連載 「下剋上受験」桜井信一 特別インタビュー

中学受験「成績が伸びない」と諦めてしまう親|「下剋上受験」桜井信一 特別インタビュー(3)


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両親は中卒、それでも娘は最難関中学を目指した! そんなインパクトある実話がベースのTBS系ドラマ「下剋上受験」……。その原作者である桜井信一氏に、自身が監修を務める「マイナビ家庭教師」のこと、中学受験のこと、勉強方法についてなど、受験生を抱える保護者はもちろん、すべての親御さん必見の話を聞いた。

できない子供の学力は右肩上がりには推移せず、ある時期を境に竹のように伸びる。しかし90%以上の親は、そこまで待てずに諦めてしまう

――漠然と頑張っているだけではダメというお話ですが、「成績が伸びない→勉強時間を増やす→結果が出ない→モチベーションが下がる」という負のスパイラルに陥っているケースが多く見受けられます。

やり方を変えないまま、いたずらに勉強時間だけを増やしても何も解決しません。なにか決定的な手を打たないといけない。そうはいっても、どこから着手したらよいのかわからないという保護者の方もたくさんいらっしゃると思います。

最初にも言いましたが、まずは計算のやり方から変えていきましょう。ここがもっとも解決がはやく、もっとも効果が出やすく、もっとも重要なポイントだからです。

塾の宿題を面倒くさがる、やる気がない、集中力が切れる、その原因の多くがスムーズに計算できないからだと思うのです。たかが計算などと侮ってはいけません。中学受験塾のテキストに出てくる計算問題は相当ややこしく、10問あったら10問すべてのコツを教わらないと正確に速く解くのはむずかしい。コツを知らないと、苦行のように筆算を繰り返したり、問題を見たたけで戦意を喪失したり、鉛筆さえも動かさずダラダラしたり……。

そんな状態から子供を解放してやるためには、まずは計算に欠かせないパーツをインプットする必要があります。たとえば、よく出てくる分数を整理する、公倍数と公約数を整理する、11から19までの同じ数どうしの2ケタの九九は頭に入れておく。3.14×2から3.14×9までの掛け算は、覚えるまでは表を見ながら計算していいことにする。こんなの慌てて暗記しなくても課題をこなしているうちに勝手に覚えちゃいますから。

――問題の数を解くことで計算力を上げるということではなく、計算に必要なパーツのインプットから始めるというのは興味深いですね。

ここから改善しない限り、塾の課題をサクサク進めることはできないと考えたほうがよいでしょう。パーツをインプットしながら、計算のコツや工夫の仕方をマスターしていくという流れになります。

塾の膨大な量の宿題をこなしたうえに復習まで難なくできる子は、計算も解き方もホントに上手なんです。自然と工夫して課題に取り組んでいるんですね。この子たちが、メチャクチャ筆算が得意というわけではけっしてない。

それにしてもこんなに短期間で克服できる計算という分野を、ここまで多くの子が放置している事実に驚いています。指導法が特殊なわけでもありません。計算をほかの単元と同等に扱う気持ちになるだけで、ほとんどの子が抱えている悩みがスーッと解決すると思うのです。

塾の宿題を軽くするために、正解になりかけた不正解を得点にするために、問題を考える時間的余裕をつくるために、どうしても真っ先に克服してほしい。親がここで手を打てば、苦行を減らす努力をしてあげれば、子供は必ず宿題を進んでやるようになります。

そしてうれしそうに解き方を説明してくれる日がきます。大量の計算プリントの現状を見て、あらためてそう思います。

――「計算をほかの単元と同等に扱う気持ちになる」という指摘は目からウロコが落ちる思いです。

必要なパーツのインプットという話にもつながってくるのですが、「勉強はすぐに答えを見ずに何時間でも考えたほうがよい」と一括りにいうのはちょっと違う気がします。

できない子の根の深さをわかってないんでしょうね。できない子というのはまだ問題を解くレベルにすら達してないわけです。そんな状態でいくら考えたって座禅と同じ。考えても考えても学力なんか上がるはずがない。

こういう場合はさっさと解き方を説明して、一刻もはやく頭のなかに必要最低限の知識を詰め込んでやらないといけないのです。計算のパーツを揃えるのと一緒ですね。基礎を解く前の準備を整える必要がある。まずは「知ること」から始まって、次に「練習すること」を終えてから、ようやく「考えてみる」というステージに到達するんだと思うのです。

しかも自分で考えないうちに、ただ教えてもらったことをわかった気になって……の繰り返しでは、いつまでたっても考える力など身につきません。

勉強法って、その子の学力によって変わるものではないでしょうか。わからない問題をウンウン唸りながら1時間も考えるのは、頭のいい子の勉強法だと思うのです。

――「頭のいい子の勉強法」などと聞くとついマネしたくなりますが、学力によってそのアプローチ方法はまったく異なってくるのですね。

学力の推移の仕方にも大きな違いがあって、できない子の場合は「徐々に」なんて伸びていきません。右肩上がりなんてうまい具合にいかないんです。ずーっと低空飛行を続け、ある時期を境に竹のように伸びる。

その理由は、インプットしてきたパーツなど複数の知識が、なかなかひとつにつながらないからだと思っています。最後に急上昇すると信じ続けて頑張る勇気さえあれば、バラバラだった知識がパシッとつながるタイミングがきて、必ずや大噴火します。

この日が訪れるまで親はぐっと耐えて応援しなければならない。竹になるまで待たないといけないんです。しかし、90%以上の親はそこまで待てずに諦めてしまうんですね。だからせっかくの能力もススキのようになってしまう。青でも緑でもない、枯れた色になっちゃうわけです。

とはいえ、子供の力だけでは流れを変えることはできません。子供が自力で変われるのなら、すでに変われていてもおかしくないのではないでしょうか。

文◎「マイナビ学生の窓口」編集部

※この記事は「マイナビ家庭教師」Webサイトに掲載されたコラムを再編集のうえ転載したものです


■「下剋上受験」桜井信一 特別インタビュー バックナンバー

※記事の内容は執筆時点のものです

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