連載 中学受験との向き合い方

受験生親子のための支援のイロハ[3] 夫婦で支援し合う関係を築く ―― 中学受験との向き合い方

専門家・プロ
2021年6月10日 やまかわ

首都圏の一部では、4人に1人の小学生が挑戦するともいわれる中学受験。子供の受験に親はどう向き合えばよいのでしょうか。この連載では、『中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由』の著者である、田中純先生に中学受験との向き合い方をテーマにさまざまな話を伺います。

中学受験は親子の関係だけでなく、夫婦間での協力も大切です。しかし、父親と母親とでは教育方針が違ったり、見えている子供の姿が微妙に違ったりすることがあります。そこで肝心なことは、子供にどう幸せになってほしいのか、お互いの考えを共有することです。頑張るわが子を夫婦で力を合わせてサポートするためには、どのようなことを心がければいいのかをお伝えします。

夫婦はワンチーム

家族という共同体はひとつのチームですが、夫婦もまた、そのなかの小さなチームです。チームというのはひとつの目標に向かって突き進む「We」のことを指します。スポーツチームであれば優勝のために試合に勝ち続けること、会社であれば業績を上げたり、社会貢献したりすることが目標になります。では、家族や夫婦間での目標とはなんでしょうか? 「家族の幸せ」「子供の幸せ」という最大公約数的な目標を、もう少し具体的に明らかにしていきましょう。ここでは「親するチーム」としてのありようを考えていきます。

  • 将来はどんな大人になってほしいか
  • 小中高でどんな学校生活を過ごしてほしいか

これらは「親するチーム」としてのヴィジョンです。実現可能かどうかは関係なく、夫婦で思っていることを書き出して話し合ってみましょう。そのなかで「どうしてもこれだけは譲れない」という想いが出てきて、夫婦で意見が食い違うことがあるかもしれません。そんなときは、いったん答えを先延ばしにしてみるのもひとつの手段です。

たとえば母親は子供に中学受験をさせたいと考えているものの、父親は公立の中学校に進学で構わないと思っている場合。進路選択は、期限付きではありますが、じっくり時間を掛けて話し合うことをおすすめします。中学受験の勉強を進めながら父親、母親、子供の考えがどう変化するのかを静観してみるのも良いでしょう。

しかし、私が相談を受けた次のような事例もあります。母親は私立A中学受験推進派で、父親は国立B中学受験推進派。入試の結果は見事、両方合格。子供は母親と同じく私立A中学へ進学希望でした。ところが父親は「国立でなければ、お金は出さない」と言うのです。子供の言い分はご想像できるでしょう?「A校に行くために頑張ったのに……」。ちなみにA校の合格発表は2月 4日で、入学手続の締め切りがその後すぐでした。つまりギリギリの状況、即断即決が求められる状況だったのです。

別の事例では、母親が第一志望校の入学手続きの日時を間違えて、別の学校に進学せざるを得なかったという例もありました。父親のカバーは機能しなかったようです。

いずれも父母の「親するチーム」としてのパフォーマンスを問われた事例です。

私は「中学受験の経験は一生ものの宝物」と考えています。中学受験を通して学んだ内容は、私立中学に進学せずとも公立中学校やその先の進学先、そして社会人になっても役立つスキルがたくさん詰まっているものです。中学受験はひとつの経験として大事にしつつ、現実的な進路選択はまた別に考える、というスタンスであってもいいのです。

教育における考えは、夫婦間で違いがあってもなんら不思議ではありません。どちらが正しく、どちらが間違っていると、言いがたいことも多いでしょう。それでも選択をしなくてはならない場合があるわけですが、選択肢を狭めないままの状態で答えを延ばしにしてもよいと思います。だだし、前述したようなギリギリの状況で見誤らないためにも、夫婦・家族のチームワークは活性化していただきたいのです。

定期的に夫婦間でのブリーフィングを

チームワークを活性化するためには、お互いの教育目標を共有し、定期的に近況報告や話し合いをすることです。いわゆる「ブリーフィング」です。「奥さんに任せているから、自分から話す必要はない」というのでは、チーム内の意思疎通が悪くなります。1日1回、それが難しいなら週3回、5分でもいいから子育てに関してのブリーフィングをしてください。話すことがなさそうでも必ず、です。子供をネタにした雑談もOKです。

ルーティンとして夫婦の話し合いが当たり前になってくると、「今日報告すること何かあるかな?」「知っておいたほうがいいことってある?」「この間、ああいう話をしていたことがあったけど、それからどうなったかな?」というような言葉が、自然に出てくるようになるはずです。夫婦間のコミュニケーションが豊かになり、協力し合えているという気持ちをお互いに持つことができれば、今まで以上に足並みを揃えて子供をサポートできるようになります。中学受験は親にとっては大きな子育てプロジェクトです。プロジェクトを成功させるためのチームとして、必要な情報は逐一シェアしましょう。

ブリーフィングに子供が参加してもよい

ブリーフィングを続けるうえで、夫婦間で意見の食い違いが生じることがあるでしょう。そんなときは感情的になってケンカをするのではなく、冷静に話し合いをしましょう。子供が小学5、6年生くらいであれば、あえて子供の前で話し合ってみるのもおすすめです。

子供の将来を思って父親と母親が真剣な姿で話し合う姿を見ることは、子供自身が受験のこと、将来のことを真剣に考えるきっかけにつながります。「お父さんはこう思う」「お母さんはこう思う」「でも主役はあなた。あなたはどう思うかな?」というように、子供の意見も聞いてみてください。中学受験を自分事としてとらえるためにも、子供に投票権が一票あっていいはずです。

試験会場で入試問題を解いて合格を勝ち取るのは、子供自身です。逆に不合格を受け止めるのも子供自身。いずれにせよ、その先の子供の人生は子供のものです。自分のことは自分で決めるという当事者意識を育むことは、中学受験以降の人生にも役立ちます。人生は選択の連続。大きな分岐点が訪れたときに、「自分のことは自分で決める」という覚悟と責任をもって前に進める人間こそ、“大人”と呼べるのです。ただし「自分のことは自分一人で決めなければならない」ということではありません。必要に応じて自主的に誰かに相談したり、指導を求めたりすることも自立的な振る舞いなのです。

子供の将来像と親の期待

親が子供の将来に願いや期待を持ち、それを子供に伝えることと、親が子供を支配することとは別のことです。関心は持っているが、支配はしないという関わり方には知恵と技術が要されます。その知恵と技術を磨いてくれるのも子供です。

固定的な姿勢ではなく、絶えずご両親も子供も成長し、変化に対応していく。家族一人ひとりの自発性を活かし、共通のヴィジョンを共有し続ける、そんなダイナミックなチームとしての家族育てに挑戦なさってみませんか。

2020年以来私たちが思い知ったのは「将来は想定外」だということでした。子供も加わった「We」チームの存在が、子供がどの方向に進むにせよ、どんな想定外の将来が待ち受けているにせよ、立派に生き抜いていく支えになるに違いありません。

そんな地盤の上に、共に入口を切り開いた中学高校の6年間の学校生活が豊かな土壌となって積み重ねられます。楽しかった学校生活の思い出は、生涯使い尽くすことのない最高の財産、エネルギー源になるでしょう。


これまでの記事はこちら『中学受験との向き合い方

※記事の内容は執筆時点のものです

田中純
田中純 専門家・プロ

開成中学校・高等学校、国際基督教大学(ICU)教養学部教育学科卒業。神経研究所付属晴和病院、中高教諭、学校カウンセラーを経て公文国際学園開講準備に参加。現在は赤坂溜池クリニックやNISE日能研健康創生研究所などでカウンセリングやコンサルテーションを行っている。「一家にひとり、一課にひとりのコミュニティ・カウンセラー」を育てることを目標としている。著書「ストレスに負けない家族をつくる」「中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由」(みくに出版)

この記事の著者

編集・ライター。学生時代から都内で6年間塾講師を務める。塾講師時代は、おもに作文・国語・英語の科目を担当。小学生から中学生までの指導にあたる。現在は編集・ライターとして教育関連をはじめ、街歩き・グルメ記事の執筆取材をおこなう。