連載 中学受験との向き合い方

子供が幸せをつくっていくための仕掛け ―― 中学受験との向き合い方

専門家・プロ
2020年8月11日 やまかわ

首都圏の一部では、4人に1人の小学生が挑戦するともいわれる中学受験。子供の受験に親はどう向き合えばよいのでしょうか。この連載では、『中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由』の著者である、田中純先生に中学受験との向き合い方をテーマにさまざまな話を伺います。

「この子には幸せになって欲しくない」と願いつつ、十月十日待って子どもを産むお母さんには会ったことがありません。さらに誕生の瞬間には、明石家さんまさんの名言のように「生きてるだけで丸儲け」とお感じになる方がほとんどではないでしょうか? 産院などで赤ちゃんを取り上げてもらった時に「元気な赤ちゃんですよ」と言われてガッカリする親御さんをこの拙稿の対象にはしていません。

親のwants(たい)

「元気に生まれてくれてよかった!」からスタートしても、いつまでもその気持ちだけでは収まらないのが人間の性です。「○○させたい」「○○してほしい」と、ざまざまなwants(たい)が湧き出してきます。親御さんにそのwantsの原点を尋ねれば「わが子に幸せになって欲しいから」とお答えになるでしょう。中学受験も同様です。

受験をさせる目的はさまざまですが、共通するのは「子供自身の幸せのために中学受験をしてほしい」という想い。しかし親御さんが望んでも、入試会場で問題を解くのは子供自身です。本人のやる気がなければ合格は難しいでしょう。

ですから親御さんにできることは、子供が「受験をすることが自分の幸せにつながるんだ」と考えられるように導くことです。では受験を通じて子供自身が自分の幸せについて考え、その先にある中学校生活を楽しく過ごせるようになるためには、どのようなことに気をつければいいのでしょう。

中学受験はわが子の自分事意識を育てる機会

消極的な気持ちで中学受験に挑戦する子供は「親に言われたから」「勉強しないと塾の先生に怒られるから」などのように、自分のためではなく、他人の目を恐れて机に向かっていることが多いです。一方で「自分が幸せになるために、中学受験に挑戦するんだ」と考えられる子供は、中学受験を“自分事”として能動的に取り組みます。

「自分のことは自分でやる」という自立した心を育むためには、日常生活のなかにある自分事に意識を向けることが重要です。

■「これって誰のこと?」―― 自分事に意識を向ける親の声掛け例

「自分の一日を始めるのは誰のこと?」

「明日の授業の準備をするのは誰のこと?」

「自分の部屋をきれいにしておくのは誰のこと? 誰のため?」

「自分の宿題をするのは誰のこと?」

このように、自分事を意識する機会はたくさんあります。「それはぼく(わたし)のこと」と、わが子が答えるようになったら、お赤飯を炊いて子供の成長と親の子育てをお祝いしましょう。もしも子供が怠けてなかなか動き出そうとしないときは、親御さんが上記のような声掛けをして、子供に自分で考えるきっかけをつくってあげることです。

子供自身のwants(たい)・憧れが育つ

中学受験のきっかけが親のwantsだったとしても、当事者意識を育むと同時に子供自身のwants(たい)が育つことがとても大切です。いきなりラーメンを例に出して恐縮ですが、ラーメンを知らない人は「ラーメン食べたい」とは思いません。まずはラーメンを初体験する。さらにラーメンを食べ歩いて「この店のは美味しい!」と思ったら、惚れ込んでリピーターになったり、行列に並んででもその店のラーメンを食べたいと思うようになります。

閑話休題。あたり前ですが、親御さんが「将来幸せになるために受験勉強をするんだよ」と説明するだけでは、子供は受験勉強に励んではくれません。肝心なのは「幸せ」という漠然とした言葉を、どこまで具体化できるかどうかです。

気持ちに火をつけるためには、「この学校に入ったら、幸せな学校生活が過ごせそうだ」という学校を見つけることです。そのためには、「あなたは○○中学に入ってなにがしたいの? それが叶ったら幸せ?」と聞いてあげること。こうした問いかけは、子供が自分の幸せについて考えるきっかけになります。

「○○中学に合格したら吹奏楽部に入ってコンクールに出たい」「合唱コンで指揮者がやってみたい」というような想像が膨らんでくることもあるでしょう。そうすると、幸せという言葉がイメージになっていき、受験勉強をする自分の背中を押してくれるようになります。ですから「自分の幸せは何なのか」「この学校には自分の幸せを実現できる環境が整っているのか」という2つのポイントを照らし合わせながら、学校を選んでほしいです。

「こんな学生になりたい」と思える憧れの生徒に出会う

学校説明会や学園祭、体育祭などに足を運んで受験校を絞り込んでいくのが、一般的な学校探しの方法ですが、私がおすすめするのは放課後に興味がある中学校の近くを歩き回ってみることです。そこには学校帰りの生徒たちや部活動に励む生徒たちがいて、彼らがどんな表情で普段の学校生活を過ごしているのかを、自分の目で確認できます。

「自分もこんな格好いい生徒になりたい!」と思えることができたら大成功です。こうした情報はネットで調べてもなかなか手に入りません。人気のラーメン店もネットで情報を調べるより、現地に足を運んでお店の雰囲気やそこから漂ってくる香り、お客さんの表情を確かめた方が、「このお店のラーメンを食べてみたい!」という気持ちが強くなります。こうした期待や高揚感を、放課後の学校見学から感じ取ってほしいですね。

「わたしは人を幸せにしたい」という意識

なんとなく中学受験をしていると、自分にとっての幸せがどんなものなのかなかなか見えにくいものです。「自分の幸せ」に気づくためには、色々なことを自分事として感じられるような働きかけが必要だと思います。そのためにも「それって誰のこと?」「あなたの幸せはどんなこと?」というような、親御さんの声掛けが大切になってきます。子供の幸せをつくるのは、ほかでもない子供自身なのです。

「わたしは幸せになる!」という当事者意識がもう一歩進むと、「わたしは人を幸せにしたい」という新たな意識が芽生えてきます。最近では、自分でつくったマスクをどこかに寄付してあげた中学生がいましたね。そうすると幸せが自分の枠を越えて、外にどんどん広がっていきます。こうした幸せの価値観を持って育つのは、とても素敵なことです。自分の幸せも、周りの人間の幸せも大切にできる大人に育ってほしいですね。

本稿の最後に、人を幸せにする3つの「とう」をご紹介しておきます。

●第1の「とう」:おめでとう
⇒「おめでとう」と言う、言われる状態

●第2の「とう」:ありがとう
⇒「ありがとう」と言う・言われる状態

●第3の「とう」:甘美なもの
⇒糖分、糖質…。そのほか、目・耳・口・脳・身体を喜ばすものを味わうとき


これまでの記事はこちら『中学受験との向き合い方

※記事の内容は執筆時点のものです

田中純
田中純 専門家・プロ

開成中学校・高等学校、国際基督教大学(ICU)教養学部教育学科卒業。神経研究所付属晴和病院、中高教諭、学校カウンセラーを経て公文国際学園開講準備に参加。現在は赤坂溜池クリニックやNISE日能研健康創生研究所などでカウンセリングやコンサルテーションを行っている。「一家にひとり、一課にひとりのコミュニティ・カウンセラー」を育てることを目標としている。著書「ストレスに負けない家族をつくる」「中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由」(みくに出版)

この記事の著者

編集・ライター。学生時代から都内で6年間塾講師を務める。塾講師時代は、おもに作文・国語・英語の科目を担当。小学生から中学生までの指導にあたる。現在は編集・ライターとして教育関連をはじめ、街歩き・グルメ記事の執筆取材をおこなう。