難関校が毎年、時事問題を出す本当の理由|今一度立ち止まって中学受験を考える
中学受験の勉強は、小3の2月から塾に通い、そこから3年間かけて準備を進めていくのが一般的です。
塾の授業は各塾で用意されたテキストに沿って進められていきますが、とくに難関校とされる学校の入試では、塾のテキストには載っていない問題も出題されることがあります。その代表的なものが時事問題です。
では、なぜ、そのような問題を出題するのでしょうか?
Contents
時事問題の「怖さ」とは? それほど詳しい知識はなくても解けるはずだが……
毎年、年末に近づいてくると、「今年はどんなニュースが取り上げられるのだろう?」と話題に上がる、中学入試の時事問題。時事問題はその年に起きたニュースや話題になったことを取り上げるため、通常の塾のテキストには載っておらず、どこか特別感があります。また、何が出るか分からない怖さがあり、毎年その時期になると受験生の親御さんたちはソワソワしてしまうのです。
時事問題は増税や選挙などその年に起きた政治的なニュースや、ノーベル化学賞・物理賞などの何か特別な賞を日本人が受賞したときに、それに関する分野の問題が出ることが多いです。また、その年に放送されたNHKの大河ドラマに関連した歴史の問題が出たりすることもあります。
いずれにしろ、その年に話題になったことが取り上げられますが、そのこと自体を深掘りしておく必要はありません。多くの場合、問題文の中にちらりと登場し、そこから塾でこれまで習った内容と関連づけた問題を出したり、グラフや資料を読み取って、そこから見えてきた課題を答えさせたりします。
ですから、時事問題を解くにあたって、テーマそれ自体にめちゃくちゃ詳しくなくてもいいのです。ただし、そのテーマについて何も知らないと、受験生は「こんな問題、今まで見たことがない」となってしまいます。その先の問題文を読もうという気持ちにならなかったり、「どうせ分からない」とはなから諦めてしまったりと、問題に向き合う意欲に影響が出てしまうわけです。
偏差値主義からの脱却 テキストに載せていないものをあえて出す
時事問題はとくに難関校を中心に出題されます。では、なぜ難関校はこのような問題を頻繁に出題するのでしょうか? 単に入試を難しくするため、ではありません。
それは、塾の勉強だけをしてきた子を排除するためです。多くの受験生は、志望校に合格するためにたくさん勉強をします。また、親御さんも「志望校に合格するためなら」と勉強を優先させ、遊びや家のお手伝いといったものから遠ざけてしまうことがあります。
すると、机に向かって勉強だけをしていればいいと勘違いしてしまい、今世の中で起きていることに無関心だったり、他の人の気持ちを理解しようとしなかったりといった自分本位な子に育ってしまうことがあります。
しかし、学校側としてはそんな生徒を受け入れたくて入試をおこなうわけではありません。卒業生には社会に出て活躍してもらいたい、そのためには世の中に関心をもち、人と関わることに興味のある生徒に入ってきてほしいというのが本音です。
勉強はもちろん大事、でも机上の勉強だけしかしてこなかった、実際の社会に興味関心のない子は、正直それほど受け入れたくないのです。だから、あえて塾のテキストには載っていない時事問題を出してふるいをかけているのです。つまり、時事問題は、塾の勉強しかやってこなかった子どもたちへの警告でもあるということ。
通常、時事問題はその年に起きたことが題材になります。しかし、御三家の一つ、麻布中ではわざとずらして、その1年前のニュースを問題にすることもあります。
時事問題は何が出るか分からない、だから対策が難しいというイメージがありますが、各大手塾では1月の直前期に「今年はこんな時事問題が出るかもしれない」と予想し、その対策を行います。なぜ、大手塾がそこまでやるのかといえば、一人でも多くの生徒を難関校に合格させたいからです。そうやって、塾が何でも対策を取ってしまうので、学校側はあえて1年前のニュースを出すというフェイントをかけるという抵抗をしているのです。
難関校を目指すなら、子ども向けの新聞ではなく一般紙で社会を知る
毎年入試が終わると、各塾ではその年に出題された難関校の入試問題を分析し、次の年にはそれと同じような問題が出ても困らないようにと、対策を行います。そうやって、塾のテキストはどんどん分厚くなり、子どもたちの学習量は増えていきました。
しかし、時事問題といった実際今世の中で起きていることは、机上で新しい知識として覚えるよりも、常日頃からニュースや新聞を読んで、世の中に関心を持つことが一番効果的な方法です。
よく時事問題対策として子ども向けの新聞をすすめる方がいますが、難関校を受験する子の場合、子ども向けの新聞ではやや内容が偏ってしまうように感じます。こうした新聞は、子どもが興味を持ちそうな恐竜や虫などの話題は豊富なのですが、戦争、差別、ジェンダーなど社会の暗部については、そこまで深く触れません。しかし、社会を知るということは、こうした暗部も含めて知っておくことです。小学生にはまだ分からないだろう、とヘンに大人が遠ざける必要はありません。
私は、中学受験生には大人と同じ一般紙を読むことをすすめています。全部を読む必要はありませんが、少しでも興味・関心を広げられるようにしたいものです。それには、まず大人が新聞を読むこと。昨今、ニュースはネットで読むという人が増えていますが、ネットニュースは自分の関心があることが流れてくる仕組みになっているため、関心のないものは目に触れにくいという難点があります。そういう点からも、やはり紙の新聞をおすすめします。
時事問題はなぜ長文なのか?
昨今、時事問題に限らず、入試の問題文が非常に長くなっています。
長文化の背景には、インターネットの発達で情報多過になっている今、子どもたちの活字離れが深刻化している点が上げられます。このままでは文章をまともに読めない子がたくさん増えてしまう。それを危惧して、難関校をはじめとする私立中高一貫校では、問題文をあえて長文にし、その子の活字に対する向き合い方や読解力を見ているように感じます。
以前は「中学受験の合否を決めるのは算数」と言われていましたが、今は全教科共通して「読解力」が重要で、国語力重視の時代に変わりつつあるように感じています。では、長い文章を読みこなす「読解力」はどうしたら身につくのでしょうか。
長い文章を読み進めていくには、粘り強さや根気が必要です。子どもが「こんな長い文章読みたくない!」と言ったら、「しょうがないわね」とすぐに子どもの要求を受け入れてしまう。これでは子どもの粘り強さや根気は育っていきません。どうにかして子どもが長い文章を読めるようになるよう、大人も頭を働かせる必要があります。
たとえば、長い文章を読むのが苦手な子には、まずは音読をさせて文章がスラスラ読めるように練習をする。そのとき、子どもがやりたがらなかったら、親子で交互に読んでみるなど、親御さんも一緒になってやっていただきたいのです。そうやって、少しずつ訓練を積み重ねてことで、長い文章も読めるようになっていくのです。
もう一つ、長文を読む上で大切なことは、その話の内容を少しでも知っていると読み進めやすくなるということ。時事問題の問題文では、まずその年に起きたニュースなどの話題から始まることが多いのですが、そのニュースがまったく知らない内容だと、子どもはその時点で読む気力がなくなってしまいます。でも、少しでも知っていることだったら、「どれどれ何が書いてあるのだろう?」と、まずは読もうという気持ちになる。この「まったく知らない」か「少しでも知っているか」の差は大きいのです。
自分の世界しか知らない子どもに社会を教えるのが親の役目
だからこそ、日頃から世の中で起きているさまざまなことに関心を持つことが大切なのです。たとえば、昨今の時事問題にはグラフから現実の社会を読み解くような問題が出ますが、その背景に何が起きているのか、どんな課題があるのかといったことを知っていないと、なぜそのグラフのように増減しているのかがわかりません。
こうした世の中の動きは、テキストに書いてある通りに覚えるのではなく、日頃から世の中で起きていることに対して、親子でどれだけ対話をしてきたかが大事になってきます。入試直前期になって、「この内容は時事問題に出そうだから勉強しておきなさい」ではなく、「どうしてこんなことが起きちゃったんだろうね」「どうしたらよかったのかな?」「他に解決策はなかったのかな?」など、親子で一緒に考えてみる時間を作ってみる。
難関校が時事問題を必ず出すのは、こうした家庭の過ごし方を大事にして欲しいという気持ちがあるのです。このように、時事問題には各学校の思いが込められているのです。
※記事の内容は執筆時点のものです
とじる
お気に入り機能は
会員の方のみご利用できます
会員登録のうえログインすると
お気に入り保存できるようになります。
お気に入りのコンテンツは、
マイページから確認できます