連載 中学受験との向き合い方

受験生親子のための支援のイロハ[1] 子供に頼られやすい親になる ―― 中学受験との向き合い方

専門家・プロ
2021年6月03日 やまかわ

首都圏の一部では、4人に1人の小学生が挑戦するともいわれる中学受験。子供の受験に親はどう向き合えばよいのでしょうか。この連載では、『中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由』の著者である、田中純先生に中学受験との向き合い方をテーマにさまざまな話を伺います。

中学受験にはさまざまな人間関係が絡まっています。親子、夫婦、塾の先生と生徒、先生と保護者など。こうした人間関係をプラスに作用させられれば、子供は前向きな気持ちで勉強し、親御さんも不安が少なく子供を見守ることができます。中学受験に挑むなかでプラスの人間関係を築くためには、どのようなことを心がけるべきなのでしょうか。「受験生親子のための支援のイロハ」と題して、少し考えてみようと思います。今回は「子供に頼られやすい親になるには」というテーマです。

うがい、手洗い、今日何話そう

子供に頼られやすい親というのは、子供から見て「いつでも自分を受け入れてくれる」という安心感があります。こうした親子関係を築くためには、ふたつの生活習慣を付け加えるとよいですね。私が提唱したいのは「うがい、手洗い」に“語リラ”の生活習慣を足すという提案です。語リラとは「語り」と「リラックス」。「おうちに帰ったらお話ししよう」と「おうちに帰ったらリラックスしよう」というのが“語リラ”の生活習慣です。ここではそのうちの「語り」をとりあげます。さあ、おうちに帰って「今日の話題は何にしよう?」。

大人であっても子供であっても、家に帰ったらまずはうがいと手洗いをしますよね。そういった当たり前の習慣にもうひとつ、「今日は親子で何を話そうかな?」と考える習慣を親子ともに身につけてほしいのです。

学校や会社でこんなことがあった、あるいは帰り道でこんな光景を目にしたなど、他愛のない会話を数分間続けるだけでもいい。毎日会話をすることを当たり前の日常にしてみてください。親子間での「話しやすさ」を共有しあうことで、子供も何か困ったことがあったときに親に助けを求めやすくなります。

毎日コミュニケーションを取ることで、子供の変化にも気づきやすくなります。たとえば、子供が何か困ったことがあるのに言い出しにくい場合でも、親から見て違和感を持ちやすくなるでしょう。顔色、言葉遣い、声色などなど、不安な気持ちは細かいしぐさに宿るものです。

泰然自若とした構えで子供と接する

子供が「親の前でいい子・強い子である必要はない」という気持ちを持つことも、親子間での信頼関係を築くためには大切です。そのためには、親御さんは子供が持ちかけてきた相談事に対して、エキサイトしないことです。親の動揺は子供にも伝わります。

たとえば子供が「塾の授業がまったくわからないんだ……」という相談をしてきたとき。「ちゃんと授業を聞いていないんじゃないの!?」「もっと早く言わないとダメじゃない!」と大声を出して、高圧的な態度を取るのはNGです。そうすると、子供は「親には弱音を吐いちゃいけないんだな」と考えて、弱さをさらけ出す場をひとつ失うことになります。

また、「こんな塾、もうやめてしまいましょう!」「塾の先生に文句を言ってくるね!」という言動もおすすめできません。この段階では、子供が親にどう動いてほしいのかが不透明です。「軽い気持ちで話したのにオオゴトになってしまったな……」と焦ってしまう場合があります。親の早とちりにもなりうるケースですね。

自分の考えを子供に伝えたり、具体的なアクションを起こしたりする前に、「塾の授業でどの部分がわからないの?」「いつごろからわからなくなったの?」「塾の先生にはもう相談したのかな?」「塾の授業は楽しめている?」など、子供の気持ちや現状をじっくりと、ひと通り聴いてみてください。

その際に留意していただきたいのは、大切なのは「じっと耳を傾ける」ことであって、決して「問い詰める」のではない、ということです。そのうえで「なるほどね、教えてくれてありがとう」と子供に感謝の言葉を伝え、「じゃあちょっと塾の先生に電話をかけて相談してみようと思うんだけど、どうかな?」と行動の指針を示してください。子供の成功段階に合わせて、「親が行動する」から「いっしょに行動する」へシフトしていきましょう。

トラブルが起きたときは親子でちゃんと納得できる形でクールに対処をしないと、子供はちょっとしたトラブルを必要以上に恐れるようになったり、親に悩みや心配事を話さなくなったりします。親が動揺している表情は、どんな子供にとっても気持ちのよくないものです。どんな悩み事を受けても悠然と構えましょう。この「悠然」にも留意点があって、子供に「せっかく思い切って話したのに、スルーされた」という印象を持たれないように、子供を横目で見るのではなく、真正面から優しいまなざしを送りましょう。

子供にどんな景色を見せるか

子供によっては、なんとなく親の言うことに従って塾に通っているとか、怒られたくないから嫌々勉強をしているといったこともあるかもしれません。しかし、高学年になり自我が発達するにつれて、「本当にこのまま受験勉強を続けていていいのかな」「受験辞めたいな」と思う場合もあります。こうしたカミングアウトを親はどのように受け止めるべきなのかを考えてみましょう。

まずは、子供が何を大事にして生きていくのかを聴いてみてください。今何をしたいのか、中学・高校でどんな学校生活を過ごしたいのか、将来はどんな大人になりたいのか……、いろんな夢や憧れ、欲求を言葉に出させてみましょう。それをしっかりと受け止めたうえで、時には親の意見を伝えて話し合い、シナジーを作り出すのです。たとえば、子供の現在の欲求が以下の3つだったとしましょう。

  • 友達と思いきり遊びたい
  • 中学では野球部に入りたい
  • 大人になったら弁護士になりたい

結論を急がずに「じゃあ、ついてきてほしいところがあるから、今度一緒に行こうか」と話したうえで、私立中学・高校の野球部の練習風景や試合をいくつか親子で見て回ってみましょう。同時に、どんな弁護士に憧れるのかを話し合いながら、子供の理想像に近い弁護士さんのインタビュー記事やドキュメンタリー動画などを見たりして、子供の理想の大人像をより鮮明にイメージできるようなアシストをすることも選択肢です。中高生であれ、社会人であれ、「ああいう人間に僕もなってみたい」と思うことで、憧れの志望校が具体化し、それがエネルギーになることもあります。

親の腕の見せ所はどんな窓を作って、そこから子供に何を見せるのかを考えることです。「こういう大人にはなりたくないよね」という景色しか見せていないとしたら、子供が前に進んでいく元気や喜びを感じるのは難しいかもしれません。窓から見える大人を見て、「こんな人になりたい!」と思えたら、窓の外の世界に飛び込んでいきたくなるものです。

それは憧れの中学校の生徒だったり、スポーツ選手だったり、学者だったりするかもしれません。あるいは、世界で、世の中でこんなことで困っているという現実を見て、この問題を僕が解決しようと発想する子供もいるでしょう。親が世の中から切り取った窓の外を子供が見ることで、「これが自分の飛び込んでいく社会なんだ」と感じることができれば、未来のイメージが描けたということです。最近、テレビに映った不登校中の坊やがこんなことを語っていました。「僕の夢は、世界に笑顔を増やすこと」。あっぱれです。

自発的に行動ができる心持ちに育てる

親は人生の先輩として子供にアドバイスを送ることはできますが、子供の人生は子供のものです。ですから頭ごなしに命令して、何かをさせるのではなく、子供が自発的に行動できる心持ちを育むことが親には求められています。ただ、子供の周囲にある人間関係は、親子関係だけではありません。学校や塾の先生、周りの友達に支援を求めたい局面では、子供自身が自分の言葉で適切にサポートを求める必要があります。そのためのポイントは、次回解説していきましょう。


これまでの記事はこちら『中学受験との向き合い方

※記事の内容は執筆時点のものです

田中純
田中純 専門家・プロ

開成中学校・高等学校、国際基督教大学(ICU)教養学部教育学科卒業。神経研究所付属晴和病院、中高教諭、学校カウンセラーを経て公文国際学園開講準備に参加。現在は赤坂溜池クリニックやNISE日能研健康創生研究所、コミュニティ・カウンセラー・ネットワーク(CNN)などでカウンセリングやコンサルテーションを行っている。相性はDon先生。著書「ストレスに負けない家族をつくる」「中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由」(みくに出版)。公式YouTubeはこちら

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この記事の著者

編集・ライター。学生時代から都内で6年間塾講師を務める。塾講師時代は、おもに作文・国語・英語の科目を担当。小学生から中学生までの指導にあたる。現在は編集・ライターとして教育関連をはじめ、街歩き・グルメ記事の執筆取材をおこなう。