連載 親子で疲弊しない「ノビノビ中学受験」

【連載50回】「ゆる中学受験」に込めた思い[前編] ―― 親子で疲弊しない「ノビノビ中学受験」

専門家・プロ
2021年7月05日 やまかわ

中学受験と聞くと、難関校を目指す受験がどうしてもイメージされます。しかし、そうではない、あるいはそのやり方に疑問をもつご家庭は少なくないでしょう。この連載では、『ゆる中学受験 ハッピーな合格を親子で目指す』の著者である亀山卓郎先生に、親子で疲弊しない中学受験をテーマにさまざまなお話を伺います。

進学個別桜学舎で塾長を務める亀山卓郎先生のコラム「親子で疲弊しない「ノビノビ中学受験」」の連載が、おかげさまで50回目を迎えました。そこで亀山先生が提唱され、そして著書のタイトルにもされている「ゆる中学受験」について、改めてそこに込められた思いを2回に分けてお聴きします。

“前時代的”な中学受験に違和感

―― まずはここまで中学受験、特に中堅校受験に関わるさまざまなお話をお聴かせ頂きありがとうございます!

連載50回、これは「中学受験ナビ」さんの連載のなかでもトップクラスの回数だとか! 正直、ここまで続くとは思っていませんでしたが……(笑)。引き続き、私の経験が親御さんの役に立つのであれば幸いです。

―― 今回は連載50回を機に、「ゆる中学受験」の考えが生まれた背景、そしてそこに込められた思いを改めてお聞かせ頂きたく考えています。そもそも先生が千葉で塾経営をしていた頃は、高校・大学受験が専門だったそうですね?

おっしゃる通り、はじめは千葉で塾を経営していました。そこでは主に高校・大学受験の指導をしていて、中学受験の子を教えたのは数回程度でしたね。ちなみにその当時、私は中学受験に対して正直良いイメージを持ってなくて。特に昭和の頃の中学受験塾には、「もっとやる気を出せ!」と無鉄砲に生徒を叱りつけたり、「あなたの育て方が悪い!」と親御さんに言い放ったりと、威圧的な態度で親子を“支配”する先生が多かった。現在はそうした先生は減ってきましたが、たとえば「模試の点数が悪い!」と頭ごなしに生徒を叱り、子どものやる気をますますなくしていってしまう、といった塾は今でもあるようです。

一方で私自身、もとから何かを強制させられるのに強い抵抗を感じるタイプでした。なので、子どものやる気うんぬんはさて置き、塾が子どもを縛りつけることが「常識」とされ、なんとか知識を詰め込んでどこかの学校に合格させる ――。こうした中学受験という世界に、どこか違和感を持っていたんです。

「ゆる中学受験」のルーツ ―― ひとりの女の子との出会い

―― どのような経緯で、中学受験の指導にも力を入れることになったのでしょうか?

きっかけは、台東区に場所を移して「進学個別桜学舎」としてスタートしていた私の塾に、ある個人塾から転塾してきた女の子との出会いです。その子が通っていた塾は先生の怒号が飛び交うような塾だったようで、その子だけでなく、親御さんも疲弊しきっていた様子でした。

「難関校に合格しないとダメ」
「高い偏差値をとり続けないといけない」

こうした“思い込み”に、親子ともに苦しめられていたんですね。でも冷静に考えると、心身を追い詰めてまで勉強をしなくても合格を狙える学校はたくさんあって、偏差値が高くなくても「良い学校」は山ほどあるんです。結果的にその子は晴れ晴れとした顔で憧れの中学校に進学できましたが、この子との出会いを通し、中学受験の「常識」に縛られ、苦しんでいる親子は実は少なくないのかもしれない、これまでの中学受験に違和感を覚えている私が、何か手伝えることがあるかもしれない。こうした思いに至り、今までの中学受験とは一線を画す意味で「ゆる中学受験」という名のコンセプトを掲げ、中学受験の指導にも熱を入れていったんです。

「ゆる中学受験」のコンセプト

――「ゆる中学受験」のコンセプトを、改めて教えてください

首都圏模試の偏差値60以下の中堅校受験にターゲットを絞り、志望校に向けて過不足のない勉強をする。そして緩められる部分は緩め、親子で疲弊することなく中学受験を完走する。これが「ゆる中学受験」の基本コンセプトです。

そもそも中堅校を志望する場合には、難関校レベルの問題集をガツガツとやる必要はほとんどありません。たとえば私の塾で使っている算数のテキストは基礎的な内容がメインで、大手進学塾と比べると宿題の量も多くない。習い事に関しては、小6の11月以降は少しお休みしてもらうこともありますが、「何かを諦めて受験するのは違う」といった思いから、むしろ受験勉強と習い事を両立するためのアドバイスも送っているほどです。事実、私の塾には演劇や水泳、野球など、好きな習い事に全力で打ち込んでいる子も多く、こうした子は習い事で気持ちをリフレッシュできているようで、受験勉強にも集中できている様子が見られます。

―― 中学受験が終わっても、塾に戻ってくる子が多いようですね

「やるときは、やる」「緩められるときは、緩める」こうした塾の雰囲気を気に入ってくれる子は多く、ありがたいことに中学受験が終わってからも顔を出してくれたり、高校3年生まで大学受験に向けて通ってくれたりする子がたくさんいます(※)。

ちなみに先ほどお話した女の子は、進学個別桜学舎としては「中学受験1期生」の子でしたが、実はもうひとり女の子がいたんです。仲良く机を並べ、切磋琢磨していた彼女たちはふたりとも無事に中学受験を終えられましたが、なんと大学受験を控えたタイミングで私の塾で偶然再会したんですね。そして、あの頃と同じように机を並べて勉強している姿を見たときは、思わずグッときてしまいました。

※編集部注:亀山先生が塾長を務める「進学個別桜学舎」では、中学受験だけでなく、高校受験・大学受験の指導も実施

大手塾ではできない指導を

―― 難関校・中堅校志望問わず、中学受験では大手塾に通う親子が多い印象です。こうした大手塾と、進学個別桜学舎の違いを教えてください

大手塾の考えは、たとえ中堅校を受けるにしても「はじめはハイレベルな勉強をして難関校を目指しましょう」といったもの。志望校のランクを下げるのはいつでもできるので、「上を目指しておいて損はない」といった考えでカリキュラムが組まれているケースが多いんですね。一方で私の塾では、まずは偏差値60以下の学校に合格できる実力を身につけることを目標に置いています。

もちろん、上を目指すことは否定されるものではありません。一方で、当然ながら勉強のレベルについていけない子が出てくるのも事実。こうした子は勉強に伸び悩み、親御さんとしても勉強ができない子を前にして焦る ――。実際、こうした親子を何組も見てきましたが、「いやいや、そもそも勉強のレベルがお子さんに合っていませんよね」といったケースも珍しくなくて。そのため私の塾では、そこまでガツガツ勉強しなくても、着実に勉強を続けていけば手が届く「偏差値60以下」の学校を基準に、そして「誰も置いていかないこと」を目標に指導をおこなっています。

―― 生徒を指導する上で、亀山先生が特に大切にされているポイントはありますか?

そもそも私の塾には、難関校を目指すような「勉強が大好き!」といった子は少なく、むしろ勉強がキライだったり、苦手意識を持っていたりする子が多いんですね。そのため、彼ら・彼女らが「やっぱり勉強なんて全然できない!」といった“アレルギー反応”を起こさないように、子どもたちのペースに合わせ、まずはゆっくりと「理屈」を教えることを心がけています。たとえば「つるかめ算」を教えるときも、いきなり公式は教えません。まずは「どうしてつるかめ算と呼ばれるか」といった考え方を一から解説して、理屈をしっかりと理解させています。

―― その点、大手塾はどちらかというと勉強の「効率性」を重視するイメージです

時間のない受験勉強において、公式や法則を先に学んだあとに類題をひたすら解かせる、といった方法を塾側が取るのも十分理解できます。しかし私は、たとえ遠回りであっても、どうせ学ぶなら「学ぶ楽しさ」を感じ取ってほしいんです。勉強を続けていくなかで「なるほど!」「そういうことか!」といった驚きを多く経験した子は、中学以降の勉強に対しても自主的に取り組むようになるもの。特に、勉強に苦手意識を持っている子に「学ぶ楽しさ」を気づかせてあげることは、私の使命でもあると感じています。事実、私の塾で志望校に合格できた子が、そこで勉強をやめることなく、中学以降もしっかりと勉強を続けて学年上位の成績をキープしているといった例も少なくありません。

―― 一方でこれまでの連載、そして著書の『ゆる中学受験』のなかでも、先生は大手塾を否定されてはいません

大手塾の指導も、私がおこなっているような指導も、どちらが正しくてどちらが間違っている、ということはありません。あくまで、生徒の相性の問題です。たとえば新しい知識を身につけたときの喜びを幼い頃から知っている子は、大手塾のハイレベルな授業を楽しいものに感じ、自ら知識をどんどん身につけていくでしょう。こうした子が私の塾に来たら、むしろ退屈に感じてしまうかもしれません。

一方で、中学受験を目指す子すべてが「勉強が楽しい!」と思っているかというと、もちろんそんなことはないですよね。割合としては、勉強の習慣が身についていない子のほうが多いはず。そうした子が大手塾で周りに流されて難関校を目指し、授業についていくのに精いっぱい……、といったケースが本当に多い。逆にこうした子は、まずはペースを落とし、理屈をしっかりと理解したうえで「わからない問題が解けるようになった!」というステップを一つひとつ積み上げていく勉強が合っています。

難関校を目指して、周りの子と一緒に“急行列車”に乗るだけが中学受験ではありません。自分のペースで、ゆっくりとした“鈍行列車”に乗る中学受験があってもいいんです。つまり、子どものペースにあった受験スタイルを選択するのが大切ということ。そのペースに子どもが合っているのであれば、大手塾を選択することは何の問題もありません。

「ゆる中学受験」は、ゆるくない

―― 先生は「セカンドオピニオン」という形で、通塾に悩む親御さんの相談にも乗られています。大手塾から個人塾などへの転塾で迷う親御さんも多いようですね

まず「ゆる中学受験」と聞くと、やらない・だらしないというイメージを持ってしまう方もいるかもしれません。以前も、週4日、毎日4時間以上の指導をおこなう塾から私の塾に転塾を考えている親御さんが、入塾手続きの際に「本当にこの塾でいいのかしら……。先生、入塾に向けて私の背中を押してください」と、まさかの助け舟を求められたことがありました。今までビシバシと指導を受けてきたのに、ここで緩めていいのかな、といった気持ちを抱かれたのでしょう。

でも、そもそも「ゆる中学受験」は子どもを甘やかす受験ではありません。「緩めるところは緩める」といったことを提唱しているだけで、宿題もしっかり出しますし、むしろ勉強にだらけている姿が見られたら注意します。むしろ、緩ませる場面と、緊張感を持たせる場面の「緩急」を親御さんが理解し、子どもをうまくナビゲートすることが求められるので、「塾任せで親はノータッチ」というような簡単な受験ではないんですね。つまり親御さんのサポートが欠かせない受験というわけですが、この連載のなかでも「中学受験は親の受験」と私が繰り返しお伝えしているように、親子二人三脚で歩んでいく受験が本来あるべき姿。そして、子どもには子どもなりのペースがあります。先ほど不安をこぼされていた親御さんも、こうした点を理解いただき、結果として負担にならないペースでお子さんが勉強を続けられたことに安心されていました。

>>後編では、亀山先生が「ゆる中学受験」に込めた思いをさらに聴いていきます!

※記事の内容は執筆時点のものです

亀山卓郎
亀山卓郎 専門家・プロ

かめやま たくろう|明治学院高等学校、成城大学卒業。大手塾・個人塾などで教務経験を積んだ後、2007年に転居のため千葉県及び江戸川区の塾を閉鎖し、台東区上野桜木で「進学個別桜学舎」をスタート。首都圏模試の偏差値で60を切る学校への指導を専門に「親子で疲弊しないノビノビ受験」を提唱している。TJK東京私塾協同組合員、第一薬科大学付属高校上野桜木学習センター長。YouTube「下町塾長会議」構成員。著書「ゆる中学受験ハッピーな合格を親子で目指す」(現代書林)、「めんどうな中学生(わが子)を上手に育てる教科書」(ブックトリップ)、構成・問題監修「LIZ LISA Study Series中1/中2」、監修「おっぱっぴー小学校算数ドリル」(KADOKAWA)

この記事の著者

編集・ライター。学生時代から都内で6年間塾講師を務める。塾講師時代は、おもに作文・国語・英語の科目を担当。小学生から中学生までの指導にあたる。現在は編集・ライターとして教育関連をはじめ、街歩き・グルメ記事の執筆取材をおこなう。