連載 「自分のやりたい!」がある子はどう育ったのか

全米最優秀女子高生を育てた教育法 大事にしたのは、子どものパッションを育てること|「自分のやりたい!」がある子はどう育ったのか

専門家・プロ
2021年1月15日 中曽根陽子

AIが登場し、人間が果たす役割が変わっていこうとしています。「いい大学、いい会社に入れば安泰」という考え方が通用しなくなっていることは、多くの方が感じているでしょう。子どもたちが、しあわせに生きていくためには、どんな力が必要なのか? 親にできることは? この連載ではやりたいことを見つけ、その情熱を社会のなかで活かしているワカモノに注目します。彼らがどんな子ども時代を過ごしたのか。親子でどんな関りがあったのか。「新しい時代を生きる力」を育てるヒントを探っていきます。

今回の主人公は、アメリカ ワシントンD.C.在住のボーク重子さん、スカイ・ボークさん親子。スカイさんは2017年の全米最優秀女子高生コンクールで優勝を果たし、大きな話題になりました。そして、お母さんの重子さんがその教育方針を綴った『世界最高の子育て』(ダイヤモンド社)が出版されると日本でも大きな反響を呼び、非認知能力が注目されるきっかけになりました。今回は現在コロンビア大学4年生のスカイさんと、重子さんにオンラインで取材。小さい頃からどんな家庭で育ったのか、何が子どもに響いたのか、そして日本の環境で主体性を育むためにできることなどを伺いました。

女の子ではなく、一人の人間として育てる

重子さんが、スカイさんを産んだときに強く願ったこと。それは「自分で人生を切り開き、どんなときも自分らしく強く生きてほしい」ということでした。そして、夫婦で話し合って決めたのは「女の子ということを押し付けず、一人の人間として育てる」ということでした。

女性が活躍する時代になってきたとはいえ、アメリカでも女性に対するさまざまな壁が存在します。「女の子なのだから…」という価値観はありますし、女性自身も自らに限界を作ってしまうことはあるのです。なので、家の中ではそういったステレオタイプの価値観を押し付けたり、限界を設けたりせず、一人の人間・スカイとして育てようと決めたのです。

「もともと、夫は料理もするし、掃除も私より得意。家事も子育ても夫婦で一緒にしてきました。そして私自身も一人の人間として、娘のロールモデルになるようにと心がけて生きてきました」と重子さん。

そして、もうひとつ子育てで大事にしたのが、いわゆる学力を伸ばす英才教育ではなく、「非認知能力」を育てることでした。「非認知能力」とは、IQや学力テストで測られる力とは別の能力。自信、協働力、自制心、責任感、共感力、コミュニケーション力などを指します。ご両親はスカイさんを、非認知能力を重視した教育を実施している私立校に幼稚園から通わせ、家庭でもそれを伸ばす関わりを大事にしました。

全米最優秀女子高生コンクールでの体験を話すスカイさん

経験値を上げることは大事。でも詰め込まない

重子さんが子育てで徹底していたのは、睡眠時間を確保すること。学校でいろいろなことが重なって大変なときは、宿題より睡眠を優先する方針だったといいます。「勉強する暇があったら寝なさい」と言っていたほど、睡眠時間には特に気を配っていました。

そんなスカイさんの習い事はというと、小さいときから、のべ15種類くらいの習い事を経験したそうです。まず、2歳からお遊戯のようなダンスクラスに入り、4歳からバレエを習い始めました。そのほかにも、フィギアスケート、スキー、テニス、水泳、サッカー、バスケットボールなど、さまざまなスポーツを体験します。

スカイさんは運動が好きだったので、どの習い事も楽しかったそうです。しかし、「同時にやるのは2種類だけにしていた」と重子さん。忙しいと「こなす」作業になってしまって楽しくなくなるし、子どもには暇な時間がたくさんないとだめだと思っていたからです。

それでも、さまざまな習い事を体験させたのは、子どもが自分の好きなことを知るには経験値をあげる必要があるから。習い事を始める時には、まずやりたいかどうかを聞いて、すぐに辞めるのは良くないので、いつまでやるかを決めてやり始めたといいます。その結果、一番長く続いたのがバレエでした。

4歳から始めて、今でも大好きなバレエ

子どものパッションを見つける

「主体性があり、自分のやりたいことを見つけられる子どもに育てるために親は何をすればいいと思うか」という質問に、重子さんは「子どもがやりたいと思ったことを、そのまま受け入れるべき」だと言います。なぜなら親がやってほしいことと、子どもやりたいことは違うことがあるから。

これは、重子さん自身が経験したことでもありました。スカイさんが小学2年生の時、バイオリンを習いたいという希望を聞きいれず、ピアノをやらせたのだそうです。ピアノをやらせたのは、重子さん自身が幼いころにバイオリンを習っていて、音が出るまでに時間がかかることに耐えられなかったからでした。また、重子さんは歌が好きで本当はその道に進みたかったという理由から、スカイさんを歌のレッスンに通わせたことがあったそうです。でも、どちらもスカイさんには響きませんでした。

「娘が好きじゃないことをさせている。すぐにそうわかったけれど、諦めたくなかったのです。私ができることは、子どももできるようになるはず。そう思ってしまった。でも、好きじゃないことは上達しませんよね。今ではピアノが家で一番高価な家具になっています」と重子さん。「私も自分の希望を子どもに押し付ける間違いをしてきました」と率直に話してくれました。

「子どもがやりたいといったことを、まずはやらせてみたほうがいい。経験値を上げながら、子どもがどんなときにパッションを感じるのかをよく観察することが大事」と重子さん。

「好きなことは言われなくてもやるので、よく見ていればわかります。どんな子どもでも、フロー状態(精神的に集中している状態)になっているときが必ずあるんです。子どもに言われなくても、親がそれを見極めてその子のパッションを見つけていくと良い。だから、子どものことをよく観察することです。その様子を忘れないように日記をつけておく。そうやって観察する時間を増やしてあげると良い」と話してくれました。

ゆったりとした子ども時代

スカイさんがフロー状態になっていたのは、本を読んでいるときと、踊っているときでした。小さな頃から暇さえあれば本を読んでいたスカイさんは、学校の図書室の本も片っ端から読んでいました。学校ではみんなで集まって読んだ本について話し合うブッククラブにも参加。重子さんも絵本が大好きで、小さい頃から読み聞かせをしていた影響も大きいのかもしれません。

スカイさんの通っていた学校では、3年生までは教科書もなく、4年生くらいまで宿題も出ませんでした。読み書きや九九も教えない学校に、重子さんは「ほかの子に遅れを取っているのではないか……」と心配になって先生に相談したことがありました。

そのとき「人より早い時期に、速く計算ができるようになることがそんなに大事なの?」と先生に逆に質問され、「そんなに宿題がほしいなら」と課された宿題が、「一日20分間の空想タイムをとること」でした。最初は半信半疑でしたが、家にクレヨンや画材をおいたアートルームという空間を作って、小学6年生くらいまで1日20分間はアートルームで自由に過ごさせたそうです。

学校の宿題が「20分間の空想タイム」。日本では考えられませんが、こういう時間が子どもの好きなことを見つける時間になります。なぜなら子どもは、つまらなくなると必ず何かを始めるから。それが子どものパッションを見つけるきっかけになります。また、何かを空想する時は、必ずポジティブなことを想像するので、心を健全に保つにもいい影響がありそうです。「家では自分の時間がたくさんあったので、本をよく読んでいた」というスカイさんの子ども時代は、日本の子どもたちよりも、ゆったりしていたのかもしれません。

大切なのは、うまくいかない時のフィードバック

スカイさんが通った私立校では、教えるのではなく、自分で学ばせる教育法を採用していました。重子さんは家庭でもそれを実践していました。重子さん自身がライフコーチという仕事をしています。それを子育てにも取り入れて、スカイさんが自分で考えられるような働きかけをしたのです。

コーチングで一番大事なのがフィードバックです。重子さんは「子どもが『どうだった?』と訊ねてきたら、結果の善し悪しではなく、まず親が事実を伝えると良い」と言います。

そのうえで良くない部分や、まだ伸ばせる部分がある場合は、先に良いところを伝えた後で「〇〇についてはどう思う?」「改善点はあると思う?」などと聞きます。そのときに気をつけたいのが、親からダメ出しをしないこと。できなかったところはあまり指摘されたくないものです。「子どもが小さい時は特に気をつけたほうがいい」と重子さん。大きくなれば、フィードバックをダメ出しだと受け取らないようになりますが、小さいときには、批判されたと感じることや、自分はだめだと思うことは心の傷になるので、良いところを指摘してあげるほうが大事だと言います。

とはいえ、親はつい子どものできていない点に気を取られがちです。どうしたらいいのでしょう。

「まずは、親が自分のいいところを見つけて自分をほめることを徹底することから始めてほしい」と重子さん。自分自身にOKを出してポジティブな声掛けをするように心がけていくうちに、子どもの良いところを見つける目を持てるようになり、自然と子どもにポジティブな声掛けができるようになるのだそうです。

「一生懸命やれば、必ずできる」父の言葉を胸に自分の使命を考えた

スカイさんは今、アメリカの名門大学のひとつ、コロンビア大学で経済と政治を学んでいます。将来は政治家になりたいそうで、大学卒業後はいったん就職した後に、法科大学院へ進んで弁護士を目指すそうです。

なぜならアメリカでは、弁護士になってから政治の道にいくのが一般的なルートだから。自分の夢の実現のために頑張っているのです。政治家になりたい理由は、ワシントンD.C.に生まれて18年間暮らしていて、政治の話が身近な環境で育ったからだそうです。

スカイさんのお父さんは、黒人の参政権を獲得するために公民権運動を行い、南アフリカのアパルトヘイトの問題に関してもアメリカを代表して戦った社会派弁護士です。そんなお父さんから仕事の話を聞き、ときにはお父さんと一緒に世界を見て歩いたそうです。アフリカの貧困にあえぐ子どもたちの状況を知り、小学生の時に自らNGOを立ち上げてレモネードを作って売り、アフリカの養護施設に文房具を買うためのお金を送る活動もしました。

アフリカの養護施設にお金を送るために始めたレモネードスタンド

「より良い社会にしていくために、自分に何ができるのかを考えるように」と聞いて育ったスカイさん。子どもの時から過ごしやすい社会にしたいという気持ちが大きく、「社会をよくするためには、自分が政治に関わることだと思ったから、政治家を目指す」と語ってくれました。

「今でも、女性の政治参加にはガラスの天井がある。特にアジア系アメリカ人の政治家は非常に少ない。でも、だからこそやりたい」というスカイさん。その考え方は小さいときから、お父さんに「一生懸命やれば、必ずできる」と言われてきたことで身についたのです。スカイさん自身は、大きくなって一生懸命やっても、できないことがあることも実感しているそうですが、それでも子どものころの父との体験は、今のスカイさんの揺るがないパッションにつながっているのです。

一方、お母さんの重子さんについては、「母の努力はすごいと思う。その姿を見て自分にもできると感じた」と言います。バレエでプロを目指そうかと思っていた時期もあったというスカイさん。重子さんはそれを否定せずに応援してくれたし、一緒に楽しんでくれました。そして何より、夫婦の仲がよく、いつも家族が一緒にスポーツをしたり、旅行に行ったり、一緒に楽しんでいた。二人とも忙しいのに、自分のために時間を使ってくれたと、笑顔で話してくれました。

お母さんが変われば、社会は変わる。家庭で非認知能力を育む教育を

重子さんに、日本で子育てをしているお母さんたちへメッセージをもらいました。

親子はお互いを育て合うものです。私自身、子どもに育てられたと思っています。子どもの仕事は、親を超えることですが、そのためにも私は「子どもにどんな生き方を見せるのか」を考えて生きてきました。子どもがいなければ、そんなことは考えなかったと思います。娘のおかげで私は人間として成長し、人生を豊かに生きてこられたと思っています。

日本の教育は今、過渡期です。日本には世界が認めるトップの認知能力教育があります。あとは、非認知能力を上げればいいだけなんです。しかし、日本は制度が先で後から人が付いてきます。大事なのは、制度ではなく使う人。学校教育はすぐには変わらないかもしれませんから、家庭で非認知能力を育む教育をすることです。そのためには、まず親が自分自身の非認知能力を高めて子どもの手本となっていくこと。人と比べて一番でなくていい。自分ができる精一杯を生きてください。子育てにいろいろ悩みはあるかもしれませんが、自分にOKを出していきましょう。それが非認知能力を高める鍵です。

全米最優秀女子高生コンクールで優勝したとき、両親に囲まれるスカイさん

取材を終えて

スカイさんは今、孫正義育英財団の財団生にもなっています。そこでの体験について、「自分のやりたいことがある人ばかりなので、分野が違っていても話していて楽しいし、とても刺激を受ける」と言います。

アメリカの有名大学の学生について、「やりたいことや好きなことを模索中の人が多い」というスカイさん。国は違えど、日本も同じような状況かもしれません。

スカイさんにパッションを持てるようになった理由を聞くと「いろいろな経験をしてきたこと。それと両親や学校・バレエの先生が、自分が好きなことをやることの重要性を話してくれて、それを応援してもらえたこと」と話してくれました。

非認知能力を育てることが、認知能力を伸ばすことにつながることは、すでにいろいろな研究でわかっていますが、重子さんが考える非認知能力を育てる条件は「存在を認める」「個性を認める」「楽しい」「パッション」の4つです。家庭が安心できる環境で、自分らしくいることをさまざまな場所で認めてもらっていた。だから、スカイさんはのびのびと育つことができたのだと感じました。自分の人生をちゃんと生きている両親の背中を見て、自分も志を持って生きようと自然に思うようになったのではないでしょうか。

最後にもう一度重子さんの言葉を紹介しましょう。

「子どもには必ず情熱を注ぎ込みたい何かがあります。人は好きだから夢中で努力し、努力するから上手になり、自信や将来の仕事につながるのです。子どものパッションが向かう先を知るために、学校や家庭で多くの体験をさせてほしいのです」

子どもを信じて、内に秘めたパッションを見つけてあげませんか?

※記事の内容は執筆時点のものです

中曽根陽子
この記事の著者
中曽根陽子 専門家・プロ

教育ジャーナリスト。小学館を出産のため退職後、「お母さんと子供達の笑顔のために」をコンセプトに数多くの本をプロデュース。子育て中の女性の視点を捉えた企画に定評がある。教育雑誌から経済誌、紙媒体からWeb連載まで幅広く執筆。中学受験に関しては「受験を親子の成長の機会に」という願いを込めて『1歩先行く中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』『後悔しない中学受験』(共に晶文社)『子どもがバケる学校を探せ』(ダイヤモンド社)などを執筆。教育現場への豊富な取材や海外の教育視察を元に、講演活動やワークショップもおこなっており、母親自身が新しい時代をデザインする力を育てる学びの場「Mother Quest」も主宰している。近著は『成功する子は「やりたいこと」を見つけている 子どもの「探究力」の育て方』(青春出版社)

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