中学受験ノウハウ 連載 親子のノリノリ試行錯誤で、子供は伸びる

受験直前期の母親が罹りがちな心の病―― 親子のノリノリ試行錯誤で、子供は伸びる

専門家・プロ
2024年10月30日 菊池洋匡

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自ら伸びる力を育てる学習塾「伸学会」代表の菊池洋匡先生がおくる連載記事。「親子で楽しく試行錯誤することで、子供が伸びる」ということを、中学受験を目指す保護者さんにお伝えします。

こんにちは。中学受験専門塾 伸学会代表の菊池です

肌寒い日が増えてきましたね。

昨日お風呂に入ってからだがポカポカした状態で薄着で寝たのですが、朝目が覚めたときにはすっかり体が冷えてしまっていました。

受験生親子の皆さんも、うっかり寒い格好で寝て風邪を引いたりしないようにお気を付けください。

さて、今回の記事では、受験直前期の母親が罹りがちな心の病「焦燥感」についてお話しします。

厳密に言えば焦燥感とは病名ではなく症状で、思う通りにいかずイライラしたり、そわそわして落ちつかなかったり、不安や緊張や焦りを感じたりする状態が、長く続いたり繰り返されたりすることを指します。

あなたもセルフチェックしてみてください。

常になんとなく不安が付きまとい、気持ちが落ち着かず、イライラしがちだったりしませんか?

もし思い当たるところがあれば、それは焦燥感かもしれません

受験が近づくと焦ってくるのは両親とも変わらないでしょうと思われるかもしれません。

しかし、理由は後述しますが、焦燥感に駆られるのは私の経験上圧倒的に母親が多いです。

一般的に、人は焦燥感に駆られると、集中力や判断力が低下したり、心が不安定になって怒りっぽくなったりします。

そして、ミスが増えたり、後悔するような決断をしてしまったりと、行動と思考にズレが生じて様々なトラブルが起こります。

受験生の母親においては、焦燥感に駆られてしまうと、例えば子どもに本人の許容量を超えた勉強をさせようとしてしまったり、怒りすぎてしまったり、悪徳塾のセールストークにのせられて過剰な課金をしてしまったり、といったトラブルが起こりがちです。

その結果、子どもの体調を崩したり、心の調子を崩したり、勉強に対してやる気を失ったり、家計が破綻しそうになったり、夫婦関係が悪化したり、といった事態に発展したりします。

中には中学受験がきっかけで離婚に至るというケースもあります。

それによってますます子どもの心身の健康に悪影響が出て、もはや受験勉強どころではなくなり、成績も崩壊するということも。

焦燥感はとても大きなトラブルにつながりかねない危険なものだとお分かりいただけたでしょうか。

そこで今回は、焦燥感の原因と、対処法についてお話しします。

うまく焦燥感を手放せるようにしていきましょう。

焦燥感の原因は?

焦燥感を感じる原因は、一般的に以下のようなものがあります。

  • ①理想と現実にギャップがある
  • ②他者比較をしてしまう
  • ③周囲からのプレッシャーを感じる
  • ④不安を感じる
  • ⑤やるべきことが多すぎる

例えば、「仕事で成果が出せない」ことにより、①仕事で成果を出して出世して高収入を得ている理想の自分とギャップを感じたり、②成果を出している同僚と自分を比べて引け目を感じたり、③上司や同僚からのプレッシャーを感じたり、④将来に不安を感じたり、⑤成果を出すためにやるべきことを考えてとてもこなしきれないと感じたりすると、それが焦燥感につながります。

では、受験生の母親の焦燥感を産む原因は、具体的にどんな状況でしょうか。

①理想と現実にギャップがある

中学受験を始めるときに、楽観的に考える親御さんは多いものです。

特に、自分が勉強が得意だった高学歴な親御さんほど、我が子も普通に勉強はできるだろうと思いがちです。

決してそれ自体が悪いわけではありません。

しかし、いざ受験勉強を始めてみて、思っていたよりも我が子は勉強が得意ではなく、コツコツ努力する力も無いという現実に直面したときに、その現実を受け入れることができないと、理想と現実のギャップが苦しさにつながります

理想が高ければ高いほどギャップも大きくなるため、焦燥感も強くなります。

②他者比較をしてしまう

「同僚の○○さんの子は難関進学校に合格したらしい」「クラスメイトの××君はいつも塾で偏差値70を取っていてとても良くできる」など、よその子と我が子を比べたときに我が子も何とかしなければと焦燥感に駆られることがあります。

特に危険なのが、「子どもの将来を案じて」ではなく、「自分のメンツ・プライド」から子どもにはそれなりの成績を取ってそれなりの学校に合格してもらいたいと思ってしまうケースです。

母親同士で子どもの学力・学歴でマウントを取り合い、子どもが傷つき苦しんでいるということはよくあります。

他者比較は自分を苦しめるだけでなく、相手への嫉妬や、子どもを責める気持ち、そして自己否定につながり、親子ともに自己肯定感が下がって苦しくなり、状況が悪化していきやすいので注意が必要です。

③周囲からのプレッシャーを感じる

周囲からの期待が大きいと、それに応えなければいけないと感じて精神的な負担を抱えます

期待が大きいを通り越して、できて当然とみなされるような環境もあったりするので、そういう場合はなおさら注意が必要です。

これまで私が受けたご相談の中でも、例えばお父さんの側が代々お医者さんの大変優秀な家系で、お母さんが子どもの教育に失敗できないという大変なプレッシャーにさらされていて、焦燥感にとらわれてしまっていたというケースがありました。

夫婦間に学歴ギャップがあると、学歴が低い方の親御さんは特にこうしたプレッシャーを強く感じるケースが多いです。

もちろん、ご自身が高学歴な親御さんが、周囲の目を気にして、子育てに失敗するわけにはいかないとプレッシャーを感じる場合もあります。

いずれにせよ、そうした失敗できないという気持ちは、焦燥感につながります。

④不安を感じる

現代社会はテレビもインターネットも不安を煽るネガティブな情報があふれています。

例えば受験に不合格になって子どもが傷ついてしまったとか、不登校・引きこもりになってしまったとかいった話はSNSにたくさん流れてきますよね。

ポジティブな内容だってたくさんあるのですが、人間は危険から身を守るために危険に対してはより敏感に反応するようにできているので、無意識にポジティブな内容よりもネガティブな内容の方を選んで見てしまうことが多いのです。

そして、不安や恐れを煽られて、でも具体的な解決策が見つからずに、どうしたらいいかわからず焦燥感がつのりがちです。

我が子の成績を上げたいとか、勉強へのやる気を引き出したいと思っても、どうすれば良いかわからないことって多いですよね。

また、自分自身が不安を作り出してしまうことも多いです。

人間は危険から身を守るために、未知のもの・ことに対して警戒したり、もしこういうことが起こったらどうしようと想像力を働かせて想像上のもの・ことに不安を感じたりもします

特に母親はこの能力に長けています。

多くのお母さんは、これまで我が子を危険から守るために、あらゆる事態を想定して、危険を取り除きながら頑張って子育てをしてきたことでしょう。

その危険を想定する能力が働き続け、まだ起こってもいないこと・起こる可能性が低いことに対しても自分で想像を膨らませて、常に漠然とした不安を感じ、何となく「このままではよくない気がする」という焦燥感を生んだりするのです。

⑤やるべきことが多すぎる

④で具体的な解決策が見つからないと焦燥感にかられるとお伝えしましたが、具体的な解決策があっても、とても終わらないという状態だとやはり焦燥感につながります。

塾の宿題や入試の過去問など、合格するためにやらなければいけないことはたくさんあるのに、我が子の勉強ペースが遅くてこなしきれないとか、やる気を出さずに進まないといった状況になり、やるべきことに追われると焦りが生まれます。

やるべきことをやらない子どもに対してイライラも強くなりやすく、それによって子どもの意欲が低下して、ますますやらなくなる悪循環にも発展しがちです。

また、母親自身がやるべきことに追われていると、それによって焦燥感がつのることもあります。

塾の送り迎えやお弁当作りに加え、勉強でわからないところを教えたりスケジュールを立てるのを手伝ったり、毎日やることに追われているのではないでしょうか。

現代は共働きの世帯が多いですが、仕事をしながら家事もこなし、その上で子どもの中学受験のサポートとなると、その負担はとても大きなものです。

そうした中で、母親の心身が疲弊し、常に焦燥感にとらわれた状態になってしまうことも少なくありません。

そして、焦燥感からイライラを周囲にぶつけてしまい、そんな自分を責めて、焦燥感がさらに強まるという悪循環が起こりやすいので注意が必要です。

 

ここまで焦燥感が生まれやすい原因について挙げてきました。

いかがだったでしょうか。

あてはまるものはありましたか?

では、焦燥感が起きないようにするにはどうしたら良いのでしょうか?

焦燥感への対処法

最初に書いたように、焦燥感が起こると理性的な判断ができなくなり、突発的・感情的に後悔するような行動をしてしまいがちです。

子どもに対して酷いことを言ってしまって、後悔し、子どもの寝顔を見ながら涙する。

そんな経験をしているお母さんは多いのではないでしょうか。

こうしたことを繰り返さないようにするためには、知識として対処法を知っておくことが大切です。

少しでも理性が働いているタイミングで対処法を実践し、焦燥感が起こるのを予防し、あるいは起きてしまった焦燥感を取り除きましょう

①と②が非常に大切なのですが、焦っているときはとくに、うまくできないと感じられるかもしれません。その場合は、①②を意識しつつ、③以降の着手しやすいと感じるものからやってみてください。

①ありのままの我が子を受け入れる

対処法の1つ目は、ありのままの我が子を受け入れることです。

この子はありのままでかわいい、大切な存在なんだということを確認しましょう。

理想を持つのは良い事ですが、まずは先に今の我が子をありのまま認めて、その上で現実的な理想を思い描きましょう。

自分のために「才能がある優秀な子どもが欲しい」のか、それとも大切な我が子が幸せに生きていけるように「子どもの才能を伸ばしてあげたい」のか、どちらなのかを自問自答してみるのも良い方法です。

きっと後者だと思う方が多いのではないでしょうか。

子どもの視点で考えてみても「お母さんは才能がある優秀な子が欲しいんだ。優秀じゃなかったら私は要らないんだ」と感じながら育つのと、「お母さんはありのままの自分を愛してくれる」と感じながら育つのと、どちらが幸せかは言うまでもありませんね。

まずはありのままを受け入れると、親子ともに気持ちが満たされて、焦燥感を手放していけます。

他者比較をするのも、ありのままの我が子を受け入れることから遠ざかるのでやめましょう。

他者比較をしていると、我が子が成長していたとしても、他の子も同じように成長しているのですから、「ずっとあの子に負けている」という気持ちを抱え続けることになりがちです。

それどころか、我が子が人並み以上の成長を見せて、成績が上がっても、クラスが上がっても、もっともっととなってしまい、子どもはもちろん親御さん自身も常に満たされない感情に苦しんでしまうこともあります。

他者比較にはどこまでいっても終わりがないのです。

他者との比較をやめて、過去の本人と比べて、成長したことを見つけて認めるようにすると、親御さん自身も安心感が得られます。

②ありのままの自分を受け入れる

子どもをありのまま受け入れるのと同じように、自分自身もありのまま受け入れましょう

よその母親と自分を比較して優劣を考えたりしていると、焦燥感が起こります。

また、「子どもが受験に合格しなかったら自分の責任だ」といった過剰な責任感も焦燥感につながります。

ちゃんと毎日親として頑張っている自分を認めて、褒めて、受け入れることで、受験に合格させなければいけないというプレッシャーを手放しましょう。

③不安の元となる情報を見ないようにする

なんとなくインターネットを見ていると、誰かの自慢話にうちはこのままでいいのかと不安を煽られたり、また誰かの失敗話にうちもこうなってしまうんじゃないかと不安を煽られたりといったことが起こりがちです。

特に匿名のSNSを見ているときが、こうしたことは多いのではないでしょうか。

「なんとなく」をやめて、「意識的に」必要な情報だけを見るようにし、他は見ないようにすることで、こうした周囲から与えられてしまう不安をシャットアウトすることができます。

④不安を紙に書いて整理する

この方法は「筆記開示」とも言われ、受験生親子に度々おすすめしているものです。

頭の中でモヤモヤとする感情や不安を客観的にとらえることができるようになり、それによって焦燥感が和らぎ、落ち着いてものごとを考えられるようになります。

実際、受験生本人が行うことで、不安や緊張を軽減することができ、テストの点数が向上するという効果も実験で確認されています。

ぜひ親子で取り組んでみてはいかがでしょうか。

やり方はシンプルで、1回10~15分程度時間を取り、自分の悩みや不安など、考えていること、感じていることを紙に書きだすのです。

簡単ですよね。

毎日やるのが理想的ですが、難しければ週に1~2回程度でも構いません

周囲からではなく自分の中から不安がわいてきてしまう場合には、この方法で対処してください。

⑤やるべきことを紙に書いて整理する

やるべきことが多すぎる場合には、この方法で対処しましょう。

あれもやらなきゃ、これもやらなきゃとパニックになっている場合には、やるべきことを整理して、今はこれをやる、これは今じゃなくて後でやる、と決めて紙にまとめると、心の落ち着きを取り戻せます

また、「後でやる」ではなく「やらない」と決めるのも大切です。

非現実的な理想を手放し、ありのままの我が子と自分を受け入れた後でやるべきことの整理に着手すれば、「できないものはできない。できない事はやろうとしない」と割り切ることもできるはずです。

私は常々、子どもの成長を最大限に引き出すためには、やらせることを考える以上に、やらせないことを考えることが大事だと親御さんたちにはお伝えしています。

それは子どもだけでなく親御さんも同様です。

やりたいけどやれないことが頭の中をぐるぐるしていると、それがまさに焦燥感になります。

やらないことを決めて、やるべきことを絞り込み、整理してみてください。

そうすれば、心にゆとりができ、良い子育てをできるようになりますよ。

まとめ

以上、受験生の母親が抱えがちな焦燥感の原因と対処法でした。

この焦燥感は受験直前期になると特に強くなりますが、人によっては5年生4年生のうちからずっと感じ続けてしまっていることもあります。

もし今はまだ焦燥感は無いなと思っていても、いずれそうなるかもしれません。

早め早めの対処が効果的ですよ。

ありのままの我が子と自分を受け入れることは、焦燥感への対処としてではなく、子どもと自分の自己肯定感を高めて、人生の幸福度を高めることにもつながります。

ぜひ日ごろから意識してみてくださいね。

※記事の内容は執筆時点のものです

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