公立中高一貫校受検からの撤退|公立中高一貫校合格への道#16
こんにちは!公立中高一貫校合格アドバイザーの、ケイティです。公立中高一貫校合格を目指す、保護者のための「ケイティサロン」を主宰しています。
さて、今回は、「受検からの撤退」についてお話ししたいと思います。
いよいよ本番が迫っており、怒涛の添削やセミナーに備えるため、今年度の私の連載は今回が最後です。本当ならもう少し明るいテーマで今年度を締めくくりたいところですが、「撤退」については、公立中高一貫校を目指す以上、誰もがぶつかり悩む部分なので、お話しておかなければいけないと思っています。
毎日、少なくても30件はLINEでご相談を頂くのですが、そのうちの2,3割は、「撤退の是非」に関する内容です。
そのくらい、多くの方が「このまま頑張らせるべきか、高校受験に切り替えるべきか」で揺れており、答えを出しかねているのだと日々感じています。
また、「撤退」の二文字が頭をよぎりながらも、引くに引けない状況に思い悩んでいる保護者の方もいらっしゃると思います。
今回は、私がこれまでの20年弱で実際に見てきた、撤退に関する事例を三つ紹介していきたいと思います。
【ケース①】兄の背中を見て挑戦したものの…
令和のはじめに兄が公立中高一貫校を受検したものの、残念ながら不合格。得点開示の結果によると、本当にあと一歩、あと1問正解できていれば……というところでした。
寒い冬も一生懸命に机に向かう兄の背中を見て、「自分も受けてみたい!」と弟からもチャレンジ宣言があり、保護者の方も厳しい戦いになることは承知のうえで全力でサポートしてきました。
計算トレーニングや、体験学習、記述練習、思考力系問題集など、上のお子さんのときに「もっと早くやっておけばよかった」と思ったことは、全て取り入れたそうです。
しかし、淡々と決めたタスクを消化するタイプの長男と違って、次男は机に向かわせるのも一苦労。教えたことも右から左に忘れてしまうことも多く、模試を受けても下から数えた方が早い状況。
日々の学習も投げやりな態度をとる日も多く、受検にはノータッチの父親も見かねて雷を落とす日もあったそうです。
かといって、「受検、やめる?」と聞いても、「それはイヤ!」と大泣きし、それならもう少し頑張ってみなさい、と言って続けさせるものの、しばらくするとまた雑な取り組みになってしまいます。志願理由書は、ほぼお母さんが考えた内容を清書して出願したとのこと。
もともとは本人が言い出したことではありましたが、「この子は、もし運よく入学できたとしても、適性としては向いていないのではないか」と保護者の方はおっしゃっていました。
そして結果は、不合格。
受検が終ったその日から、肩の荷が下りた様子で仲良しのお友達と存分に遊んでいる様子を見ると、「果たして、あんなに色々我慢させてまで受検させるべきだったのだろうか」と感じたとのことです。
【ケース②】引くに引けない状況で…
続いては、東京都に住むある男の子の事例です。
近隣に、全国的にみても最難関レベルといえる公立中高一貫校があり、在校生保護者のママ友からの情報を聞き、保護者の方が熱望して受検対策を始めたそうです。
ご本人も、学校見学をして先輩方の楽しそうな様子に受検の意志を固め、四年生から親子二人三脚で対策を進めてきました。
保護者の方が決めた取り組みを黙々とこなし、一日に何時間も努力する子でした。塾は利用せず家庭学習のみで進めようか、と保護者の方は思っていたそうですが、適性型の模擬試験を受けたところ、偏差値はまさかの30台後半。
そのときにお母さんから来たLINEでは、「年長から公文や通信教育をコツコツこなし、特にこの1年は適性検査対策も親子で頑張ってきたのに…」と戸惑う様子がみられました。
「このままでは……」と五年生からは専門塾に通い始め、さらに、WスクールならぬW塾で個別指導塾や家庭教師も併用したものの、模試は低空飛行が続き、偏差値が50を超えることは滅多にない状況でした。
それでも淡々と机に向かう背中に、何度も「もう辞めてもいいよ」という言葉を飲み込んだそうです。本人が頑張っている以上、その言葉は絶対に言ってはいけない、と感じたそうです。
しかし、なかなかクラス分けでも上に行けず、後から入ってきた子達に次々抜かされるうちに、次第にモチベーションも低下し始め、ついには塾も行き渋るようになってしまいました。
体調にも影響が出始め、1回のお休みが2回、3回と続き、全く勉強をしない日もあり、家庭の雰囲気は最悪だったようです。
保護者の方としては、塾や個別指導、家庭教師の月謝、それだけでなく、夏期講習や合宿、曜日特訓、志望校別特訓など決して少ないとは言えない金額をこれまでかけてきたこともあり、「ここで辞める」という決断に踏み切れず、また、「公立中高一貫校の合否は最後まで分からない」と塾の先生から言われたこともあり、進むことも引くこともできず、何度も何度もご相談のLINEを頂きました。
結局、夏休み明けの9月は一か月間塾をお休みし、受検勉強から一度距離をとることになりました。
その結果、「今日の塾は行くのか行かないのか」と様子を伺う必要がなくなり、お子さんもどこかホッとした様子で、もともと好きだったジャンルの読書に時間をつかうようになったそうです。
また、生活の中心だった「受検」が急に無くなったことで、これまで塾があるからと控えていたお出かけや外食をする余裕が戻り、これまでのキリキリした関係ではなく、仲の良い母と息子に戻ったとのこと。
最終的に、「我が子の『受験』は今ではない」という判断になり、退塾。
現在はもう中学生になっていますが、学習の方はというと、都立高受験に照準を定め、様々なところへ見学に行っているそうです。
【ケース③】地元中学だけは避けたい…
最後は、ある女の子の例です。
学校生活では何かと友人関係のトラブルに巻き込まれることが多く、担任の先生からの理解も得られない状況で、「このまま地元中学に進学するのは絶対嫌だ」ということで中学受験を検討した、という経緯があります。
ただ、その時点で既に六年生だったこともあり、私立中学受験に参入するのは難しいだろう、ということで、公立中高一貫校を目指すことになりました。
もともとの学力も高く、学習習慣も身についていたこともあり、また、「絶対に中学は外へ出たい」という強い意志もあったため、順調に成績を伸ばしましたが、第一志望にはあともう一息、というところでした。
倍率の高い公立中高一貫校受検は何が起こるか分かりませんから、1%でも受かる確率が高いところへ、ということで、秋ごろに急きょ志望校を変更します。同じ公立中高一貫校でも、エリア内の最難関校から2番手校へのスライドでした。
残り約90日というタイミングで傾向の異なる学校への変更でしたが、「地元中学だけは回避したい」というその思いを燃やし努力を重ねつつも、狭き門である公立中高一貫校専願はやはりリスクがある、ということで、私立中学との併願も視野に入り始めました。
暗記科目である理科・社会を含む4科受験は間に合わないと判断し、適性型を採用している私立や、2科受験ができる私立を大慌てで探し、対策を始めます。
結果的に、公立中高一貫校はご縁がありませんでしたが、併願して受けた私立中学に合格。そちらに進学しました。
しかしながら、特にその学校に魅力を感じて入ったわけではない自分と、その学校を第一志望として入学してきた子達との温度差や、何かと決まりの多い学校の体制に馴染めず、中1から徐々に行かなくなり、高校に上がるタイミングで外部受験をすることになったと聞きました。
「撤退を避けるべきかどうか」
さて、あまり楽しいとは言えない事例紹介でしたが、読んでどうお感じになったでしょうか。
実はこの3ケースとも、私が「撤退」を勧めた事例なのです。
毎日のように、「受検、もう辞めようかと思う」というご相談が届きますが、そのほとんどが、ご紹介した3つの事例とは異なり、「子ども本人は熱心に頑張っているが、成績はまだ充分とは到底言えない状況で、親の方が不安になってきた」という状況です。
それであれば、どこで伸び悩んでいるのか、過去問はいま何周目で、どこがネックなのか、模試の解き直し状況は、など細かく分析し、「合格までの道筋」が見えてくれば、もうあとは信じて背中を見守るだけ、という心境になり、覚悟も決まります。
ですが、本人が露骨に「学習『させられている』感じ」を出していたり、モチベーションが下がったまま学習から離れていたり、そもそも消去法的に進路を決めただけで、その学校を熱望しているわけではない場合は、立ち止まって話し合う必要があります。
中学受験は絶対ではなく、あくまでも「選択の一つ」です。その選択で、親子関係に修復できないほどのヒビが入ることや、否定的な言葉のぶつけ合いになることは、あってはならないのです。
「受けてみないと分からない」「ここで辞めたら『辞め癖』がつく」というような言葉を第三者から言われたとしても、それで迷う必要は一切ありません。何より大事なのは、保護者がお子さんの絶対的な味方でいること、そして、お子さんが心身ともに健全な状態で前向きに挑戦できることです。
「受検しなければならない」「合格しなければならない」と、「しなければならない」に縛られると、倍率の高い公立中高一貫校受検はかなり苦しいものになります。
二人三脚で同じ方向を向いて第一志望を目指し、「全力だった」と振り返ったときに言えるような頑張りができない状況だとしたら、本当に『今』が受験のタイミングなのか、本当にその学校しか選択肢はないのか、考えた方が良いと言えます。
中学受験をして得られる最大の財産は、「勉強は大変だけど、やってよかった!」と思えることです。
小学生時代は無限の自己肯定感を持っているはずの時期ですが、その自信を失わせ、今後の長い学習人生に影を落とすような受検になりそうだと感じたら、赤信号です。
選択肢の幅も広く、受験回数も多い私立中学受験と比べると、高倍率、そして一校一回きりの公立中高一貫校受検は、親も子も覚悟が試されます。
まずお子さん自身が、「自分がこの学校に絶対に行きたいから頑張るんだ」と思える気持ちを持っていなければいけません。
その気持ちがあれば、あとはもう、覚悟を持ってサポートし、見守るのみです。
まとめ
そもそも、「撤退」といっても、公立中高一貫校受検という非常に狭い世界からの撤退であって、それは、「逃げ」でも「挫折」でもないことは、よくよくお伝えしておきたいと思います。
まず大前提としてお子さんが進みたい道、目標、夢があり、そこにつながるルートの一つが公立中高一貫校、というだけであって、ゴールまでのルートは他にいくらでもあります。また、公立中高一貫校が絶対に最短ルートということもないでしょう。
公立中高一貫校、というたった一つのルートだけに視野が限定されてしまうと、その選択肢から他を探すことがまるで「負け」のように感じてしまう方が多いのですが、決してそんなことはありません。
公立中高一貫校は選択肢も少ないですが、高校受験となると、学校の種類も、選べる校風の幅も、学ぶことのできる専門性の違いも、その先の大学進学の幅も、多種多様な選択肢が一気に広がります。
残り数か月先の公立中高一貫校受検に向けて努力するか、そこにあと3年追加して高校受験に向けてじっくりと校風や入学のハードルを見定め努力するか、その違いでしかありません。どちらにしても目標に向かって頑張ることには変わらないので、どちらが偉い、どちらが負け、といった差はありません。
反抗もモチベーションの低下も受検生からのSOSであることが多いのですが、それに対して「それなら受検は辞めなさい!」と言って、「辞めます!」という子はいません。
みんな、「辞めたくない」と言って泣くのです。
それは、「中学受験(受検)をするか/しないか」という極端な二択しかない、と小学生は思い込んでいるからです。「そうではない道もある」という長期的な視野は、保護者の方が提示してあげる必要があります。
思いっきり前向きに頑張っている子に対して、別のルートを示すのはむしろ「余計なお世話」になりますが、態度や体調、親子関係に修復不可能なレベルの影響が出ている場合は、前向きで戦略的な「撤退」の道もあることを、心を守る考え方の一つとして知っておいて頂きたいと思います。
▼公立中高一貫校の受検体験記もぜひご覧ください
※記事の内容は執筆時点のものです
とじる
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