創生研究所などでカウンセリングやコンサルテーションを行っている。「一家にひとり、一課にひとりのコミュニティ・カウンセラー」を育てることを目標としている。著書「ストレスに負けない家族をつくる」「中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由」(みくに出版)

この記事の著者

編集・ライター。学生時代から都内で6年間塾講師を務める。塾講師時代は、おもに作文・国語・英語の科目を担当。小学生から中学生までの指導にあたる。現在は編集・ライターとして教育関連をはじめ、街歩き・グルメ記事の執筆取材をおこなう。

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