連載 中学受験との向き合い方

子供の嘘やごまかしに、親はどう向き合うべきか ―― 中学受験との向き合い方

専門家・プロ
2020年4月17日 やまかわ

首都圏の一部では、4人に1人の小学生が挑戦するともいわれる中学受験。子供の受験に親はどう向き合えばよいのでしょうか。この連載では、『中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由』の著者である、田中純先生に中学受験との向き合い方をテーマにさまざまな話を伺います。

子供の嘘やごまかしに、親はどう向き合うべきなのでしょうか。隠し事がまったくない、嘘を一度もついたことがない ―― こういった関係を築けている親子は稀です。また、すべての嘘やごまかしが悪いことではありません。ついていい嘘がどんなものなのか、そして看過できない嘘やごまかしにどう対応すべきなのかを解説します。

ついていい嘘 見過ごしていい隠し事

人の権利を損なうような嘘は、もちろんいけないことです。しかし、「嘘はよくない」という単純な方程式をあてはめて、あらゆる嘘を全否定してしまうと、人間関係は楽しくなくなるし、心の余裕がなくなり、社会的にもギクシャクする場面が発生しかねません。では、ついてもいい嘘とはどんなものなのでしょうか。

フィクションという土俵を共有している場合や、自他の安全を守る嘘はOK

わたしたちの日常生活のなかには、さまざまなフィクションが溢れています。たとえば、正直であることの美徳を伝えるワシントンと桜の木の逸話すらもフィクションです。また、美や娯楽のためのフィクションの是非を問うのはヤボです。さらに「だましだまし」という言葉にあるように、少しずつ折り合いをつけて、自他ともに気持ちよくできるよう物事を進めていく ―― これも人間関係において大切なスキルですね。

子供が親に隠し事をするのも、至極自然なことです。子供だって親に見せたくない部分はあるはず。「何か隠しごとがあるでしょう?」と聞いたときに、子供がごまかして話してくれないこともあるでしょう。しかし、それが自分や他人を傷つけない隠し事であれば、スルーしてもいいと思います。

一方で、何か思いとどまっていたり、悩んでいたりする様子が見受けられた場合には、子供が本当のことを言えるような環境をつくりましょう。その際に、子供が隠していることが些事なことなのか、重要な問題であるのかを判断するためには、生活態度の変化に注視しなくてはなりません。ではどうやって子供の隠し事、嘘の内側に切り込んでいくべきなのでしょうか。

安全がなにより

生物の擬態や子供の嘘の根っこには、安全であろうとする本能や安全欲求があります。子供が本当のことを言える環境の必要条件は安全であることです。「本当のことを言え、さもないとひどい目に合わせるよ」…という脅迫がまかり通る家庭が安全な環境であるかは、言うまでもありません。

ひとこと余談を挟みますが、新コロナウィルスに毒されないために”Stay Home” (なぜか英語)が連呼されていますが、家に居られる条件は「家内安全」です。受験生の親子にとっても、私のこのシリーズで強調し続けている「家内安全」は成功の必要条件といっても過言ではありません。

子供の気持ちが見えない嘘や、隠し事とどう向き合うのか

中学受験をする子供であれば、自宅のほかにも学校や塾、習い事教室などさまざまな場所に生活スペースがあります。それらは親の目が届かない場所であるだけに、子供の様子はわかりにくいです。ここでは、塾や学校に関して、子供が嘘をついていたり、何かごまかしていたりするように感じたときの接し方について解説します。

子供が嘘をついていると感じたときは

たとえば、子供が塾に関して何か嘘をついているなと感じたとき。こんなときは、本人に話を聞こうとするのはもちろんのこと、ことと次第によっては塾の先生に話を聞いてみるのも悪いことではありません。しかし、この「ことと次第」が単純ではありません。

何故なら、親の心配や不安は「親のこと(親の持ち物)」ですし、親は塾に対してお金を払っていますから、そこで何が起きているかを知る権利がありますね。

一方、塾やその行き帰りの子供の行動は「子供のこと」です。塾へ通うことや自分の安全を守るのは自分のことだという当事者意識を子供に育てるのも大切なことです。この「親のこと」と「子供のこと」との折り合いが難しい。

そこで、もしも親が安全という価値を最優先するのなら、まずそのことについて子供と対話すべきです。過去の記事と重なりますが、私の「対話」の定義は対等の話し合いです。「私はおまえの安全を何よりも大切に思っているので、何が起きているのか、本当のことを知りたい」ということになります。さらに子供の認識を補うために塾の先生に面談・電話相談をするという選択肢についても親子で共有すべきです。

いうまでもなく、先生に話を聞く前に「先生にも話を聞いてみるね」という話を子供に伝えておくことも大切です。その際「あなた、嘘ついてるんじゃないの?」というように、子供の主張を疑ってかかるような姿勢を見せてはいけません。親に対する不信感が芽生えてしまいます。「あなたから見えていることと違った見方もあるかもしれないから~」というエクスキューズを入れるのがいいでしょう。

ものの見方は人によってそれぞれ違う。そういったことを、親子で理解しあえていると、「別の見方も知っておきたい」という親の想いを、正々堂々と伝えやすいですね。では、こうした親子関係を築くためには、日ごろからどのようなコミュニケーションをとればいいのでしょうか。

隠し事をしにくい関係性を築くには

理想的な親子関係は、普段から自分の気持ちやその日の出来事を正直に話すことができる関係です。「今日はこういう失敗をしちゃったんだよね」「さっき、こういうこと言われて頭にきちゃったんだ」というような話を、塾や学校から帰ったときに自然とできるような関係性ですね。

家に帰ったら手洗い、うがい、そしてその日の出来事を親に聞いてもらう。これを習慣づけることです。そのための”地ならし”として、お父さんやお母さんから、その日の会社での出来事やテレビで見たことを話してみるのもいいですね。このサイクルができていれば、子供自身が悩んでいることを話しやすくなるはずです。「家で言えると癒える」は家内安全のスローガンです。

正直に話してくれたときのアフターケア

子供が隠し事や嘘を正直に話してくれたときは、アフターケアを忘れてはいけません。テストで0点をとってしまったという告白を聞いたとしても、頭ごなしには怒らないことです。「叱られるかもしれないと思ったけど言えたんだね」「勇気があるね」とほめてあげることが大事。子供が嘘をついているとわかったときには、怒りの感情をぶつけるのではなく、「嘘を言っちゃった理由を知りたいな」というように、子供の想いを親子で冷静に整理することが大切です。話しにくいことがあっても、きっと親なら受け入れてくれるだろう、寄り添ってくれるだろうという安心感を子供に与えるためには、こうした配慮も必要です。

正直であることを恐れない

後ろめたい隠し事や悩み、嘘を正直に話すことは、勇気がいることです。言い出しきれず、罪責感やネガティブな想いを抱える時間が長ければ長いほど、心の負担は重くなるもの。魂の毒になりかねません。普段から話しやすい関係性を親子で築けていれば、自然と正直でいられるため、一人で思い悩む時間は減ります。同時に秘密を持つことを尊重しましょう。「僕、ママには言えない秘密があるんだ」を受け入れ、「僕が言いたくなったらママはいつでも冷静に、そして温かく聴いてくれる」と子供が信じられたら、嘘や秘密の解毒になります。嘘や秘密を上手に許容する親の心の余裕がそれを可能にします。

中学受験を考えているお子さんは、成績が思うように伸びない、勉強に集中ができない、志望校に合格できるか不安、というような受験生ならではの悩みを抱えます。親御さんは、子供の苦しみをそっとくみ取るような気持ちで、優しい眼差しを向けてほしいと思います。


これまでの記事はこちら『中学受験との向き合い方

※記事の内容は執筆時点のものです

田中純
田中純 専門家・プロ

開成中学校・高等学校、国際基督教大学(ICU)教養学部教育学科卒業。神経研究所付属晴和病院、中高教諭、学校カウンセラーを経て公文国際学園開講準備に参加。現在は赤坂溜池クリニックやNISE日能研健康創生研究所などでカウンセリングやコンサルテーションを行っている。「一家にひとり、一課にひとりのコミュニティ・カウンセラー」を育てることを目標としている。著書「ストレスに負けない家族をつくる」「中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由」(みくに出版)

この記事の著者

編集・ライター。学生時代から都内で6年間塾講師を務める。塾講師時代は、おもに作文・国語・英語の科目を担当。小学生から中学生までの指導にあたる。現在は編集・ライターとして教育関連をはじめ、街歩き・グルメ記事の執筆取材をおこなう。

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