【社会】栽培漁業と養殖漁業の違いは? 中学入試で出題されやすいポイントも解説

2022年10月07日 ゆずぱ

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栽培漁業は、中学受験のテキストでもサラリとしか触れられていません。でも、次のような疑問を抱いている子は多いでしょう。

魚を人工的に育てる漁業のこと?
養殖漁業とは何が違うの?
栽培漁業で育てた魚は「天然魚」として市場に出るって本当?

栽培漁業は中学入試でも出題実績があり、かなり細かい知識が求められたこともあります。そこで5つのポイントを中心に、栽培漁業についてわかりやすく解説します!

5つのポイント

栽培漁業は一見するとややこしく感じられますが、5つのポイントを押さえるとすっきり理解できます。

  1. 人の手で育つ期間
  2. 栽培漁業をおこなう理由
  3. 栽培漁業の代表的な水産物
  4. 天然魚と養殖魚の”良いとこどり”
  5. SDGsとの関係

ポイント[1]人の手で育つ期間

人の手で育つ期間をもとに、栽培漁業と養殖漁業の違いを比較してみましょう。

 

養殖漁業

養殖漁業とは、卵から育てた魚をそのまま出荷する漁業のこと。マダイやクルマエビなど、市場に出回っている8割以上が養殖漁業で育てられている魚介類もあります。

栽培漁業

栽培漁業とは、卵から稚魚までは養殖と同じく人の手で育て、ある程度大きくなったら海や川に放流する漁業のこと。天然と養殖の「中間的な漁業」と考えると理解しやすいでしょう。

天然魚
天然魚とは、生まれてからずっと自然のなかで成長した魚のこと。遠洋漁業や沖合漁業、沿岸漁業でとれる魚はどれも海で育つので天然魚と呼ばれます。

ポイント[2]栽培漁業をおこなう理由

栽培漁業は「ある程度大きくなったら海や川に放流する」とお伝えしました。では、どうして途中まで育てた魚を放流するのでしょうか? それにはしっかりとした理由があります。

 

高度経済成長期に水産物の漁獲量が減ってきたため、「将来的にも魚を食べられるように」とさまざまな取り組みが進められました。漁獲量を制限して魚を獲りすぎないようする、小さな魚は漁獲せずに放流する、ゴミや汚染を減らして海をきれいに保つ、といった取り組みのひとつとしておこなわれたのが栽培漁業です。

自然界では、卵や稚魚の時点で外敵に食べられてしまうことがほとんど。成魚まで成長できる魚は、ほんの一握りです。そこで、自然界でも生き残れる大きさまで育ててから海に戻すことで、水産資源の数を増やすことにしたんですね

たとえばヒラメは栽培漁業が開始されてから個体数が安定し、全体の5〜15%は栽培漁業で放流された個体であることが追跡調査でわかっています。栽培漁業の成果がしっかり出ているということですね。

ポイント[3]栽培漁業の代表的な水産物

栽培漁業の代表的な水産物も押さえておきましょう。

※上記の図では代表的な魚介類などを紹介しています

実は、サケやマスは栽培漁業が始まる前から人工的に稚魚を育て、放流するという取り組みがおこなわれていました。そうした技術を応用するかたちで栽培漁業が進められ、対象種が増えていったのです。

現在は魚類だけでなく、エビなどの甲殻類アワビなどの貝類でも栽培漁業がおこなわれています。

ポイント[4]天然魚と養殖魚の”良いとこどり”

栽培漁業は、途中まで養殖することで漁獲量をある程度安定させることができ、大きくなったら魚だけの力で育ってもらう方法です。そのため、飼育コストもそこまでかかりません。つまり、天然魚と養殖魚の“良いとこどり”をした漁業といえるんですね。

天然と養殖のメリット・デメリットも押さえておきましょう。

天然魚

「やっぱり養殖より天然だよね!」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、天然魚の良いところは旬の時期に脂がのっており、おいしいということ。自然界でたくましく生きているので、筋肉質でタンパク質が豊富なことでも知られています。

ところが天然魚は、漁獲量が不安定です。農作物と同じく、よく獲れる年もあれば、あまり獲れない年も……。環境汚染の影響を受けやすいのもデメリットです。

養殖魚

養殖魚の良いところは安定性です。人工的にコントロールされて育てられているので、価格だけでなく、大きさや味も安定しています。うなぎや牡蠣(かき)が有名ですね。

一方で養殖には、膨大なエサ代や管理の手間がかかります。技術的には養殖できても、採算が合わないために養殖されていない魚もたくさんあります。

ポイント[5]SDGsとの関係

国連が掲げるSDGs(持続可能な開発計画)には、海についての目標が掲げられていることは知っていますか? 14番目の目標「海の豊かさを守ろう」ですね。

■「海の豊かさを守ろう」のゴール(最終目標)

  • 海の資源を守る
  • 海の資源を持続可能な方法で利用する

海の資源には、私たちが食べている水産物も含まれます。具体的なゴールとして「海の資源を持続可能な方法で利用する」などの目標も掲げられているんですね。

栽培漁業基本方針
水産庁発表の「栽培漁業基本方針」には、豊かな海づくりへの貢献や、生物多様性の保全への配慮が明記されています。つまり国としては「漁獲量をただ単に増やせば良い」とは考えていないということ。注意点として押さえておきましょう。

3つの知識

栽培漁業のポイントは理解できましたか? 5つのポイントを押さえれば中学入試にもある程度対応できますが、より詳しく知りたい子のために栽培漁業に関する知識を3つ紹介します!

  1. 栽培漁業で獲れた魚は”天然魚”
  2. 漁獲量グラフ
  3. 貝の養殖

1、栽培漁業で獲れた魚は“天然魚”

養殖で育てられた魚の場合、スーパーなどで販売するときは「養殖」と表示するように義務づけられています。では、栽培漁業で獲れた魚はどう表記すれば良いのでしょうか?

 

答えは「天然魚」。

その理由は、栽培漁業で生育されていた魚か、はじめから海で育った魚かどうか見分けられないからです。自然界で成長しているので、味も天然魚と変わりません。

水産物の表記
水産物を販売する際は、次の表記が必要です。

  • 名称
  • 原産地
  • 養殖であれば「養殖」の表記
  • 冷凍して解凍したものであれば「解凍」の表記

これらはJAS法(日本農林規格等に関する法律)に記されています。

2、漁獲量グラフ

中学入試の漁業分野で頻出なのが、漁獲量のグラフ。遠洋漁業、沖合漁業、沿岸漁業、養殖漁業の「漁獲量の推移」がよく出題されています。

 

遠洋漁業と沖合漁業 ―― 漁獲量がピークの年代を押さえる

遠洋漁業と沖合漁業は、漁獲量がピークとなる年代を押さえておきましょう。遠洋漁業は1970年頃がピーク沖合漁業は1990年頃がピークです。

沿岸漁業と養殖漁業 ―― 漁獲量の微減・微増を押さえる

沿岸漁業と養殖漁業は、漁獲量が微減傾向にあるか、または微増傾向にあるかを押さえておきましょう。沿岸漁業は戦後の200万トンの漁獲量からはジリジリと減っている一方で、養殖漁業は戦後の20万トンに比べると少しずつ増えています

3、貝の養殖

中学入試で特に出題されやすいのが貝類の養殖です。特に「真珠・ほたて・かき」の3つは頻出なのでしっかり押さえておきましょう!

養殖漁業は、波が静かで養殖がしやすい湾岸や、リアス海岸でおこなわれています。

まとめ

栽培漁業と養殖漁業は両方とも人の手で魚を育てる漁業なので、ちょっと混乱してしまいますよね。ただし、人の手で「飼育される期間」に注目するとその違いをすっきりと理解できます。

養殖漁業:卵から成魚までずっと人の手で飼育する
栽培漁業:稚魚になるまで(海などで生き残れる大きさになるまで)人の手で飼育する

栽培漁業がおこなわれる理由や、SDGsとの関係など、今回紹介したそのほかのポイントもしっかりと復習しておきましょう!

※記事の内容は執筆時点のものです

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