連載 中学受験との向き合い方

不要な負担を取り除く分別思考とは ―― 中学受験との向き合い方

専門家・プロ
2020年3月25日 やまかわ

首都圏の一部では、4人に1人の小学生が挑戦するともいわれる中学受験。子供の受験に親はどう向き合えばよいのでしょうか。この連載では、『中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由』の著者である、田中純先生に中学受験との向き合い方をテーマにさまざまな話を伺います。

受験することを決意する、塾を選ぶ、志望校を決める ―― 中学受験では、親子で意思決定をしなくてはいけない局面がたくさんあります。しかし親子とはいえ違う人間同士です。考えが読み取れなかったり、誤解が生じたりすることもあるでしょう。こうした食い違いは、分別思考ができていないことが原因の場合が多いです。以前、異なるものをごっちゃにしない分別思考の一例を紹介しましたが、今回からはさらに詳しく分別思考について考えてみましょう。

「変えられることと」と「変えられないこと」を分別する

たとえば子供がテストで親にとって満足のできない点数をとったとき。テストに向けての子供の準備行動や、テスト場面での答案作成は親には変えられません。叱ったりおだてたりして影響を及ぼそうとすることはできても、最後の行動は子供のすることです。一方、満足するかどうかは親の気持ちですから、親が変えられることです。変えられないことを変えようとして躍起になったり、不機嫌になったりすることが効果を生むでしょうか?

そうではなくて、親は自分が変えられること(=自分の感情や行動)をコントロールして適切な助言をしたり環境や条件を整えたりしてみましょう。その結果子供がやる気を起こし、適切な方略で努力すれば、これから受けるテストはもっと高得点が狙えます。既に出た結果は変えられなくても未来は変えられるのです。「馬を水辺に連れていくことと、水を飲ませること」の違いを分別しましょう。

「想い」と「事実」を分別する

これは情報の取り扱いの基本のキです。たとえば今、私たちの周囲に流れている新型コロナウィルスに関連する情報。真偽が混乱し、情動(想い)と情報が混ざり合い、マクロな情報とミクロな情報もごっちゃになっています。とりわけ、不安などの情動に汚染された情報は誇張されたり、過小評価されたりして実態の正確な把握と適切な対処行動を阻害します。ここでは「想い(情動)と事実」という切り口で、中学受験に即したシチュエーションを考えてみましょう。

ツッコミを入れて想いと事実を結びつける

「事実」は誰にでも当てはまるもの。一方、「想い」は誰にでも当てはまるものではなく、個人のなかから生じた主観です。たとえば、これから入ろうと考えている塾や学校を「いい塾」「いい学校」だろうと印象・感覚のみで判断した場合、「想い」が作用したといえます。しかし「想い」のみで入塾・進学を決めてしまうと、そのあと「こんなはずじゃなかった……」という後悔に苛まれる可能性があります。

意思決定の際には「想い」はもちろん大事ですが、「事実」を取り入れて客観的に考えることがとても大事です。「いい塾」「いい学校」という想いを少しずつ事実に近づけていきましょう。その方法は簡単です。「どんな部分が?」「どうやって?」というツッコミを入れてみてください。

・いい学校 
 ⇒ どんな部分が?

・いい先生がいる 
 ⇒ いい先生ってどんな先生?

・面倒見がよく、生徒や保護者との面談をこまめにおこなっている 
 ⇒ ……

このように深掘りしていくことです。このサイクルを繰り返すことで、「想い」という主観に、「事実」という客観性要素を取り入れることができます。

よそはよそ。うちはうち

自分と他人を区別して考えるのも分別思考のひとつです。「よそはよそ。うちはうち」というように家庭ごとの分別思考を持つのも大切ですね。大学の合格実績を重視して学校を選ぶと、この分別を混同しやすくなります。志望している中高一貫校の大学合格実績は、あくまで参考程度にとどめておくべきなのです。「一流大学に毎年30人以上の合格者を出している」という事実があったとしても、子供がその大学に行って幸せになれるかどうか、行きたいという気持ちを持てるかどうかは、中学受験の段階ではわからないことがほとんどです。

もちろん小学生の頃に「○○の大学に行く!」という想いを持つ子供もいますが、将来のイメージは大人に近づくにつれて少しずつ鮮明になっていくものです。専門学校への入学や高卒で就職するなど、大学とはまた違った進路を選びたいという想いも湧いてくるかもしれません。良い中学・高校の特長のひとつは、一人ひとりの将来の生き方選択のために良い刺激をたくさん与えてくれることです。大学合格実績だけを重視して中学校を選ぶのではなく、それ以外の要素も大切にしてほしいですね。

中学・高校における学校生活のビジョンが描ければ、小学生にとってもイメージがしやすく、親子で学校選びの意見交換がしやすくなります。たとえば、「○○中学校の○○部は毎年全国大会に出場している。わたしもここで一生懸命、部活動をやりたい」「○○中学の体育祭は大きい競技場を借りて毎年とても盛り上がっている。自分もこの学校に入って体育祭を楽しみたい」「大学までの付属中学校に進んで、高校・大学受験をせずに充実した学校生活を過ごしてほしい」など、親子で事実と想いをかけ合わせて、中学・高校生活のクオリティを高められるような学校選びをするのがおすすめです。

「無力」と「微力」を分別する

「無力」と「微力」も分別思考を誤りがちです。言葉で考えればわかりやすい違いがありますが、実際はすぐには見分けがつきにくく混同しがちです。どれだけ回数を重ねても積み上がらないのが「無力」。回数をしつこく重ねることで状況が変わり始めるのが「微力」です。しかし、この違いを見分けるためには「微かなるもの」を見取る高感度の眼差しを要します。

成長の手助けとなる声かけ

なかなか子供の成長が見えてこないときは、親御さんはしびれを切らして「ちっともできないね」「全然進んでないよね」という声をかけがちです。しかしよく見てみると、計算のスピードが少しだけ上がっていたり、読解文や理社の記述問題を空欄にしなくなったりと、小さな変化が起きていることがあります。

得点(目立った成果)にはまだ結びつかないことかもしれませんが、いつも身近にいる親御さんだからこそ、小さな変化でもいち早く気づいてあげてほしいと思います。そして「先週よりも計算のスピードが上がってきているね。すごいよ」「記述問題、面倒くさがらずにしっかり解答するようになっているね」というような声かけをしてあげてもらいたいですね。

こうした言葉は、子供が自分自身の成長に気づいたり、自信を深めたりするきっかけになります。小さな事実(証拠)をもとに「自分はこれまでと違って成長している」「やればできるんだ」という想いを持たせることで、勉強へのモチベーションが高まるはずです。

一方で、奮起させる意味で「結果が出てないんだから、成長してないのと一緒だよ!」といったような声かけするのは、おすすめできません。「悔しい、次はがんばるぞ!」と意欲を持つお子さんよりも、「怒られた。結果が出ないのは自分のせい」と自分に非があるように考えてしまったり、「どうせで自分にはできないんだ」と自己効力感を損なってしまったりして勉強が怖くなったり、机に向かう時間を苦痛に感じたりするお子さんのほうがとても多いのです。いきなり大仰な言い方ですが、微かな進歩をあきらめずに継続し、一人ひとりの微力を結集してこそ、世界は進歩するのです。

ゆとりがないときは選択を急がない

親も感情的になったり疲れていたりするときは、分別思考がうまく働きません。そうなると子供の重荷になる言葉をかけてしまったり、「このままでいいんだろうか……」という不安をいつまでも抱え込んでしまったりと、精神的にも辛い状態を招きます。まずはリラクセーションをしたり、好きなことをしたりして、気持ちを落ち着かせ、ゆとりを回復しましょう。そのうえでじっくりと分別思考をして、親子で負担にならないような選択をとってほしいと思います。


これまでの記事はこちら『中学受験との向き合い方

※記事の内容は執筆時点のものです

田中純
田中純 専門家・プロ

開成中学校・高等学校、国際基督教大学(ICU)教養学部教育学科卒業。神経研究所付属晴和病院、中高教諭、学校カウンセラーを経て公文国際学園開講準備に参加。現在は赤坂溜池クリニックやNISE日能研健康創生研究所などでカウンセリングやコンサルテーションを行っている。「一家にひとり、一課にひとりのコミュニティ・カウンセラー」を育てることを目標としている。著書「ストレスに負けない家族をつくる」「中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由」(みくに出版)

この記事の著者

編集・ライター。学生時代から都内で6年間塾講師を務める。塾講師時代は、おもに作文・国語・英語の科目を担当。小学生から中学生までの指導にあたる。現在は編集・ライターとして教育関連をはじめ、街歩き・グルメ記事の執筆取材をおこなう。

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