連載 「下剋上受験」桜井信一 特別インタビュー

ただ塾に行って漠然と頑張っているだけでは何も変わらない|「下剋上受験」桜井信一 特別インタビュー(2)


0

両親は中卒、それでも娘は最難関中学を目指した! そんなインパクトある実話がベースのTBS系ドラマ「下剋上受験」……。その原作者である桜井信一氏に、自身が監修を務める「マイナビ家庭教師」のこと、中学受験のこと、勉強方法についてなど、受験生を抱える保護者はもちろん、すべての親御さん必見の話を聞いた。

何層もの学力ピラミッドは、日付を変えてそのまま水平移動する。ただ漠然と頑張っているだけでは何も変わらない

――そもそも桜井さんが「家庭教師」にこだわるのはなぜですか?

個別の問題解決には家庭教師が最適だという以外に、できれば保護者の方に同席していただきたい、子どもが問題を解いているところを見ていてほしいという気持ちがあるからです。塾では親が横に座ることはできません。授業での様子を把握できない状態で、送られてくるテスト結果でのみ子どもの実力を知る。つまり過程をはしょって結果しか見られないということになりますね。だからこそこのマズイ現実を先送りにしてしまうのだと思うのです。

その点、家庭教師でしたらたとえ横に座らなくても、リビングで受けている授業をキッチンで聞くことだってできます。勉強している姿を近くで常にチェックできます。私の経験上ストレスで死にそうになりますが、なんにしろこりゃ相当マズイと気づき、看過することのできない問題だと認識する。だからこそ「どうしようか? どうやって解決しようか?」と本気で頭を悩ませるんだと思うのです。

でも塾でこれをやってしまうと、優秀な生徒以外は転塾を考えてしまう恐れがあるでしょう。「この先生に教わってもできるようにならないな」と判断する親が出てきちゃう。家庭教師の場合だと、講師の交代というよりも家庭教師会社を換えられる可能性が高いかな(笑)。

だから本来は危険な提案なのですが、私はできる限り同席してほしいとお願いしています。マズイ原因をどこへ持っていくか……これは親御さんの判断なのでお任せするしかない。それよりも目の前の問題から逃げずに対峙してもらうほうが、学力向上の可能性が高くなると思うわけです。

――たしかに塾での学習姿勢を親が直接見ることはできませんね。家庭教師の意義と同時に、桜井さんは学習塾の重要性も繰り返しおっしゃっています。

塾の大きなメリットは「期限までにこなすこと」と「同級生を横目で見ること」の2点ではないでしょうか。まず「期限までにこなすこと」ですね。塾ではこちらの事情に関係なく、宿題が定期的に出され、週テストが繰り返しやってきます。

そのため隙間時間を使ってでも、時間をやりくりしてでも勉強をしようという、子どもにとっては一番難しい”自分を律する”姿勢や習慣が自然と身についていくのがよいですね。「同級生を横目で見ること」というのは、競争心がわくという話ではなく、むしろ逆です。大手中学受験塾の場合、できる子とできない子はクラスが別になりますから、同じ塾に行くだけで競争心を持てるはずがありません。

その代わり、いつまでも同じ位置にいる同級生を横目で見ることができる。要は、それは自分を見つめ直すことでもあるんですね。「ああ、今回もまたあの子たちと一緒だ」と。自分の成績が伸びていないという事実を否が応でも突きつけられちゃう。”同じクラスに長居してしまう状況から抜け出すこと”をいつも意識させてくれることこそが塾の利点だと思います。

――もしお嬢さんを塾に入れるとしたら、どのような観点で選びましたか?

私には”わが子に合った塾を選ぶ”という発想がありません。そんな甘いことを言っていたら地頭のよい子には到底勝てないと思うんです。わが家のように下剋上を狙うのであれば、「塾の方針に家族一丸となって合わせるべき」ではないでしょうか? 子どもが張り切って通ってくれそう、面倒見がよさそう、先生が好印象……そんな親のインプレッションはどうでもよいと思っていて、少しでも合格する可能性が高い塾を選ぶでしょうね。

そう考えるとテキストを徹底的に重視します。この選択が合否を分けると思うのです。塾の授業で解く問題は大量にある演習のごく一部ですから、結局は自宅での学習が勝負になる。するとどうしたって講師ではなく、テキストが鍵になるわけです。もし受験まで繰り返し使ってきたテキストが的外れな問題ばかりを集めたトンデモ教材だったとしたら、そこまで積み上げてきたものがすべて台無しになってしまう……その怖さといったらないでしょう。

――塾に通ってはいるものの成績が上がらないといった悩みを多く聞きます。どこに問題があるのでしょう?

大手中学受験塾のノウハウは、研究しつくされたテキストをはじめ、その月謝に見合うだけの価値の高いものだと思います。ですからあくまでも問題は、塾の利用の仕方にあるのではないでしょうか。

繰り返しますが、塾の授業で算数の問題を解くといっても、時間的に考えて数問しか解説まで聞くことができません。結局のところ、宿題勝負になるわけです。つまり自宅学習勝負ですね。塾から帰ったら即自宅学習、塾がない日も自宅学習……。1問でも2問でもコマを進めなければゴールに近づけません。塾に通っているだけで成績が上がるならば苦労はしないでしょう。

というのも、授業で教わっていることは全員が習っているということ。塾に行くことで高度な内容を学び、たしかに学力の底上げはされているのですが、それは周りの子どもたちも同じです。その状態を続けていると、5年生で偏差値50の子は、1年後も偏差値50のまま入学試験の日を迎えることになる。何層もの学力ピラミッドは日付を変えてそのまま水平移動するのです。

ただ塾に行くだけでは、ただ漠然と頑張っているだけでは、残念なことに何も変わりません。

文◎「マイナビ学生の窓口」編集部

※この記事は、「マイナビ家庭教師」Webサイトに掲載されたコラムを再編集のうえ転載したものです。


■「下剋上受験」桜井信一 特別インタビュー バックナンバー

※記事の内容は執筆時点のものです

0