中学受験ノウハウ 教育用語

最近よく聞く「生きる力」って? じつは中学受験の勉強でも身につくんです!

2018年7月12日 花里京子

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国際競争力も高まるいま、教育で求められているのは「生きる力」。「生きる力」はどうしたら身につくのでしょうか? また学校での取り組みは?「生きる力」と中学受験との関係についてご紹介します。

文部科学省が言う「生きる力」とは?

文部科学省が「生きる力」を提唱したのはバブルが崩壊した1996(平成8)年。『知識だけでなく、その知識を使って自ら課題を見つけ、問題を解決する』。21世紀を目前に控えた当時、このような「生きる力」をもった子供を育てるべきという論調がありました。それから20年以上経ったいま、現代社会はさらに目まぐるしく変化しています。グローバル化の加速や、AIの登場などもあり、提唱された当時よりも「生きる力」が必要とされているのが「いま」なのです。

「生きる力」の3要素

文部科学省は、「生きる力」を、「確かな学力」「豊かな人間性」「健康・体力」の3つの要素からなる力のことだとしています。「確かな学力」とは、知識や技能はもちろん、学ぶ意欲や自分で課題を見つけ、主体的に判断・行動し、問題解決をする資質や能力のことだと言います。また、「豊かな人間性」とは、たとえば他人と協力することや、思いやりの心などです。「健康・体力」はその言葉どおりの意味です。

「生きる力」の概念図

出典:「平成19年度 文部科学白書 第2部」(文部科学省)をもとに編集部作成

では、「生きる力」を養うために、どんな取り組みが行われているのでしょうか。まず、小学校では授業時間数が増えました。その時間を、次のような学習にあてることになっています。

コミュニケーションや全ての教科の基礎となる国語。国語では文章を書き、自分の考えを表現することに重きをおいて、言語能力を養うことになっています。理科では科学的な見方を養うため、実験や観察の機会が多くなりました。また、中学校での職場体験など体験を通した学びもあります。さらに、環境問題など社会が抱える問題について学び、社会を身近に感じさせる授業もあります。総じて、かつての「知識を詰め込むだけ」の勉強は過去のものとなっているようです。

中学受験で「生きる力」を身につける

このように、今後の教育で重視されていく「生きる力」。中学受験はこの「生きる力」とどう関わっていくのでしょうか? 実は、中学受験に挑戦し、努力を重ねること……それは子供の「生きる力」を引き出す行為といえるのです。

中学受験の入試問題は「生きる力」の宝庫

首都圏で電車に乗っていると、車内の広告で私立中学校の入試問題を目にする機会があると思います。また、中学受験の親世代であれば、『平成教育委員会』で中学入試問題が出題されていたのを覚えている方がいらっしゃるかもしれません。

こういう扱いを一見すると、中学受験の入試問題はよくできたクイズのようにも思えますが、じつは入試問題には「問題解決能力」や「創造力」「表現力」など「生きる力」が問われるエッセンスが盛り込まれています。中学受験の入試問題は「生きる力」の宝庫ともいえるのです。

進学塾の理念にも「生きる力」への願いが込められている

また、中学受験を志す場合、多くのご家庭が進学塾へお子さんを通わせます。「塾の勉強は、受験テクニックを教えているだけでは? 生きる力と関係ある?」と思われるかもしれません。もちろん進学塾では知識・テクニックを教わる面があります。しかし、それだけではありません。

たとえば、有名な四谷大塚では、「予習」を大切にする指導を行っています。予習することで「自ら考える力」や「探究心」「最後までやり遂げる姿勢」を育むとしています。また、同様に大手進学塾であるサピックスの理念は「正しく考える」生徒の育成です。正しい思考能力や判断力、表現力や創造力で、未来を開拓してほしいという願いが込められているのです。

中学受験に挑むことで子供の「生きる力」を引き出す

中学受験に向けた勉強は、知識を詰め込むだけではありません。進学塾ではテクニックも教わりますが、それだけでは、対応できない入試問題も増えています。出題する学校側は「こんな生徒に入学してほしい」「こんな力を身につけていてほしい」という思いを込めて問題を作っていますし、塾側もひとつの問題をとことん考えて、考え抜くことで、子供の「生きる力」を引き出し、身につけさせようとしているのです。

小学校6年生になると、夏休みも冬休みも塾に通い、自宅でも学習をする日々を過ごす中学受験生が少なからずいます。「子供なんだからもっと子供らしく過ごしたほうがいい」「かわいそう」と思われがちですが、合格に向けて努力を積み重ねようとする意欲こそ、まさに「生きる力」なのでしょう。

私立中高一貫校における「生きる力」

私立の中高一貫校こそ、「生きる力」教育のパイオニア。理念と歴史に培われたカリキュラムや授業で、「生きる力」を身につけています。

「生きる力」教育のパイオニア

私立中高一貫校には長い伝統と歴史を誇る学校も少なくありません。また、学校の核には「理念」があり、その理念をベースに「世界で活躍する人材を育てたい」、「リーダーとして活躍してほしい」といった「育てたい」生徒像が明確に打ち出されています。つまり、私立中高一貫校では、文部科学省が「生きる力」と声をあげる前からその力を養ってきたのです。

総合的学習で身につく「生きる力」

私立中高一貫校で「生きる力」が身につくといえば、「総合的学習」でしょう。各校が工夫を凝らし、独自の学習を展開しています。

たとえば、二松學舍大学付属柏中学のグローバルコースの生徒は、「国際社会とプレゼンテーション」という授業で、世界が抱える問題について調べ、その解決方法を考えます。

二松學舍というと、「漢文」のイメージが強いのですが、明治10年の創立当初から世界に目を向け、社会に貢献する人材を育てようとしているのです。

また、桐光学園では、年間を通じて20回ほど、大学教授や詩人やミュージシャンなど著名人を招いて、授業を行っています。この授業で生徒は学問のおもしろさはもちろん、学び続けることの意義などを感じ取り、一生の糧を得るのです。

「生きる力」は教科横断型授業

総合的学習は教科横断型の学習です。たとえば、「環境」をテーマにしたレポートを書くとします。環境が悪化した理由は、理科的な視点からも、社会的な視点からもアプローチできます。さらに、データを作る場合、数学的な知識も必要です。また、レポートを書くことや、プレゼンには、国語力も必要です。あるいは、レポートを英語で発表するという学校もあるでしょう。

教科の枠を超えて、興味や関心の芽が育まれる……。この教科横断型の学びは、希望進路の実現や大学合格実績にもつながる……。中高一貫校の難関大学への進学実績が高い理由のひとつに、「生きる力」を育む教育があるのではないでしょうか。

まとめ

進学塾や私立中高一貫校での「生きる力」を身につけることは、いまに始まったことではありません。毎日の学びの中で、切磋琢磨しながら身についていくものです。また、入試問題には「どんな力を身につけてほしいか」など、学校側の思いが込められています。学校選びの際にも注目したいですね。

参照元:『生きる力/文部科学省』
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/pamphlet/__icsFiles/afieldfile/2011/07/26/1234786_1.pdf

参照元:『小学校学習指導要領/文部科学省』
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/__icsFiles/afieldfile/2015/03/26/1356250_1.pdf

参照元:『幼稚園教育要綱、小・中学校学習指導要領等の改訂のポイント/文部科学省』
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/__icsFiles/afieldfile/2017/06/16/1384662_2.pdf

※記事の内容は執筆時点のものです

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