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どうせなら中学受験につながる習い事をさせたい……何がいいの?|低学年のための中学受験レッスン#6

専門家・プロ
2023年1月23日 宮本毅

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いざ中学受験をはじめるにあたって、多くの家庭で悩みの種となるのが「習い事問題」です。

入塾相談に行くと、塾の先生から「志望校に合格するためには習い事はやめて塾一本にしてください」と言われてしまうケースは非常に多いです。

また、習い事の日程と塾の授業日が被ってしまうこともしばしば。

そうやって悩まされるくらいなら、将来的に中学受験をすることを考えているご家庭の場合、習い事はさせない方がいいのでしょうか。

中学受験と習い事は「水と油」なのでしょうか。

そんなことはありません。

低学年のうちに通っておけば、後の中学受験につながるような習い事も多いです。

ただし、中学受験とは相性がいいとはいえない習い事もあります。

今回は「中学受験と習い事問題」に鋭く切り込んでいくことにします。

なぜ中学受験塾は習い事をやめてほしがるのか

 中学受験を始める際(多くは3~4年生)、塾では「習い事はできれば減らす方向で」と言われてしまうことが少なくありません。それはなぜなのでしょう?

単純に「中学受験に必要な勉強時間を確保するため」と説明されることが多いようですが、塾側のホンネとしては「できる限り通塾時間を増やして、オプション講座などを取ってほしい」という思惑もありそうですよね。

では、「塾と習い事、両方に通う時間さえ確保できれば、両立は可能なのか?」というと、それも一概に大丈夫とは言いきれない事情があります。

中学受験をする場合、多くの受験生は算数・国語・理科・社会の4科目を学習していきます。週三回、たとえば火・木・土に通塾する場合、残りの水・金・日(または月曜)で塾の宿題をこなすことになります。宿題の多い塾では、1科目に2時間近くかかるような量が出されることも。こうなると、家庭学習日である水・金・日(月)も、勉強時間に充てる必要が出てきます。こういった塾では、物理的に習い事を入れていくのは難しそうです。

塾の側にも言い分があります。

昨今、中学受験は過熱の一途をたどり、かつては中堅校や滑り止め校として知られていた学校の難度は軒並み上昇。今や、どこの私立中学といえども「確実に合格できる」とは言い難くなってしまいました。

また、昔の中学受験では出てこなかったような細かな知識や難しい問題も、最近は普通に出題されます。さらに、最近はやりの「思考力系問題」のおかげ(せい)で、子どもたちの学習は、量的に広がっただけでなく、質的にもかなり深くまで学習しなければならなくなりました。

塾からすると、学習時間を充分にとれなければ、中学受験には太刀打ちできなくなってしまったと考えているわけなのです。

中学受験と親和性の高い習い事ってないの?

では、中学受験を志すなら、習い事は全部あきらめるべきなのでしょうか。

私は、習い事の種類と付き合い方によっては、中学受験と両立できる可能性も充分存在すると考えます。

また、結果的に中学受験に本格的に向き合う3~4年生以降のどこかでやめることになるとしても、低学年のうちに通っておけば、将来の中学受験に役立つ習い事も多くあります。

この章では、中学受験と親和性の高い習い事を紹介していきますね。

1.好奇心をはぐくむ「頭脳系」習い事で注意すること

まず挙げられるのが「頭脳系」の習い事。低学年のうちに通っておけば、将来の中学受験に役立つ可能性はかなり高いです。

たとえば「パズル教室」や「そろばん教室」などは算数の学習に直結します。「公文式」なども計算力向上におススメです。実は、「おえかき教室」なんかも算数につながったりします。線が引ける・図が書けることは、算数が得意になる条件のひとつですからね。

また、「読書教室」「作文教室」といった習い事は、国語力を育てるのにはかなり効果的です。とくに最近の小学校ではじっくりと教科書を読むことが少なくなり、読書に時間を割かないご家庭も多くなっていますので、今の子どもたちの国語力・日本語力は危機的状況にあります。「読書教室」や「作文教室」で補完しておくと、将来、中学受験の難しい課題文にも対応できるようになるでしょう。

「理科実験教室」や「歴史教室」など、いわゆる「探究系」の習い事も、将来の中学受験の学習につながる習い事といえます。「楽しく授業をおこなう」ことで子どもたちの好奇心を引き出すのに役立ちます。

ただし、こうした習い事は逆に「楽しすぎる」ことに、少し注意が必要です。いざ、中学受験の塾の授業が始まると「お勉強ばかりでつまらない」と、子どもに感じさせてしまうことがあるのです。

諸刃の剣といった感じですね。お子さんの様子を見ながら、上手に活用できると良いでしょう。

2.軽い「運動系」習い事には脳の活性化も期待できる

続いて「運動系」習い事について考えたいと思います。

低学年、あるいはもっと前から、スイミングや体操教室など、運動系の習い事に通わせるご家庭は多いと思います。身体を動かすことで体力もつき、メンタルの成長も見込めるため、将来の中学受験にとっても、メリットは多いです。

では、これらの「運動系」の習い事は、通塾をスタートするタイミングでやめるべきなのでしょうか?

実はさまざまな研究により、運動と学習効果については連関性が認められています。

ハーバード大学医学大学院准教授のジョン・J・レイティ氏によると、軽い運動をすることで脳の神経細胞内部でBDNFというタンパク質の分泌がさかんになり、脳の神経細胞や血管の形成が促進されるそうです。このことからBDNFは「脳由来神経栄養因子」とも、「脳の栄養」とも呼ばれます。運動はこの「脳の栄養」を増やしてくれるといわれています[*1]。

したがって、中学受験が始まってからでも、運動系の習い事を続けることには、メリットもあるわけです。

ただし、学習効果があるのは、あくまでも「軽い運動」についてです。2時間も3時間も走り回った後では、さすがに肉体的な疲労が大きく、かえって集中力や思考力に支障をきたす恐れも。この点は、勘違いしないようにしたいですね。

また、チームスポーツについても注意が必要です。

中学受験も高学年になってくると、塾の授業が土日に入ったり、模試が日曜日にあったりすることも珍しくありません。もし同じ日に試合などが入ってしまうと、塾を休むかどうか天秤にかける必要があります。チームメイトへの配慮など、子どもは余計なストレスを抱え込むことになりそうですよね。それに、中学受験塾の授業は学校の授業と違い、たった一回のお休みが成績やその後の学習に大きな影響を与えてしまうことも少なくありません。

そこで、中学受験と両立させたい場合、私のオススメは、チーム競技でなく、負荷も大きくなく、練習日の融通が利くスポーツ。たとえば、テニスやバドミントン、卓球といったスポーツは、受験と非常に相性が良いでしょう。とくにテニスは、他の曜日に振替可能なスクールが多いので、突然休まなければならなくなったときでも安心です。その上、保護者も一緒にスクールに通えば、適度にストレス発散となり一石二鳥ですね。

3.「音楽系」はうまく選べば受験のストレスマネジメントに役立つ

 では「音楽系」習い事はどうでしょう。こちらはおおむね、受験勉強と親和性が高いようです。

音楽は記憶をつかさどる大脳辺縁系や思考に関係する大脳皮質などに作用することが知られています。また音楽を聴くと強力な快楽物質であるドーパミンが分泌され、リラクゼーション効果を得られるため、ストレス解消に非常に役立ちます。

楽器の演奏は広い土地も必要なく、仲間も不要ですので、いつでも家の中で一人で楽しめるという点もメリットです。ちょっと算数の問題に行き詰まったとき、ちょっと社会の暗記に疲れたとき。気分転換に楽器を奏でることで、イライラがすうーっと消え去り、再び勉強に向かえそうです。「音楽系」習い事は、基本的には受験勉強と相性がよいとお考え下さい。

しかし、こちらも注意は必要です。ピアノにせよバイオリンにせよ、ぐんぐん上達すると、コンクールや代表選考などと無縁でいることは難しくなります。熱心な指導者から、練習時間を増やすことを提案される場合も多いでしょう。こうなってくると、中学受験の観点からは、少々考え物です。中学受験をとるか、習い事をとるか、選んだほうがいいケースといえるでしょう。

まとめ

どの習い事も、距離感を適度に保てば、受験勉強との両立は決して不可能ではありません。

また、同じ系統の習い事を積み上げるのではなく、「そろばん・テニス・ハンドベル」などのように、3つの系統からバランスよく選んで、たくさん詰め込みすぎないのも重要です。

ぜひご検討してみてくださいね。

 

参考文献

[*1]『脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方』(ジョン J. レイティ, エリック ヘイガーマン, NHK出版)

 

※記事の内容は執筆時点のものです

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