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中学受験ノウハウ

【大学「合格」実績】と【大学「進学」実績】から読み解く、中高一貫校の魅力~その学校で真ん中の成績だとどういう大学に行ける?~|データで見る中学受験 #7

専門家・プロ
2023年11月17日 佐藤潤平

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連載「データで見る中学受験」は、中高の教育データ解析・分析のスペシャリスト佐藤潤平さんが、客観的なデータをもとに、なるべく中学受験を客観的に読み解こうとする試みです。今回は大学「合格」実績と大学「進学」実績を見比べながら、データの読み方を解説していきます。

これまで6回にわたって、各校の【中学受験者数】と【大学合格実績数】のデータを用いながら、一都三県の中高一貫校の魅力を考察してきました。

数字やデータを組み合わせることで、いつもとは異なる視点から学校を分析できたのではないでしょうか?

志望校のことがさらに好きになったり、魅力的な学校が新たに見つかったり。本連載をそんな風に活用していただけると嬉しく思います。

さて、今回は補足として、多くの保護者が勘違いしやすい【大学「合格」実績】と【大学「進学」実績】について、グラフを用いて詳しくお伝えしていきます。

このふたつの違い、データを見るときにどこに注目すればいいかをご説明しつつ、首都圏の主な中高一貫校の3年間の数値をグラフ化してご紹介します。

 

大学「合格」実績と、大学「進学」実績の違い

一般的に大学「合格」実績とは、大学(学部)に合格した数をそのままカウントします。

そのため1名の卒業生が国立大学A+私立大学B+私立大学C経済学部+私立大学C商学部+私立大学C経営学部と5の大学(学部)に合格した場合、5とカウントされます。つまり、単に合格者数と書かれている場合は、多くの場合「のべ合格者数」のことを指します。なお、1名の生徒が1大学3学部に合格した場合でも1とカウントすることを「実合格者数」と呼びます。

一方、大学「進学」実績は、合格した大学の中でどの大学に進学したかを集計したデータを指します。1生徒あたり1とカウントします。

学校がWEBサイト等で公表している「大学合格者数」が何を指すかは、学校の方針により異なります。多くの場合は、最も実績が大きく見える「のべ合格者数」を採用していますが、系列大学に進む生徒が多い学校や進学実績に自信のある学校は、「進学者数」を記載している場合があります。

「大学合格者数」の数字が何を指しているのかは、しっかり確認しておきましょう。

実際に「合格者数」「進学実績」の例を見てみよう

中学受験と同様、大学受験でも、生徒一人が複数の大学を受験し複数の合格を得ているケースがほとんどです。

以下の2つのケースは比較的よくみられるパターンになりますが、最終的な進学先の選択基準は個人により異なります。必ずしも偏差値が高いからその大学に行くのではなく、自分の行きたい学部・学科や各家庭の経済状況、通いやすさなど複数の要因で決められます。そのため国公立大に合格したとしても、私立大を選択する人は少なからずいます。

余談になりますが、原則的に国立大学は前期日程と後期日程、公立大学はこれに中期日程を加え、合計3つの大学・学部等に出願することができます。ただし、各日程で複数の学部に同時に出願することはできません。

もし前期で合格した場合でも、入学手続きをしなければ、後期で別の国公立大学の合格者になることはできます。そのため、めったにない事例ですが、1人で国公立大の合格2を獲得する猛者も存在します。

次の表は、実際の事例をもとに、合格者数と進学者数のよくある分布を例にしたものです。

(例1)地域トップ校の大学合格者数・進学実績(学校の特徴:伝統的に国公立大学志向が強い)

大学名

合格者数

進学者数

合格-進学(進学率)※1

東京大

5

5

0(100%)

京都大

1

1

0(100%)

東京都立大

34

26

8(76.5%)

横浜国立大

26

22

4(84.6%)

早稲田大

96

51

45(53.1%)

慶應義塾大

26

13

13(50.0%)

明治大

177

32

145(18.1%)

青山学院大

90

14

76(15.6%)

※1)合格したものの進学しなかった人数

もちろんはっきりとしたことは言えませんが、この表から想像できることとしては、まず、東大・京大を受けている生徒は、早稲田大・慶応義塾大も併願している可能性が高いだろうということ。その分、早慶は私立トップであるにも関わらず、進学率が低くなったという可能性があります。

また、私学は学部を併願できるので、一人の生徒が同じ早稲田大・慶応義塾大のなかでも複数の学部に合格している可能性も高く、これも合格者に対する進学率を低くする要因のひとつです。この表のモデル校は、国公立大学への進学を志向する方向性の進路指導方針をとっており、都立大や横浜国立の進学率が比較的高いのは、こうした影響もあるでしょう。

このように、首都圏の中高一貫校における首都圏の国公立大合格実績については、進学率と大きく乖離することは比較的珍しいといえます。ご家庭の方針として、国公立大への進学を強く志望されている場合、持ち偏差値プラスマイナス3~5の範囲で、首都圏の国公立大への合格者割合の高い中高一貫校をピックアップされるといいでしょう。

一方、同じ国公立大でも、地方の国公立大に多く合格者を出しているケースでは、やや注意が必要です。

首都圏のご家庭で国公立大への進学を希望する理由のひとつに「学費が安い」という経済的理由がある場合、地方の国公立大に合格しても、ひとり暮らしさせる経済的負担を考えて、結局自宅から通える私大に進学するケースがよくあるからです。国公立大学の合格者数が多いのに進学率が低い場合は、こうした可能性も考えてみるといいでしょう。

(例2)中堅校の大学合格者数・進学実績(学校の特徴:難関有名大学への実績が急上昇中の学校。高校からのコース・クラスの進路指導目標が大学グループ別に設定されている)

大学名

合格者数

進学者数

合格-進学(進学率)※1

東京大

0

0

0

京都大

0

0

0

東京都立大

9

9

0(100%)

横浜国立大

1

1

0(100%)

早稲田大

16

7

9(43.8%)

慶應義塾大

7

4

3(57.1%)

明治大

35

14

21(40.0%)

青山学院大

30 18 12 (60.0%)

こちらは、大学グループ別にコースやクラスが分かれている某校をモデルとした表です。こうした進路指導方針の場合、教科数の関係で、国公立志望と私大志望の間で行き来をすることがなかなか難しいことが多いです。

また、東大京大といった国立トップ大への合格者がいないにも関わらず、私大トップの早慶での進学率がそれほど高くないのは、同大内での複数学部受験がかなり多いからと考えられます。

私大はこのように、合格者数と進学者数で差が出やすいので、合格者数だけでなく進学者数を確認できる場合は、ぜひ確認しておきたいですね。

その学校でどれくらいの成績をとっていれば、どういう大学に行けるのか?

合格者数ではなく進学者数を公表している中高一貫校は、全体の半数程度です。イコール、進路や教育内容に自信がある学校といえます。

このデータが分かれば、その学校でどの位置にいればどういった大学にいけそうなのか、おおよその目安にもなります。もちろん約束された結果ではありませんので、お子さま本人の努力や才能、ある程度は運も必要です。

ただ、お子さまの周りの環境は目標設定に大きな影響を与えます。入学した先輩たちがどのような環境でどのような目標を持って学習していたのか。学校見学に行った際の、学習面における校風理解にもつながります。

現役合格者数と現役進学者数をグラフ化

本稿では、2020-202年の現役合格者数と現役進学者数を、その年の卒業者数で除した割合をグラフ化しています。現役「合格」割合は、国公立(旧7帝大一工筑波・その他国公立合計)と私立(早慶上理ICU・GMARCH・成成明学獨国武・日東駒専)と2つのグラフに分け、現役「進学」割合は同じ大学グループを1つにまとめています。

「合格実績」なら、学校ごとの国公立と私立の傾向それぞれを確認できます。「進学実績」のグラフでは、たとえば、その学校で真ん中の成績を取っていた場合、上位30%以内の成績を取っていた場合に、どのような大学に進学できるのか(※2)という、ざっくばらんな目安になるかと思います。

※2)便宜的に難関校から順に進学したとの仮定を置いていますが、実際には難易度順に進学先を決める生徒ばかりではありません。あくまで目安であるとご留意ください。

グラフの読み方に関する注意事項

①大学附属校について

系列大以外の学校にどの程度合格し進学しているのか、が確認ポイントになります。

附属校で、系列大以外への進学割合が高い学校は、他大進学希望者向けのコース・クラスを設置している場合があります。これらのクラスのカリキュラムは、系列大学進学を前提としたコース・クラスと異なることが多く、系列大との高大接続を意識していない場合があります。系列大学に進学できると思っていたのにできなかった、などのミスマッチにつながることがありますので、説明会等で確認しておきましょう。

②特定の大学グループに偏りがある場合

 進学校の場合、その学校が力を入れている大学グループといえるでしょう。

③年によって変動がある時どう読み取るか

 例えば早慶上理ICU・GMARCHの合格者数が減っているけれど国公立が増えている場合は、進路指導の方針が変化して、国公立大重視になっている可能性があります。また当該卒業生が入学したときもしくは高校に上がったタイミングで、コース編成やカリキュラムが変わりそれが影響した可能性や、入学時の実倍率が高くなり受験層が変化していた可能性もあります。

④今後グラフの形が動くかもしれない情報は何か

大きく変化する可能性があるのは高大連携になります。直近では、上智大や国際基督教大(ICU)が同じ宗教系の中高と積極的に提携を進めています。提携した全ての学校に推薦枠を設けているわけではありませんが、こういった動きがあった場合、今後グラフの形に変化が生まれる可能性が高くなると考えられます。

※グラフの画像はかなり細かいため、クリックしてフルサイズ表記でご覧になることをお勧めします。

【埼玉県の中高一貫校】

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佐藤潤平

佐藤潤平

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(株)Levier(ルヴィエ) 
カルチャースクール紹介誌、大手新聞、ラジオ番組、進学情報誌等の企画・編集・制作を経て、中高の教育データの解析・分析、思考力・判断力等の評価方法の開発などを手がけている。また学校・塾のコンサルティング、受験に関する種々のリサーチやソフトウェアの制作などを行う森上教育研究所 高校進路研究会を主宰している。