中学受験ノウハウ 連載 親子のための、「探究」する中学受験

科目対策より大事? 中学受験に「教養と哲学」は必要か【後編】|親子のための、「探究」する中学受験

専門家・プロ

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変化の激しい時代でも活躍できる人材を育成するために始まっている教育改革。「思考力・判断力・表現力」が重要だとする方針で注目が集まっているのが「探究型学習」や「アクティブラーニング」です。とはいえ中学受験にはどんな影響があり、どう対応していけばよいのか、不安や疑問を感じる方も多いのではないでしょうか。この連載では、「探究×受験」を25年以上実践している知窓学舎の塾長矢萩邦彦先生に、次代をみすえた中学受験への臨み方についてうかがいます。

「あらゆる学習に例外なく『教養と哲学』が必須」と語る、塾長矢萩邦彦先生。その重要性と、中学受験とのつながりについて聞きます。【前編】では「教養」の役割をお伝えしました。【後編】では「哲学」についてお伝えしていきます。

「哲学」の役割

「哲学」と言われると、「難しそうな話をされそう……」と思う方も多いでしょう。でも、ここで言う「哲学」とは、かみ砕いて言うと「心のモヤモヤに気づいて、向き合うこと」です。

誰しもが生きていく中で、疑問を持ったり不安になったり、悩んだりしますよね。しかも、そういう気持ちに立ち向かっていくには、心身ともに相当なパワーが必要です。パワーを使うと疲れますから、つい楽なほうに進みたくなることもあるでしょう。それ自体は脳が進化の過程で獲得した最適化の能力の1つなので否定はしませんが、不安になったり悩んだりしている自分を感じたら、その葛藤を「成長のチャンス」と捉えることで、ポジティブに転じていくことができます。

疑問・不安・悩みを抱える場合、その多くは情報や経験値の不足に起因しています。であれば、本を読んだり、調べてみたり、人に訊いたり、話し合ったり、自ら試してみたりする。そうすることで、情報と経験値を獲得すれば、解決につながる可能性が高い。手がかりをみつけたら、自分で考え、自分なりの答えにたどり着くこともできます。

もちろん、このやり方に「絶対的な正解」はありませんし、そもそも模範解答は必要ありません。

わからないことを「自分なりに明らかにする」。それが「哲学」です。

「自らの人生に直結する考え方」という意味での「哲学」ですね。

受験期は心のモヤモヤが生まれやすいですが、そんなときも「成長のチャンス」なんです。

「自分はいったい何にモヤモヤしているのか」
「どんなことに違和感を抱いているのか」

親子共に目先の偏差値やテストの点数に目が行って、スルーしそうになりますが、そもそもこういった、「心の志向」に気づき、探究できることが大きなチャンスなのです。

「どんなことに納得できて、何に違和感があるか」。こういったことを考えていくと、自分の中にある価値観や優先順位が見えてきます。

それこそが「自分軸」ができてくるということです。

こうやって自分なりに探究し、納得解にたどり着くことが、私がすべての受験生に経験して欲しい「哲学」です。

「受験に臨むときに重要なのは、本人の主体性と成長実感だ」と【前編】で述べました。哲学マインドを身につけておくと、受験だけでなく、人生のあらゆる場面で、自分軸を持って主体的に選択していくことができそうだと思いませんか。

「心のモヤモヤ」に、もっと前向きになろう

哲学とは「心のモヤモヤに向き合うこと」だとお伝えしました。

私は、こうした哲学を受験生本人だけでなく、周囲の大人も持つことが大切だと考えています。

多くの人はモヤモヤを感じると、ネガティブな気持ちになります。

「ストレスだなあ……」
「やだなあ……」
「考えたくないな……」

という方向に行ってしまいそうになる。

そこでまずは、モヤモヤをもっと前向きに捉えるように意識してみましょう。モヤモヤしているということは、「成長できるポイントだ!」「探究のチャンスだ!」ということをまず頭で理解する。

そして、モヤモヤを分析してみることです。

たとえば「子どもが塾に行きたくないと言い出した」としましょう。

嫌な理由は何なのか。

授業なのか。
先生なのか。
友達なのか。
行き帰りの移動なのか。
特定の教科や分野なのか。

などなど、細かく観ていけば、その子の「これはいいけど、ココが嫌!」というポイントがいくつか見えてくると思います。

そのポイントについて、

「これが楽しいなら、こんなテーマも好きなんじゃない?」
「これが嫌なら、こういうやり方にしたらどうだろう?」

など、子どもの志向を一つひとつ、一緒に確認していくのもいいでしょう。

こうやってモヤモヤを分析するほうが、「ただ嫌だ!」という漠然とした感情に苛まれずにすみますし、子ども自身が自分のこと客観的に理解する助けになるのではないでしょうか。

「教養と哲学」を味方にしよう

前後編を通して、私が考える「教養と哲学」の大切さをお伝えしてきました。

とはいえ教養を広げるアプローチをしたり、哲学マインドを働かせたりするのは楽なことではありません。心に余裕がないとなかなか難しいでしょう。

でも、子育てに楽を求めてもいいことはないのではないでしょうか。

たしかに物理的に時間をかけるのは難しい状況のご家庭もあるかと思いますが、考えることや気にかけることはできるはずです。情熱を傾けずに、子どもが勝手によい方へ育っていくことはないように思います。

保護者には、ちょっと踏ん張りが必要だとしても、その踏ん張りから「得られる学び」や「子どもの変化から感じる充足感」を手にすることを、自ら選ぶ姿を見せて欲しいと思います。

そういった姿勢を見せることは、子どもにとって、受験だけでなく、自立し納得して人生を送っていく指針になるはずです。

受験シーンは、保護者も子どもも心に余裕がなくなりがちですが、だとすればそういう前提を認識したうえで、「受験を子どもにとって価値ある学習体験にするために、日々のアクションを保護者も変えていく」という覚悟を持っていきたいものです。


これまでの記事はこちら『親子のための、「探究」する中学受験

※記事の内容は執筆時点のものです

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矢萩邦彦
矢萩邦彦 専門家・プロ

教育・アート・ジャーナリズムの現場でパラレルキャリア×プレイングマネージャとしてのキャリアを積み、1つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究するアルスコンビネーター。2万人を超える直接指導経験を活かし「すべての学習に教養と哲学を」をコンセプトに「探究×受験」を実践する統合型学習塾『知窓学舎』を運営、「現場で授業を担当し続けること」をモットーに学校・民間を問わず多様な現場で授業・講演・研修・監修顧問などを展開している。代表取締役を務める株式会社スタディオアフタモードではメディア事業に従事、主宰する教養の未来研究所では、企業や学校と連携し、これからの時代を豊かに生きるための「リベラルアーツ」と「日常と非日常の再編集」をテーマに住まい・学校職場環境・サードプレイス・旅のトータルデザインに取り組んでいる。近編著書『新装改訂版 中学受験を考えたときに読む本』(二見書房)『子どもが「学びたくなる」育て方』(ダイヤモンド社)。メディア出演はフジテレビ『めざましテレビ』TBS『サンデージャポン』他多数。

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