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計算力を身につけるにはどうしたらいいの?|低学年のための中学受験レッスン#5

専門家・プロ
2023年1月09日 宮本毅

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私立中学の入試問題を見てみると、「算数」の最初に出てくる計算問題でも、小学校のお勉強では絶対に出てこないような「超絶」複雑な問題が出題されています。

中学受験を経験したことのないご家庭であれば、初めて見たときはびっくりするかもしれません。

「こんな問題、私でも解けないかも」「うちの子、こんな計算できるようになるのかしら」

そんな不安を抱く親御さんも決して少なくない筈です。

今回は「計算力を身につけるにはどうしたらいいの?」というテーマを軸に、小学校低学年のうちにやっておくべきことなどについてお話していきたいと思います。

中学受験における計算問題ってどんなもの?

まずは、実際の中学受験で出題される計算問題を見てみましょう。

超難関校というわけでなくても、これくらいの出題はされるもの。

中学受験生は、これらを速く、正確に、解く必要があります。

● 東京農大一中[*1]

● 吉祥女子中[*2]

複雑な計算問題を解けるようになるための第一歩

実際の入試問題をご覧いただくと、

「こんな問題、うちの子解けるようになるのかしら」

「計算問題からこんなに難しいんじゃ、とてもじゃないけど中学受験なんて無理ね」

なんて思ってしまう親御さんもいらっしゃることでしょう。

でも、ご安心ください!

一般的に、算数が苦手な生徒であっても、毎日計算練習をしていると、最終的にはこのくらいの計算はできるようになっていきます。

ですから、低学年のうちからあきらめる必要は、まったくありません。

まずは毎日の計算練習を習慣に

ただし、そのためにはやっぱり、似たような計算問題を繰り返し解く、といった訓練が必要になってきます。

また、その訓練も、2年とか3年といった長期間続けなければなりません。

まずは毎日、計算練習をする習慣を身につけましょう。

私のおススメは「朝勉」ですね。

学校へ行く前に5分だけ、公文式の計算ドリルとか、学校で頒布されているような基本的なもので構いませんので、毎日、計算問題を解かせるとよいでしょう。

短い時間でもいいから毎日やる。これが習慣になったら、少しずつ時間を延ばしていく、というのがいいと思います。

分数の考え方に馴染みをもたせておく

計算力をアップさせるうえで重要なことは「分数の活用」です。分数の仕組みを理解し、割り算は全部、分数にして計算させると、素早く正確に計算することが可能です。

そのために、本格的に分数を学ぶより前から、分数の考え方の基礎を暮らしのなかで体感させていくことがとても効果的なんです。

たとえば、お誕生日ケーキを家族で切り分ける際などに、「4人で分けけると1人分って何分のいくつになるかな?」とか「それを三人分集めると何分のいくつ?」などと会話をすることで、分数の概念をお子さんに理解させておきましょう。

そうした基礎の理解が、将来、本格的に分数の計算方法を習ったときに必ず役立ちます。

よく出る分数・小数は頭に入れてしまう

また、分数・小数を学びはじめたら、よく出てくる分数と小数については、すぐに相互換算ができるように、暗記してしまうとよいでしょう。

1/2=0.5や1/10=0.1は当然のこととして、1/4=0.25とその倍数、1/5=0.2とその倍数、1/8=0.125とその倍数を頭に入れておくと、計算問題には相当強くなれます。

たとえば上の「実際の入試問題」では、0.125や1.375がパっと目に入ると思います。これをいちいち125/1000などとやって約分していくのでは、時間がかかってしまいます。0.125は1/8だと知っていること、1.375は11/8だとすぐにわかることで、速度や正確さが格段に変わってきます。

とはいえ、これは、分数・小数の計算の基本ができてからの話。小学校に入ったばかりのお子さんにとっては、「今、言われても……」と感じられるかもしれません。

中学受験をする可能性を踏まえて、目指す目標のひとつとして考えてください。

スピードと正確性の両方を身に着けるために

受験指導を毎年おこなう中で、必ずと言っていいほど受ける質問に

「うちの子、計算が遅いうえにケアレスミスも多いのです。どうしたらよいでしょう」

というものがあります。

この連載の読者の皆さんの中に受験生の保護者の方がいないこと祈りつつ、ハッキリと言わせていただきますが、6年生にもなってまだそんなことを言っているようでは、志望校合格はなかなか厳しいと言わざるを得ません。

受験というものはどんなにきれいごとを並べ立てても、結局は「点数勝負」であり、「スピード勝負」です。素早く、正確に解けるように鍛えておかなくてはいけません。どちらかだけではだめなのです。

暗算できる範囲を広げる

スピードも正確さも、低学年から鍛えていけば、どちらも身につけることが可能です。

では、具体的に何をやればよいのでしょう。

先ほどおすすめした毎日の計算練習ですが、ごく基本的なレベルから始めても、1年、2年ときちんと続けていけば、それなりのレベルまでは進んでいくはずです。

そこで目標として、「二けた+二けた」「三けた-二けた」「二けた×一けた」「三けた÷一けた」くらいの計算は、筆算を使わずに、暗算で計算できるレベルを目指してください。

3年生、4年生になって、そろそろ受験のために塾に入ろうかというときに、これができていれば、大きなアドバンテージになるでしょう。

日常のなかで暗算力を鍛える

暗算力は、日常生活の中でも鍛えることができます。

子どもといっしょに買い物に行ったら、お釣りの計算や袋入り野菜のひとつあたりの価格の計算などを、ぜひお子さんに計算させてみてください。親と競争させるのもよいでしょう。

大人が当たり前のような顔で暗算していれば、子どももそれが当たり前だと思って、そのうちママやパパより早く計算してやろう、と考えるようになります。

また「100までの補数」は、パっと言えるようにしていきましょう。「補数」というのは足して100になる相方の数のことです。

たとえば「78に足して100になる数は?」「22」という感じで即答できるようにしておくと、計算スピードは格段に上がります。

親子でクイズを出しあうように、楽しんで訓練できると最高です。

ケアレスミスを減らすコツ

暗算の訓練は、ケアレスミス防止にも役立ちます。

子どもたちのケアレスミスは、案外、筆算をしているときに起りやすいものです。実は「二けた-一けた」「二けた÷一けた」といった本当に簡単なところで、間違えてしまっているのです。

暗算を鍛えておくと、ケアレスミスが起きやすい筆算の回数そのものを減らすことができます。また、筆算をしながらでも、ざっくりとした答は何となく頭に浮かんでくるようになりますので、筆算のケタがずれてしまって全然違う数字が出てきた、なんてときに気づきやすくなります。

四則演算のルールを確認する

それから「四則演算」のルールについてもきちんと確認しておく必要があります。

実は、四則演算については、小学校高学年でもルールがあいまいなままの生徒がいます。

また非常にミスを誘導しやすいタイプの問題も存在します。たとえば次の計算問題を解いてみてください。

    47+23-12+18

どうでしょう? 「40」という答が出てきましたでしょうか? その方々は、ありがとうございます。見事にはまっていただいて(にっこり)。

正しい答えは「76」ですね。

このように四則演算というのは、わかっているようで案外落とし穴があるものなのです。

ケアレスミスがなかなかなくならないお子さんは、どこかで四則演算を勘違いしている可能性があるものです。

四則演算のルールは、小学校でもちゃんと習うはずなのです。

中学受験を目指していると、なかには、小学校レベルの勉強なんて「この子は心配ない」と思っておいでの方もいるかもしれませんが、過信するのではなく、たまに知識が定着しているかをチェックしていただくとよいかもしれません。

苦手な子の多い単位換算はなぜ難しい?

では、今度は次の計算問題はどうでしょう?

こたえは「0.9」となりますが、解けましたでしょうか。

これは実践女子学園中学の実際の入試問題です[*3]。中学受験の計算問題では、このように、計算力とセットで単位換算の知識が問われるケースも多いです。

実はこの「単位換算」、多くの小学生が苦手にしたまま、小学校を卒業していきます。中学受験生であっても例外ではありません。

しかも、何度も教えるのになかなか苦手を克服できない生徒も少なからず存在します。塾でも小4のときに指導を受ける程度で、その後はとくに授業で扱われることはなく、苦手なまま放置されるというケースも多いです。

いっぽうで、単位換算をまったく苦にしない子というのもいて、そういう子は、やはり学校や塾で学ぶ前に、単位というものに触れていることが多いのです。

中学受験を意識しているご家庭ですと、低学年ですでに、四則演算ならわりと得意、というレベルにある場合もあるでしょう。その場合はぜひ、単位換算まで得意にすることを目指してください。

単位を体系だてて教わる機会がない

小学生にとって、単位換算がなぜ難しいのかというと、学校のカリキュラムでは「長さ」「広さ」「重さ」「量」がそれぞれ別々に出てくるからです。それらの間にある関連性を誰かが教えてあげないと、子どもたちはそれぞれ別に丸暗記に頼るしかありません。

また「長さ」に関しては、実社会の中でほとんど使われることのない「cm」という単位を習うため(たとえば部屋の寸法などはmmを使用する)、それも混乱の原因となっています。

もし「cm」の単位がなければ、「長さ」「重さ」「量」のみっつの単元は、以下のようにスッキリまとめることができます。

1k(キロ)m=1000m、1m=1000m(ミリ)m

1k(キロ)g=1000g、1g=1000m(ミリ)g

1k(キロ)L=1000L、1L=1000m(ミリ)L

どうでしょうか。これくらいスッキリしていると、低学年の子どもの頭にも入りそうな気がしてきませんか?

これに加えて、「1kL=1㎥(立法メートル)、1mL=1㎤(立法センチメートル)」を覚えれば、「長さ」「重さ」「量」はもう、カンペキです。ついでに電流の単位である「1kA(アンペア)=1000A、1A=1000mA」も流れで覚えることができれば、一石二鳥でしょう。

ここでいちばん大事なのは、キロは1000倍、ミリは0.001倍という単位換算の共通ルールです。ここがわかると、「単位なんて楽勝! 長さも重さも量も電気も、みんな同じだし」というイメージをもつことができます。電流とは何か、なんてことをきちんと理解するのは、後からでも構わないわけです。

「広さ」の単位は図を描いて覚えよう

残りは「広さ」ですが、これは正方形を書いて覚えると、わりと簡単に頭に入ると思います。すなわちこんな感じですね。

図を書いて覚えると、「イメージ法」「指先運動」「意味記憶」という三つの効果により、一層頭に入りやすいのです。

ここで、まじめな親御さんは、「待って、四角形の面積は縦×横でしょ? うちの子はまだ掛け算もこれからなのに……」と、ものすごく大変なイメージをもってしまうかもしれません。

でも、ここでは四角形の面積だなんてことまで理解させる必要はないんです。まずは両手を広げながら、次に図を書きながら

「1mはこれくらい。

 1mが1000集まったのが1km。

 1mと1mに囲まれた四角の広さは1㎡(平方メートル)。

 1kmと1kmに囲まれた四角の広さは㎢(平方キロメートル)」

と、流れで一気にインプットしてしまいましょう。書いた図は、トイレの壁にでも貼っておくのはどうですか。

「あれって、掛け算だったんだ」と、あとから理解するのでも、ぜんぜん構わないのです。

単位の暗記と低学年の相性について

誤解を避けるために、私は、なんでもかんでも低学年のうちから先取り学習させることには反対しています。子どもの理解度は発達の段階によって変わるからです。

とくに抽象的な内容については、低学年のときに苦労して何時間もかけて理解させるよりも、ある程度学年が進んで脳が発達してから教えるほうが、無理なく頭に入っていきます。私の塾では、理科と社会は、5年生からのスタートです。

ただ、単位のように、丸暗記でもそれなりに意味があるものは、低学年のうちにインプットするメリットも大きいです。

単に「覚える」という能力については、低学年の子どもが高学年になったから身に着くというものではありませんから。むしろ、小さい子のほうが、丸暗記は得意だったりもしますよね。

よく、小6から塾に入ったのに、あっさり全員を抜き去って、難関中に合格する子っているじゃないですか。

そういう子って、多くの場合、塾に入る前の知識量が半端ないんですよ。もちろん単位で間違えることもないですし、歴史の細かい知識や、元祖記号まで、めちゃくちゃ頭に入っている。みんな、8~9歳くらいで覚えちゃってるわけです。

もちろん、そういう子は生まれつき覚えることが得意だったりもして、誰もがそのレベルを目指すべきとは思いません。

でも、単位換算くらいだったら、上で説明したように、ちゃんと整理すれば覚えるべきことはほんの少しです。ほとんどの場合、低学年の子に覚えさせようとすれば、覚えてしまうレベルだと思います。チャレンジする価値はある。

それに、中学受験の勉強が本格的に始まると、(一部を除くほとんどの子どもにとっては)覚えなければならないことは山ほど出てきます。社会なんかは、忘れては覚える、忘れてはまた覚える、の繰り返しです。

だから、単位換算のような、覚える量が少なく、基礎的な計算問題から応用問題まで、幅広く必要になってくる知識については、低学年のうちに暗記してしまうメリットは大きい。こんな風に考えています。

まとめ

計算力はどうしても軽視されがちなものですが、高度な思考をよどみなくおこなうためにも、計算力は必要です。応用問題が解けるレベルの思考力があっても、計算力がないと途中で思考にブレーキがかかってしまいます。

将来たとえ中学受験をしない選択をしたとしても、計算力は学力の「大きな貯金」となりますので、今のうちからコツコツ高めていきましょう!

※記事の内容は執筆時点のものです

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