中学受験ノウハウ 連載 私学を覗く

明治大学付属中野八王子中学高等学校のミリョク ―― 私学を覗く

2021年10月11日 石井知哉

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東京都八王子市に位置する、明治大学付属中野八王子中学高等学校。「明八」の愛称で知られる明治大学の系属校だ。人気の秘密を知るべく、自然豊かな環境でくりひろげられるスケールの大きな学校生活の様子にフォーカスを当ててみた。

緑に囲まれた明八の広大なキャンパス

明八は緑に囲まれている。比喩としての緑ではない。航空写真でひと目見ていただきたい。滝山自然公園や、秋川丘陵自然公園に隣接しているキャンパス周辺は緑一色。文字通り緑に囲まれているのが明八だ。

緑に囲まれた広大なキャンパス。空から見ないと本当の大きさはつかめないくらいだ

約7万坪の広大なキャンパスには、文武両面で生徒たちの活動を支える施設が整っている。

  • 両翼90m、センター120mのスタンド付野球場
  • 50m・25mプール
  • 400mトラック
  • 国体使用可能なテニスコート3面
  • ゴルフ練習場
  • バスケットコート2面の体育館
  • 卓球場
  • 武道館
  • トレーニングルーム
  • 化学・物理・生物の3種類の実験室
  • 男女別の合宿所
  • 1,500人収容の片桐講堂
  • 各種の特別教室
  • 約3万2000冊の蔵書やDVDのある図書室 など

都内でここまでの大規模な施設を備えている中学・高校は、ほかではちょっとお目にかかることができない。こうした環境で生徒たちは6年間、質の高い勉学や部活動にのびのびと打ちこみ、大きく成長をとげていくわけだ。

生徒の憩いの場であるカフェテリア。2018年に明るく開放的な空間へとリニューアル。公募で「ハチカフェ」と名づけられた

片桐講堂はなんと1,500人収容という大きさ。グランドピアノも常設されている

2016年に図書室の隣に新設された自習室。ブース席になっていて、集中して学習に取り組める

恵まれた環境ならでは。明八のスケールの大きな部活動

広大な立地を最大限に活用し、さまざまな設備をほこる恵まれた環境。それに支えられ、明八は部活動が非常に盛んだ。そしてスケールが大きい。

コロナ禍のなか、学校生活にも大きな影響が出たことは広く知られている。とりわけ部活動はさまざまな制限を受けている中学・高校がほとんだ。通常、利用できるスペースに限りがあるなかだと、密を避けるために活動の幅が狭くなってしまう。

しかし明八にはそれがない。なぜか? 理由はいたってシンプル。何しろ広いからだ。じゅうぶんな対人距離をとり、感染リスクを防ぎながら練習にうちこめる。それだけのスペースが確保されているのだ。キャンパス内の野球場では、部員たちがソーシャルディスタンスを保ちながら、練習に汗を流していた。

練習に汗を流すテニス部員。3面あるテニスコートで、ゆったりと質の高い練習に打ちこめる
※写真は2019年に撮影したものです

中高一貫指導のラグビー部。なかには中学から始めて、高校ジャパンやトップリーガーへと育つ選手も
※写真は2019年に撮影したものです

明八のスケールの大きさを物語る面白いエピソードがもうひとつ。吹奏楽部の話だ。実は、多くの学校で、吹奏学部はコロナによる影響が最も大きい部の1つだ。

なにしろ、演奏するためにはマスクをはずさなければならない。ましてや主な活動場所は密になる屋内。そのため練習を諦めざるをえない、という話はよく耳にする。かといって換気がよくソーシャルディスタンスを保てる屋外で練習する、というわけにもいかない。楽器の演奏音が近隣から騒音とされてトラブルになることもあるからだ。

この点でも明八の環境は優れている。敷地が広大なうえ、周辺は森である。近隣住人を気にせず、思うぞんぶん大音量で演奏できるというわけだ。校舎脇でソーシャルディスタンスを保ちながら、ほっぺたをふくらませて一生懸命に、そして楽しそうにトランペットを奏でる部員たちの姿が印象的だった。

コンクール常連校の吹奏楽部は「音に厳しく、人に優しく」をモットーにコロナ禍に負けずに練習に励んでいる
※写真は2019年に撮影したものです

毎日が林間学校? 明八生のバイタリティ

下校の時間帯、感染症対策のために適度な距離感を保ちながら、和気あいあいと語りながら帰路につく生徒たちの姿を見ることができた。マスクごしでもすぐにわかる明るい笑顔は、学校で友だちと会える喜びに満ちあふれたものだった。

コロナ禍の影響で、休校や自宅からのオンライン授業となることが珍しくなくなった情勢にあって、やはり友人や先輩・後輩たちとの交流が学校生活には不可欠であることがよくわかる。

6年間毎日、登下校で通う桜並木。その名のとおり、春には満開の桜が生徒たちを出迎え、そして見送る
※写真は2019年に撮影したものです

八王子駅と拝島駅のそれぞれと学校間をスクールバスが行き来しており、多くの生徒が利用しているという。片道およそ25分だから、往復で毎日1時間近くをスクールバスで過ごすことになる。中高生にとってはハードなようにも思えるが、生徒たちはどう受け止めているのだろうか?

これについて、入試広報室室長の白井利剛先生から興味深い話をきくことができた。

「ある新入生に『通学、大変かい?』とたずねてみたんです。すると、『毎日林間学校みたいで楽しい』という言葉が返ってきたんです」

先生にとっても意外な、しかし、スクールバスでの通学時間を肯定的にとらえる生徒のリアクション。そのときのことを思い出すように、白井先生は目を細める。

都会の喧騒を離れて自然豊かなキャンパスで学ぶ。なるほど、これはたしかに「林間学校」だ。子供の感性は、大人のちっぽけな固定観念など、あっさりと飛びこえてしまう。往復で約1時間というバス通学も、明八生のバイタリティをもってすれば、楽しい時間となるようだ。

そう考えると、明八の生徒たちにとっては、スクールバスも貴重な学校生活の舞台なのかもしれない。

ほとんどの生徒が利用するスクールバス。往復で1日50分を過ごすことを考えると、このバスも立派な学び舎だ
※写真は2019年に撮影したものです

◇ ◇ ◇

『みんなで仲良く 正直に 真面目に 精一杯努力しよう』

これが明八の “学園の合い言葉” である。シンプルで力強いメッセージが伝わってくるスローガンだ。あたりまえのことがあたりまえにできにくい時代にあって、「毎日が林間学校みたい」と表現される “非日常空間” で過ごす “日常生活” が織りなす学校生活。ここでの6年間は、明八生たちにとって、「一生モノ」の経験として輝くにちがいない。

学校Web:明治大学付属中野八王子中学高等学校

※記事の内容は執筆時点のものです

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