中学受験ノウハウ 連載 中学受験との向き合い方

親子関係がギクシャクしてると感じたら、コミュニケーションの振り返りを ―― 中学受験との向き合い方

専門家・プロ
2021年7月27日 やまかわ

首都圏の一部では、4人に1人の小学生が挑戦するともいわれる中学受験。子供の受験に親はどう向き合えばよいのでしょうか。この連載では、『中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由』の著者である、田中純先生に中学受験との向き合い方をテーマにさまざまな話を伺います。

「子供の成績が上がらない」「子供がやる気にならない」中学受験生の親の多くが悩みを抱えています。不安な気持ちやイライラの感情に飲まれて、子供に声を荒げてしまう親御さんもいるかもしれません。しかし、中学受験が本格化するころには、子供も自分で物事を考えられる人間に成長してきます。こうした時期に子供を上から抑えつけるような接し方をすると、親子関係がギクシャクして受験どころではなくなることがあります。

トータルでプラス? マイナス?

親子関係がこじれるときは、どちらか一方、あるいは両方が相手に対して抱えていたネガティブな感情、仮に"ネガティブガス"とでも呼びましょうか。ネガティブガスは限界濃度に達すると爆発します。そうならないようにするための換気には、わが子とのコミュニケーションがトータルで「+」(プラス・ポジディブ)なものだったのか、「-」(マイナス・ネガティブ)なものだったのかを振り返り日々、あるいは定期的にメンテナンスするのが効果的です。

「ここ数日、叱ってばかりだったかもしれない」

こうした反省点が浮かび上がってくることもあるでしょう。そんなときは、次の日からプラスのコミュニケーションを心がける必要があります。

プラスのコミュニケーションの根幹は、無条件で相手の存在を認めること

たとえば、条件付きでプラスのコミュニケーションは褒める、マイナスのコミュニケーションは叱るなどです。これは躾(しつけ)などに用いられます。やって良いことと悪いことを躾けるのは親の大切な役目ですね。

一方で、無条件すなわち良し悪しを超えたコミュニケーションにも、プラスとマイナスがあります。実はこの影響力が大きいのです。プラスとマイナスのコミュニケーションを図化すると次のようになります。

コミュニケーションの振り返りに使える「4つのストローク」

無条件のプラスのコミュニケーションの具体例は笑顔の挨拶です。「おはよう」「おやすみ」「おかえり」などの笑顔の挨拶は、互いの存在を認めるプラスのコミュニケーションです。日常的に家族と笑顔の挨拶ができると「今日も家族の一員として生きていられる」という安心感が無意識に育まれていきます。

ですから、たとえ親子関係がギクシャクした状況にあっても、笑顔の挨拶は欠かさないでほしいのです。普段するはずの挨拶が交わされなくなってしまうと、子供は「無視された」「自分はこの家にいないほうがいいんだ」というネガティブな気持ちで胸をいっぱいにしてしまいます。

ポジティブなコミュニケーションの根幹は相手の存在を認め、尊重する気持ちです。普段のコミュニケーションを振り返って、「マイナスのコミュニケーションが多いかも」と感じた場合は、こうした気持ちを根幹にコミュニケーションを取ることをおすすめします。前掲の4つのストローク図に関する詳しい説明は、こちらの記事(弟・妹の受験で気をつけたいコミュニケーション )も参照ください。

プラスのアプローチ方法が豊かであれば、子供に注意をしなくてはいけないときでも、ネガティブな印象を薄くすることができます。たとえば、子供に何か注意をするときに「肩を抱きながら諭す」「手を握りながら忠告する」などのボディコンタクトを取り入れるのもひとつの方法です。こうした行動は言葉に出さずとも「あなたのことを大切に思っているよ」という想いが伝わりやすい面があります。

“私メッセージ”を使ってみる

「相手の存在を認め、尊重する」のがプラスのコミュニケーションでした。その対極の無条件のマイナスのコミュニケーションとは、相手の存在を否定するような言動です。中学受験で親に焦りが生じると、「あなたは、ちっとも出来ないんだから……」「だからあなたはダメなのよ!」などの言葉を子供にぶつけてしまうことがあります。親といえど、カッとなる瞬間があるのは、仕方ありません。しかし、こうした言動中心で子供にアプローチをしていると、徐々に子供の自己肯定感が低下し、親に対する恐怖心や不信感が芽生えてしまいます。そうならないためには、高ぶった感情をいったん切り離し、思ったことを冷静に伝えるすべを持つことです。

「私はこう思っているけど、あなたはどう思っているかな?」
「今のあなたの言動、お母さんは悲しいな」

こうした“私メッセージ”はそのための方法のひとつでしょう。自分の気持ちを素直に伝え、相手の気持ちを聞いてみてください。感情的にならずにお互いに話し合う姿勢を持つことで、ネガティブなメッセージになりにくくなります。

意外と大事? 子供と接する際の位置・角度

親としてはそんなつもりがなくても、親の言動は子供からしてみれば圧迫感や鬱陶しさを感じてしまうことがあります。そんなとき、子供と接する際の角度や距離、間合いのとり方を工夫してみませんか?

対面型と寄り添い型

以前の記事(子供に寄り添うこと、子供と向き合うこと )で、対面型と寄り添い型という、2つの接し方について解説しました。「対面型」は相手の正面に座り、話をすること。正面から向き合えるため、何か強いメッセージを残したいときには良い角度である一方、状況によっては圧迫感を与えてしまうことがあります。

「寄り添い型」は相手の横に座って話をすること。相手が何に夢中になっているのか、何に苦しんでいるのかなどを知るためにはとても役立つ角度ですが、フィジカルな寄り添い方は身体的な距離が近くなるので、時に鬱陶しさを感じさせてしまうこともあることをお伝えしました。

L字型

L字型は、相手とL字型の角度になるような位置で話をすること。対面型と寄り添い型の両方の良さを兼ね備えた接し方です。「横目で睨んでいる」と思われないように注意する必要はありますが、視線を合わせたり逸らしたりしても「ウソをついている」と邪推されにくく、“相手の見えている景色に気持ちを向ける”といったこともやりやすいです。相手の心理状態に合わせて、自然に向き合ったり、寄り添ったりできるため、お互いに気楽に話しやすいのもメリットです。心理的な間合いをとったり詰めたりしやすい便利な型です。

親子での話し合いは、一度や二度の話し合いで答えが出にくいこともあります。まずはL字型で腰を据えて話し合い、状況に応じて、向かい合ったり寄り添ったりしてみましょう。子供がプレッシャーを感じない距離感で接し続けることができれば、少しずつ問題解消の糸口が見えてくるはずです。

これまでのコミュニケーションを振り返る

親子関係がギクシャクしていると、親も子もイライラをぶつけ合う関係になりかねません。「ちょっとギクシャクしてるかな……」と感じたら、これまでのコミュニケーションのスタイルを見直す機会と心得えましょう。マイナスのコミュニケーションが多いと感じたら、“私メッセージ”を使って冷静に伝えたり、話し合うときの位置・角度を見直したりするなど、ちょっとした工夫で改善されることもあるはずです。

コミュニケーションを振り返るには、親御さんが冷静でいなければなりませんから、マイナスの感情を抱え込まないよう、積極的にリフレッシュすることも大事です。子供に対して不満が爆発しそうなときは、ひとつ深呼吸をして気持ちを落ち着かせたり、ママ友に話を聞いてもらったりすること。気持ちを落ち着かせて上手に子供を中学受験に導きましょう。


これまでの記事はこちら『中学受験との向き合い方

※記事の内容は執筆時点のものです

田中純
田中純 専門家・プロ

開成中学校・高等学校、国際基督教大学(ICU)教養学部教育学科卒業。神経研究所付属晴和病院、中高教諭、学校カウンセラーを経て公文国際学園開講準備に参加。現在は赤坂溜池クリニックやNISE日能研健康創生研究所などでカウンセリングやコンサルテーションを行っている。「一家にひとり、一課にひとりのコミュニティ・カウンセラー」を育てることを目標としている。著書「ストレスに負けない家族をつくる」「中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由」(みくに出版)

この記事の著者

編集・ライター。学生時代から都内で6年間塾講師を務める。塾講師時代は、おもに作文・国語・英語の科目を担当。小学生から中学生までの指導にあたる。現在は編集・ライターとして教育関連をはじめ、街歩き・グルメ記事の執筆取材をおこなう。