連載 中学受験との向き合い方

目標が変わる、挫折するときの心情と向き合う ―― 中学受験との向き合い方

専門家・プロ
2020年4月13日 やまかわ

首都圏の一部では、4人に1人の小学生が挑戦するともいわれる中学受験。子供の受験に親はどう向き合えばよいのでしょうか。この連載では、『中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由』の著者である、田中純先生に中学受験との向き合い方をテーマにさまざまな話を伺います。

はじめに立てた目標を、最後まで達成するのはなかなかむずかしいこと。思い描いていた夢をあきらめてしまったり、別の夢を追いかけるようになったりするのは誰にでもあります。そして、これは中学受験の場でも同じことがいえます。子供にこうした想いが湧いてきたときに、親はどのように向き合えばいいのでしょうか。この問題について、分別思考を使って考えてみましょう。キーワードは「これまでとこれから」です。

目標が変わる、挫折する

これまでは目標に向かって邁進していたのに、違った目標が見つかったり、挫折してしまったりすることがあります。それはこれからの行動の指針に大きな影響を及ぼします。中学受験で子供がこうした状況に直面したとき、親はどのようにサポートするべきなのでしょうか。

イライラを生み出す「セッカクレナイ方程式」

「中学受験をしたいというからせっかく塾に入れてあげたのに、ちっとも勉強してくれないね」という不満を、子供に伝えてしまったことがある親御さんもいると思います。このフレーズには、親子の気持ちを苛立たせる「セッカクレナイ方程式」が隠れています。

その4つとは、「せっかく」「あげた」「ちっとも~」「~くれない」です。たとえば「私がせっかくセーターを編んであげたのに、あんたはちっとも着てくれない」という考えは喧嘩になりかねないパターンです。「私が~してあげれば、あなたは~するのが当たり前」という方程式を固く信じているときに起きてしまう事態です。このイライラ毒から自分と子どもを守る解毒剤は、都はるみが歌う『北の宿から』の歌詞にありますからご参照ください。ひとことでいえば、「セーターを着るかどうかは相手が決める」ということです。

子供の行動に影響を与えるということ ―― 背中を見せ、共に体験する

塾に入って勉強するかしないかは子供次第です。親子であっても子供と親は別人格であり、相手の行動を親が決めることはできません。親としてはつらいかもしれませんが、『わが子の行動はわが子が選ぶ』という事実を受け入れるべきです。しかし、子供の行動に影響を与えることはできます。

わたしが小学校の低学年だったころ、父に連れられて開成中学校に行ったことがありました。父の母校であることを知り、わたしも漠然と「開成中学校に行きたい」と思うようになりました。それから数年後、開成中学・高校で充実した6年間を過ごすことができたのは、父親に影響を受けたからなのかもしれません。開成を訪ねただけではなく、父の仕事や父の本棚に並ぶ本、父が聴く音楽、父が語る開成の学友たちのことなどから、影響を受けなかったはずはありません。しかしはっきりと記憶していることは、「開成に入れ」と父が私に言ったことは一度もなかったということです。

子供の行動に影響を与えるということ ―― 指示命令ではなく対話を

もう少し具体的に考えてみましょう。子供を塾に入れた、というのも「環境を整える」という点では行動に影響を及ぼしていますね。「どうして勉強をしなくなったのか、理由を知りたいな」「お母さんはあなたが○○中学校に行ってくれたらいいと思うな」「もう少し勉強してくれるとうれしいな」というように、親の気持ちを素直に爽やかに子供に向けてみるのもひとつの手段でしょう。そして子供の言葉にもじっと耳を傾ける。私の「対話」の定義は“対等の立場での話し合い”です。

中学受験を考える年齢になったならば、自分のことは自分でやるという意識を子供自身が持つべきです。そして中学受験は自分のことだという当事者意識が大切です。親は子供を引っ張るのではなく、環境を整えたり、子供に寄り添って話を聞いたりと、サポートに徹するのがいいと思います。

これまでとこれから ーー 目標が変わるということ

これまでの考えとこれからに対するビジョンは、つねに一致するわけではありません。「決めたことはあきらめずに最後までやり抜く」というのも、もちろんひとつの考え方です。しかし、目標が変わること、途中であきらめてしまうことも、決して悪いことではありません。

目標が変わるのは中学受験でも当たり前

中学受験においても、これまでの想いとこれからどうしたいのかという気持ちが一致しないのはよくあることです。たとえば以下のようなケースが挙げられます。

1. もともとは○○中学が第一志望だった。しかし、友達と一緒に●●中学の学校見学に行ったら、●●中学校に行きたいという想いも強くなってきた

2. 受験をはじめた4年生の頃は、最終的に偏差値が65くらいに届くと思っていた。しかし、小6の10月の時点で偏差値は50前後。合格の可能性を考えて志望校のランクを落とそうと考えはじめている

3. 中学受験をするつもりで勉強をしてきたが、地元の公立中学に進学して、高校受験で公立の○○高校に進学したいという気持ちになった

新しい目標を見つけた、自分の実力に合わせて目標を変えた、違った選択肢が見えてきたために、今まで続けてきた努力をスパッと辞めた……どれも合理的で現実的な選択です。

忘れてほしくないのは、お子さんが頑張っているのは、中学受験であるということ。思うような結果でなくても、必ずどこかの中学校には進学できるのです。失敗をしても、そんなに多くのものを失うわけではありません。さらに大切なことは、中学受験は教育活動だということです。試験の結果如何にかかわらず、成長へのステップにしなくてはなりません。

結果はどうあれ、志望校を目指して勉強をすることが受験生の本分だと思います。志望校が変わって勉強の意欲が高まった、志望校のランクを下げたら落ち着いて勉強できるようになった、中学受験は断念したけど勉強の習慣が身についた、というように何を学び何を得たのかに気づくことができれば、中学受験は成功したといってもいいでしょう。

逃げ癖がついていると感じたとき

将来に対するビジョンが持てなくなると、現在の行動が意欲的ではなくなります。こうした子供の姿勢を見て、「はじめたときはやる気満々だったのに、この子は途中で挫折するつもりなのかな?」と不安に思う親御さんもいるでしょう。親から見て『逃げ癖』がついていると感じたとき、あるいは子供自身が自分には逃げ癖があると思ったとき、それをどのように解釈するべきなのでしょうか。

逃げていない部分に目を向けるということ

親や子供自身が「逃げ癖がついているかもしれない」と考えたときは、まず「部分と全体」という観点で分別思考をおこないましょう。逃げている部分は確かにあったかもしれませんが、逃げていない部分だってたくさんあったはずなのです。さらに詳しく振り返ってみると、逃げたかったけど逃げなかった場面も見つかるでしょう。あるいは、逃げて正解だったと思える場面もあったかもしれません。逃げたい気持ちと逃げたくない気持ち……最終的には前者が勝ったけど、そのときにどんな葛藤があったのかを顧みることも大切です。

それまでのことを振り返ると、どんなときに逃げたい気持ちが強くなるのか、困難が現れたときにどのようにして乗り越えるのが得意なのか、というような「共通項」がいくつか浮かび上がってくるはずです。

たとえば、10日目には逃げてしまったけど、9日目までは努力を続けていた事実に気づくかもしれません。あるいは、投げ出しそうになったときは、将来の夢をイメージして奮起していた事実に気づくかも。「逃げてしまった」という後ろめたさに目を向けるのはなく、できたこと、頑張ったこと、ポジティブな部分にも目を向けるべきです。

続けるべきか、逃げるべきか。悩んでいる人にかける言葉

中学受験では「受験勉強をこのまま続けるべきだ」という想いと、「受験勉強を辞めてしまいたい」という想いの間で、葛藤することがあります。このとき、周囲の人間はどのように声をかけるべきなのでしょうか。

よくあるのが「もうちょっとだから頑張ろうよ」「無理しなくてもいいよ」というような声かけです。こうした言葉を言ってもらえると安心はするものの、自分で熟考せずに意思決定を下してしまうことがあります。やめるのか、続けるのか、本人が両方の選択肢を吟味して納得したうえで、前に進む仕掛けをつくる声かけをしてほしいですね。

おすすめなのは「本当にそれでいいんだね?」とたずねてみること。励ますわけではなく、ただ問いかけることです。どれほど悩んでいるのか、答えがどこにあるのか、すべては悩んでいる本人にしかわかりません。そして、お子さんが悩み抜いて出した答えは、否定せずに肯定してあげましょう。

自分のことは自分で決める、という自律・自立心は、大人にはなくてはならない要素です。勉強をして知識を積むことはもちろん有意義なこと。しかし、受験生活で身についた習慣や考え方も、中学受験で得られる宝なのです。

これまでのことは成長の糧にする

過去には、未来の自分を変えるためのヒントが隠れています。そして現在の自分が誇らしく思えるような出来事もあるでしょう。「昔は苦手だったけど、最近は少しずつ得意になってきたな」と思える部分に気づくはずです。成長の実感を持つことで、「もっと成長したい」という想いも芽生えます。過去を振り返ることは成長の糧になるのです。


これまでの記事はこちら『中学受験との向き合い方

※記事の内容は執筆時点のものです

田中純
田中純 専門家・プロ

開成中学校・高等学校、国際基督教大学(ICU)教養学部教育学科卒業。神経研究所付属晴和病院、中高教諭、学校カウンセラーを経て公文国際学園開講準備に参加。現在は赤坂溜池クリニックやNISE日能研健康創生研究所などでカウンセリングやコンサルテーションを行っている。「一家にひとり、一課にひとりのコミュニティ・カウンセラー」を育てることを目標としている。著書「ストレスに負けない家族をつくる」「中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由」(みくに出版)

この記事の著者

編集・ライター。学生時代から都内で6年間塾講師を務める。塾講師時代は、おもに作文・国語・英語の科目を担当。小学生から中学生までの指導にあたる。現在は編集・ライターとして教育関連をはじめ、街歩き・グルメ記事の執筆取材をおこなう。

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