青稜中学校のミリョク ―― 私学を覗く
品川区二葉に位置する、青稜中学校・高等学校。近年、メキメキと人気を伸ばしている共学校である。2020年度は制服をリニューアルし、さらに歩みを進める青稜の人気の秘密に迫った。
広くない校舎が強みに? アットホームな青稜の校風
校舎が広くない。これは学校にとって不利になるというのが、一般的な認識だろう。筆者自身もそう思っていた。ところが青稜はそれを逆手にとり、強みに変えている。
「うちは校舎が狭い分、校内で生徒同士が接する機会が多くなります。学年を超えた交流も生まれやすく、われわれ教員も生徒とのコミュニケーションを密に取りやすいのです」と語るのは、募集広報部部長の伊東充(いとうみつる)先生だ。
まさしく逆転の発想。筆者はこれまでにさまざまな学校を訪れてきたが、校舎に対するこのような考え方に触れるのは初めてだ。
たしかに取材に伺った日も、休み時間の教室間移動の際、数人の生徒たちと先生がエレベーターホールで楽しそうに談笑する姿が見られた。生徒間だけでなく、教員とコミュニケーションをとる機会が多いというのは、生徒にとって大いにプラスになるに違いない。
2013年に完成した新校舎。休み時間になると、踊り場は生徒たちで賑わう
校内にあるテラス席は生徒たちの人気スポットのひとつだが、春になると空席が目立つという。
「自分たちがいたら、新しく入ってきた1年生が使いにくいでしょ。だから後輩たちに譲るよ」という、上級生たちの気遣いの表れなのだとか。
そんな微笑ましいエピソードを嬉しそうに語る伊東先生に校内を案内してもらっていると、先生を見かけた生徒が教室内から窓越しに手を振る。「今、授業中のはずなんですけどねえ」と苦笑いしながらも、大きく手を振り返す先生の姿は、大らかさと愛情に満ちている。
鮮やかなブルーに彩られた校舎を臨むテラス。昼休みにはここでランチタイムを楽しむ生徒たちも多い
生徒・教員間の距離が近いだけでなく、卒業生との結びつきも強い。夏休みになると、後輩を連れて自分の通う大学を案内する「キャンパスツアー」を実施する卒業生もいるのだそうだ。こうした「後輩のためにひと肌脱ごう」という卒業生の母校愛。それは、青稜のアットホームな校風が育んだものといえるだろう。
イグアナがいる学校? 青稜に溢れる多様性
青稜にはイグアナがいる。比喩ではない。特定の人物のあだ名でもない。文字通り、ハチュウ類のイグアナが理科室にいるのだ。
イグアナだけではない。ピラルクやウーパールーパーなど、日本では数少ない生き物が飼育されていて、観察を通じた学習経験の機会が豊富に用意されている。これだけ多くの生物種を直に見られる学校は非常に珍しい。
両生類、ハチュウ類、昆虫類など、さまざまな生き物が飼育されている理科室は、まるで動物園のよう
こちらは魚類のコーナー。水槽には、生徒による手書きの紹介文が貼られている。
生き物たちの世話をするのは、主に自然科学部のメンバー。部活動で観察・調査した内容を掲示している
伊東先生によれば、「特に意図して増やしたというわけじゃなく、気がついたらこんなに増えていたんですよね」とのこと。
もちろん自然科学部の部員をはじめ、世話係の存在は不可欠だから、長きに渡って生物多様性を維持できているのは、単なる偶然ではなく「青稜の文化」と言って良いだろう。それで思い出したことがある。別の機会で伊東先生が話していた言葉だ。
「色々な子がいて、色々な個性があるから面白い。恥ずかしいお話ですが、うちは生徒を伸ばすための仕組みとかシステムのようなものがないので、それぞれの子を伸ばすために良いと教員が考えることを、体当たりと手探りであれこれ実行しているだけなんです」というのだ。
いやいや、「恥ずかしいお話」など、とんでもない。筆者に言わせれば、「大変に立派なお話」だ。「多様性」あるいは「ダイバーシティ」という言葉が一般的になって久しく、学校をはじめとする教育の場においても、生徒の個性を尊重し伸ばすことの重要性が語られることが多くなった。
ところが、「言うは易し行うは難し」で、「仕組みやシステム」は最大公約数的な人やものに対応するように作られるもの。最終的には「生徒一人一人の個性を伸ばす」のは、教員たちの努力に他ならない。生物室で元気に過ごす多種多様な生き物たちの姿は、生徒の個性や多様性を大切にする青稜の校風を象徴するものといえるかもしれない。
理科室で元気一杯のイグアナさん。彼(彼女?)も青稜の立派な一員だ
合言葉は「個への対応」。教員の熱意が支える青稜の進路指導
授業や各種講習を充実させつつ、「自己管理の手帳」をはじめとするツールや、「Sラボ」と呼ばれる自習スペースを導入するなど、さまざまな取り組みにより、難関大への進路実績も着実に伸ばしている。
2017年から取り入れたオリジナルの手帳。生徒たちが自分で考え、自身の行動記録をつけることで、自己管理力を高める
生徒たちが日々の予習・復習を学校内でおこない、学習習慣を確立させるために導入された「Sラボ」は、20時まで利用可能。
進学実績はもちろん立派なものだが、それ以上に素晴らしいのが、進路指導の方針だ。
進路指導部部長の森山岳美(もりやまたけみ)先生が語る「良い大学に入るための進路指導ではなく、幸せな人生を送るために社会の役に立つ能力の土台を作るのが中学・高校の進路指導の役割」という言葉に込められた想いの熱さが胸を打つ。
定期試験前には、全校を挙げて「質問の日」を設け、教員も最優先で生徒の個別指導に当たるという。徹底して「個への対応」を重視し、生徒それぞれが「なりたい自分」を実現する後押しする指導体制にも、「青稜らしさ」が溢れている。
パンフレットが物語る「青稜らしさ」
さまざまな面から青稜の魅力を語ってきたが、「青稜らしさ」を語るなら、学校案内のパンフレットについても触れないわけにはいかない。スクールカラーであり校名を象徴するブルーを基調にしたデザイン。表紙に白文字で書かれているのは、青稜の特徴を表したキーワードだ。
左が表紙、右は裏表紙。デジタルパンフレットが学校公式ホームページで閲覧可能だ
「『らしさ』を絞り込もうと思ったら絞り込めなかったので、いっそのこと、もう全部のっけちゃおう、ってことになって」という伊東先生のコメントも、実に青稜らしい。
表紙の中央をよく見れば、「きみは希望の種だから」とジーンと来るフレーズが。一方で、裏面は反転文字と、遊び心も忘れない。実はこのデザイン、外部の専門家に依頼するのではなく、学校内のスタッフが制作しているというから驚きだ。
「パンフレットのデザインは毎年趣向を変えていこう、ということでして」と語るのは、募集広報部主任の谷田貴之(やつだたかゆき)先生だ。「“教員が楽しくなきゃ、生徒も楽しめないでしょ”を言い訳に僕らも楽しんでいます」と笑顔で言うが、相当に大変な取り組みであることは、想像に難くない。
毎年度、必ず全教員の顔写真と氏名、そして生徒へのメッセージが掲載されるのも独特だ。教員全員の協力がなくしては不可能なことだから、こういうところにも教員の一所懸命さが感じられる。チャレンジ精神を忘れずに全力で楽しむ教員たち。その背中を見ながら6年間を過ごせる学習環境で育った生徒たちは、やはり同じようなマインドで社会に羽ばたいていくに違いない。
「アットホーム」「多様性」「個への対応」「熱意」「遊び心」…。一言では語り尽くせぬ魅力、それこそが、青稜の最大の魅力なのかもしれない。さまざまな横顔をもつ「魅惑のワンダーランド」。青稜中学校・高等学校とは、そういう学校だ。
学校Web:青稜中学校・高等学校
※記事の内容は執筆時点のものです
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