中学受験ノウハウ 連載 今一度立ち止まって中学受験を考える

中学受験生は夏のお出かけを諦めるべきか、否か|今一度立ち止まって中学受験を考える

専門家・プロ
2024年7月11日 石渡真由美

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近年、中学受験でも体験にもとづいて考えさせるような出題が増え、「机上の勉強だけでなく、子どもに様々な体験をさせよ」という機運が高まっています。

私は、子どもにさまざまな実体験をさせること自体には大賛成です。しかし、夏休みのような長期休暇にはふだんできないような遠出や旅の予定を組もうとすると、塾の授業を休ませるべきか、という問題が発生します。

家族と過ごす時間は、もちろん大事です。しかし、塾の授業もそれと同じくらい大事であることを知っていただきたいと私は考えています。今回は、特に5・6年生の受験生がいる家庭の心構えについてお話したいと思います。

学校も塾も休ませることには慎重になるべき

「親の有給休暇が取れたので、来週家族旅行へ行って来ます。塾をお休みしますので、よろしくお願いします」

中学受験の指導にあたってきて、かれこれ30年以上が経ちますが、近年このような理由で塾の授業を簡単に休ませてしまうご家庭が増えているように感じます。背景にはそもそも小学校が休みやすくなったことがあるでしょう。私が子どもだった頃は、学校は行くのが当たり前でした。しかし、今は学校も多様な価値観を受け入れるようになり、「家庭の都合」といった理由で、簡単に休めるようになりました。「家族旅行に行くので、学校をお休みさせます」も、その中に含まれます。

こうしたことから、塾の授業も安易に休ませる家庭が増えているのかなと思います。学校と違って塾は、お金を払って通わせる場所です。そのため、塾に行く・行かないは、基本的に各家庭の判断に委ねられます。ですから、塾講師の私が「家族旅行に出かけるから塾をお休みする」ということ自体に反対することはできません。

でも、これだけは知っておいていただきたいのです。学校の授業と塾の授業とでは、一日で学習する内容のレベルがはるかに違う、したがって休んだときのダメージの大きさも比べ物にならない、ということを。

「後で復習すればなんとかなる」は大間違い

近ごろ、教育界では「体験」がブームになっています。机の上だけの勉強ではなく、“本物”に触れさせることが大事。「そのためには、子ども時代にたくさんの体験をさせてあげるべき」、そういう考えが広まっています。

こうした理由から、「家族で出かけることはとてもいいことだ」と特別視する風潮があるように感じます。確かに、体験は大事だし、家族と過ごす時間も大切です。そのこと自体を否定するつもりはありませんし、特に低学年のうちに体験活動を通して身に付けた「生きた知識」「豊かな感性」は、中学受験を目指すうえでも大きな武器となることは私も実感しているところです。

けれど、あなたのお子さんが中学受験を目指す5年生もしくは6年生だったら?「体験」と同じくらい塾の授業も大切であることを知っておいていただきたいのです。

多くの親御さんは、「塾の授業なんて1回休むくらいはたいしたことない。後で復習をしておけば何とかなるだろう」と思っています。小学校の授業を休むのと同じ程度に思っているのです。

誤解しないでいただきたいのは、小学校の授業を下に見ているというわけではありません。基礎固め中心とした小学校の授業はとても重要で、ここが盤石ではない状態で中学受験に挑戦することはできません。

ただ、小学校で学習する内容と、中学受験で学ぶ内容とでは、そのレベルが大きくかけ離れているというのは紛れもない事実です。小学校の授業で習うレベルであれば、1日休んでもリカバリーできますが、塾の授業になるとそうはいきません。特に5年生以降は、毎回の授業が入試に直結する重要単元の目白押しです。そのため、1回の休みが「大きな穴」になってしまうのです。

「家族一緒に旅行に行けるときなんて限られている。だから、今しかできないことを優先したい」とおっしゃる親御さんもいますが、塾の授業だって一期一会です。年間カリキュラムが決まっている中、同じ授業がもう一度行われることはありません。それだけ1回1回の授業が重要であることを、頭に入れておいていただきたいのです。

成績上位の子ほど塾の授業の大切さを実感している

特に休まないでいただきたいのは、算数です。算数は、積み上げ型の学習になるため、1つの単元が抜けてしまうと、それ以降の授業の理解度も下がってしまいます。

対して、理科は単元ごとの学習になるため、1つの単元が抜けても後でリカバリーできそうに思われがちです。しかし、中学受験で必要とされる理科の単元は膨大にあります。次から次へと新しい単元を学んでいく中、抜けてしまった単元を補う時間を果たしてとれるでしょうか。

そうやって、最後まで穴を残してしまうと、6年生になって総復習をするときに、その抜けた単元が足を引っ張ることが往々にしてあります。つまり、「家庭の都合」で塾の授業を休んで、困るのはお子さん自身なのです。

一方、近年、中学受験をする子どもたちが、受験勉強を優先したいために、運動会や修学旅行などの学校行事に参加しないことを問題視している学校もあります。こういうケースの場合、教育熱心な親が無理やり休ませているのだろうと思われがちですが、実は成績優秀な子どもが、自分から「塾の授業を休みたくない」と嫌がることもよくあります。なぜなら、成績上位の彼らは1回1回の塾の授業がいかに大切か、休むといかに大変かをよく分かっているからです。

ただし、学校行事は年間のスケジュールが前もって決められています。例えば修学旅行で塾の授業を休まなければいけない場合には、あらかじめ対策を取っておくなど、計画的に学習を進めておくこともできます。対策をとったうえで、できるだけ学校行事には参加して欲しいというのが私の考えです。

なんだか矛盾したことを言っているように思われそうですが、要は「親の有給休暇が取れたから」などといった【親の都合】で、突然、平日の塾の授業を休むことは、できれば避けていただきたいのです。

親の都合で子どもの受験勉強を振り回さない

もし、どうしても休ませたいのであれば、学期の最中ではなく、夏休み期間の講習中にしてください。なぜなら、講習期間中の塾は、それまで学習した単元の復習を行うことが多いため、まだ比較的リカバリーしやすいからです。一番やってはいけないのが、塾のカリキュラムが進行している平日の授業で休むことです。

子どもは家族旅行が大好きです。しかも平日、友達のみんなが学校や塾に行っている中、お休みするのは特別感もあります。そして実際、楽しく過ごすことでしょう。でも、旅行から帰って来て苦労するのは子どもです。

そして、その苦労は親御さんが考えている以上に、後々まで続きます。入試直前期になっても、いつまでも苦手な単元がある。あとになってよくよく考えてみると「あの時、授業を休んだからだ」と気づくわけです。しかし入試ギリギリになってから気付くのではもう遅い、入試に間に合わない、となってしまうわけです。

厳しいことを言いますが、中学受験をするとなったら、親御さんには覚悟を決めていただきたいのです。そうすれば、おのずと今何を最優先すべきかが分かってくるはずです。大事なのは、お子さんを中心に置いて考えることです。

※記事の内容は執筆時点のものです

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