連載 中学受験との向き合い方

学びに大切な心構え「自制心・忍耐力」と「他者のまなざし」 ―― 中学受験との向き合い方

専門家・プロ
2020年8月25日 やまかわ

首都圏の一部では、4人に1人の小学生が挑戦するともいわれる中学受験。子供の受験に親はどう向き合えばよいのでしょうか。この連載では、『中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由』の著者である、田中純先生に中学受験との向き合い方をテーマにさまざまな話を伺います。

中学受験にはさまざまな学びがあります。授業や問題演習を通じて知識を得たり、自分なりの勉強習慣を模索したり、怠けたい気持ちに打ち勝つ方法を工夫したりと、学びと成長のチャンスが詰まっています。何かを学ぶときに大切になってくるのが、学びに対する心構えです。今回は2つのエッセンス ――「自制心・忍耐力」と「他者のまなざし」に触れます。

自制心・忍耐力

中学受験の道のりは長いです。友達と遊んだり趣味に興じたりする時間もありますが、やりたいことを我慢したり、苦手なことも工夫してやりきる必要があります。私は中学受験を最後までやり抜く経験が、その後の人生のさまざまな困難を乗り越えていく力になると考えています。こうした自制心や忍耐力を伴った努力は、理想を実現するための強力な武器になるからです。もちろん中学受験だけに限定するわけではありませんが、自制心・忍耐力は子供が思春期を迎えるまでに身につけてほしいエッセンスでしょう。

欲しいものがいつでも手に入る訳ではない

子供の欲しがっているものを親が与えてあげる ―― たとえば、ゲームや、おもちゃを買ってあげるというのは、実は親がやりたいことでもあります。

親は子供が喜ぶ顔を見たい。親はご褒美で“しつけ”をして、子供をコントロールしたい。子供の笑顔や従順な行動は、親にとっての報酬ですから、それも無理のないことです。しかし、当人が欲しがるからといって、大人がいつまでも与えてしまってはよくありません。(親にも自制心が必要なのですね)

子供が知らなければならない(親が教えなくてはならない)のは、欲しいものを欲しいといえば、いつでも手に入るわけではないということ。欲しいものが手に入らないのは、大人になってもよくあることです。おねだりしたり、駄々をこねたりすれば手に入る。そう学んで大人になってしまったら、周囲に迷惑をかけ、自分も損をします。ときには病院や刑務所に入ることになります。

まず待てること。そして、どうすれば欲しいものが手に入るのか、あるいはそれが本当に欲しいものなのか、を考えること。知恵を絞り出すのは大人になっても大事なことです。欲しいものをすぐに与えてしまっていては、こうした性質はなかなか身につきません。

我慢する力とお小遣い

我慢をする力(自制心・忍耐力)を育む一般的な例として「お小遣い制度」があります。

「お小遣いをあと何ヶ月分貯めれば欲しいものが買えるな」「今度友達と遊ぶときにはお金を使わないようにしよう」といったように、子供自身が自主的に計画を立てて、それに沿って行動することはとても有意義なことです。その過程で我慢しきれずに、子供が「お母さん、買ってよ!」と何かをおねだりしてきたときは、チャンスです。

こうしたときは、「そのお金は誰のもの? そのお金を出すかどうかを決めるのは誰のこと?」と語りかけてみましょう。ちゃんと育ってきた子供は「ママのこと」と答えざるを得ません。このとき、子供は不満を感じつつも、「ママのことはママが決める」「パパのことはパパが決める」、「自分のことは自分が決める」を意識し、「母親(他者)を自分の思い通りに動かすことは難しいんだ」ということを徐々に覚えます。もし子供が何かを我慢して、自分の力で欲しいものを手に入れることができたときは、大人がちゃんと褒めてあげることが重要です。それは、自制できることは良いこと、大切なことだと学ぶ機会になります。

受験勉強も忍耐力が必要

受験勉強は努力の成果がなかなか見えにくいものです。あとどれくらい勉強すれば成績が上がるのか、遊ぶのを我慢したところで本当に志望校に合格できるのか……このように、子供には今の我慢の対価が不明瞭になりがちです。そこで大切になってくるのが、親御さんのまなざしです。

成績が思うように上がらない、顔には出さないけど本当は友達と遊びたい……そんな子供の心の内側を親御さんがしっかり見ていることを言葉で伝えましょう。自分の頑張り、工夫を誰かが見てくれている、わかってくれていると感じられることは、勉強(そのほかの活動)のモチベーションにもつながります。

ただし、親子ともに留意していただきたいことがあります。それは、成績の「見方」です。学んだことを評価する成績と、他者との比較を示す成績とを混同しないことです。前者は自分の努力次第で伸ばせます。後者は必ずしも自分の思い通りになりません。

他者のまなざし

親だけでなく、友達や学校・塾の先生など、他者のまなざしを意識することも大切です。他者のまなざしを意識することは人生に役立つスキルです。勉強など、人の活動のモチベーションとも関連しますし、コミュニケーションにおいても役立ちます。

ここでも留意していただきたいことがあります。他者のまなざしを感じて自分の行動の目安や動機づけにすることと、他者の目を気にしてそれに囚われることを混同しないでください。その混同を避けるのが、前章までにお伝えした自主性(自分のことは自分で決める)です。

応援してくれる人のまなざし・気持ち

良好な人間関係の形成には思いやりの心が必要です。誰かに思いやりの気持ちを抱くこと、誰かに思いやりの気持ちを抱かれること ―― この繰り返しで良い人間関係が形成されます。他者の想いをくみ取ることができるようになれば、自分を奮い立たせたり、人のために動いたりすることに幸せを感じられる大人になれます。そのための第一歩として子供たちには「ありがとう」といえる人間になってほしいものです。もしもお子さんが自発的に「ありがとう」と言えない場合には、以下のような声がけをしてみてください。

「あなたのためにお友達の○○君が家まで迎えに来てくれたんでしょう? そういうときはなんていうの?」

「今日は○○先生があなたのために特別に補習授業をしてくれるんだよ。ちゃんとお礼は言わないとね」

また、誰かを傷つけてしまったときには、「自分がもし同じことをされたらどんな気持ちになるかな?」などと問いかけてみることです。こうした経験を少しずつ積み上げていくことで、自分の幸せのために周りの人間が時間を割いたり、お金を費やしてくれたりすることに、感謝の気持ちを抱けるようになってくるはずです。

ご参考までに、非行や不登校などにも効果があるとされる心理療法に「内観療法」というのがあります。内観療法では、次の3つを思い起こすことを促されます。内観療法の形式に囚われずとも、この3つについて親子で語り合うことは親子双方に気づきの機会になるかもしれません。

1.してもらったこと
2.して返したこと
3.迷惑をかけたこと

受験勉強中は不安やストレスで、つい周りに当たり散らしたくなってしまうものです。そんなときでも、周囲の人間を大切にしながら勉強を続けることで、その人たちに応援されながら目標に邁進することができます。応援してくれる人のためにも頑張ろうという気持ち、恩返しがしたいという気持ちは、何かを成し遂げるために無視できない原動力のひとつです。

親、先生、友人に囲まれて、自分を律して一歩一歩成長するのが中学受験。山登りでも正しいフォーム、負担の少ないフォームで頂上を目指すことができれば、疲労感やストレスを軽減することができます。どうやって自分を制するか、周りの人間とどう関わるかは人それぞれですが、自分も周りも大切にできないような、正解とはいえない方法もなかにはあります。ぜひ学びに大切な心構えを育んでほしいと思います。


これまでの記事はこちら『中学受験との向き合い方

※記事の内容は執筆時点のものです

田中純
田中純 専門家・プロ

開成中学校・高等学校、国際基督教大学(ICU)教養学部教育学科卒業。神経研究所付属晴和病院、中高教諭、学校カウンセラーを経て公文国際学園開講準備に参加。現在は赤坂溜池クリニックやNISE日能研健康創生研究所などでカウンセリングやコンサルテーションを行っている。「一家にひとり、一課にひとりのコミュニティ・カウンセラー」を育てることを目標としている。著書「ストレスに負けない家族をつくる」「中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由」(みくに出版)

この記事の著者

編集・ライター。学生時代から都内で6年間塾講師を務める。塾講師時代は、おもに作文・国語・英語の科目を担当。小学生から中学生までの指導にあたる。現在は編集・ライターとして教育関連をはじめ、街歩き・グルメ記事の執筆取材をおこなう。

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