中学受験ノウハウ 基礎知識

「アクティブ・ラーニング」は生徒のどんな力を伸ばすものなのか?

2016年4月07日 吉田塁

最近耳にする「アクティブ・ラーニング」という言葉。今や教育界のホットワードであり、次期学習指導要領改訂に向けて、文部科学省が小・中・高校でも強く推進する方向性を打ち出しています。「能動的学習」と訳されるこの学びは、生徒にとってどんなメリットがあるのでしょうか。また、家庭学習に活かせるヒントはあるのでしょうか。現在、東京大学教養学部でアクティブ・ラーニングの推進に取り組む吉田塁先生にお話をうかがいました。

与えられた知識を頭の中で整理し、アウトプットすることで理解が深まる

最初に、アクティブ・ラーニングとは何なのか教えてください。

ごくわかりやすく言えば、教師が一方向から学生に知識を注入するだけの「受動的な学習」ではなく、教師と生徒、あるいは生徒同士が双方向のコミュニケーションを行いながら学んでいくような「能動的な学習」全般のことです。

授業にアクティブ・ラーニングを取り入れるメリットとは何ですか?

ひとつは「適切に」導入すれば学習効果が高まることです。例えば、成績が上がります。先生の話を聞くだけの学習に比べると、得た知識をディスカッションなどでアウトプットしていく学習のほうが、理解が深まることは多くの研究からわかっています。もうひとつは、変化が激しく、将来が不透明な今の時代に必要な「主体的に学び続ける力」が身につくことです。とはいえ「主体性」や「積極性」の数値化は難しいため、その裏付けについては今後の研究が待たれますね。

以前から小学校の授業ではディスカッションを取り入れることが多かったと思うのですが、それもアクティブ・ラーニングと言えるのですか?

誤解されやすいのですが、単にディスカッションをすればいいのではなく、それを通じて生徒に「何を学んでほしいのか」を明確にしておかなければアクティブ・ラーニングになりません。目的を達成するため、先生が生徒にどんな材料を与え、どう軌道修正をしていくかがとても大切なんです。きちんとした目的と手法がないと「学び」ではなく、ただの雑談で終わってしまう危険もありますね。

ではそこでの先生の役割とは、準備した結論へと生徒を誘導していくことですか?

そうとは限りません。アクティブ・ラーニングにはさまざまな手法があります。例として、ハーバード大学で物理を教えるエリック・マズール先生の授業を紹介しましょう。授業前に基礎知識を勉強してもらうか教室でレクチャーしてから応用問題を出し、各自考えてもらって回答をもらいます。さらに学生同士のグループで相談させ、再び回答をもらう。そして、先生がその問題に関する解説を行います。

学生が互いに「自分がその答えを選んだ理由」をディスカッションする過程では、何が起きるのでしょうか。まず理解が進んでいる学生は、グループ内の臨時チューター(学生への学習助言や教授の補佐的な役割をする人)的な役割を担います。同級生が理解していない部分を把握して説明することで、自分自身の理解をさらに深めることができます。一方あまり理解できていない学生も、同級生に説明するため頭を整理するうちに「つまずき」の原因が明らかなり、そこから本当の理解に繋げることができます。受動的な講義だけでは身に付かなかった知識も、一度自分で考え、フィードバックしてもらうことで定着していくんです。そして、そうしたディスカッションを経た後、先生の解説を聞くことで更に理解が深まります。

マンツーマンの学習指導にアクティブ・ラーニングを取り入れられる?

たしかに、ただ聞くだけの授業よりも面白そうです! でも効果はすぐに現れるものなのでしょうか?

今お話ししたような「レクチャー→ディスカッション→レクチャー」というサンドイッチ形式の授業は、学生の記憶の定着を良くするというデータがあります。その意味では、即効性があると言っていいと思います。

たとえば学術誌「サイエンス」に発表された2011年の研究があります。学力的に同質な2つの学生グループに対し、同じ科目で、A群には従来通りの一方向、B群には対話を伴った双方向の授業を行いました。その後、各グループにテストを実施すると、A群の成績分布は12点満点中5点がピーク。それに対してB群は11点がピークとなり、かなり大きな差が現れました。これは、学生全員にマンツーマンでチューターを付けた場合に匹敵するほどの学習効果だと言われています。

アクティブ・ラーニングの学習効果は凄い! とはいえやはり、生徒全員に一人ずつチューターを付けることも、学習効果をかなり上げるものなのですね。

その通りです。ただ、教室でそれを実現するのはかなり難しいですよね。

アクティブ・ラーニングを導入しようとするときには、教員は、単に「教える」能力だけではなく「ファシリテートする(学びの支援をする)」能力が求められるようになります。必要に応じて方向修正するなど、新しい知識を提供して、生徒が自ら考えてアウトプットする場を与えていくスキルです。そういう意味では、チューター的なスタッフの役割が大事ですね。

「アウトプットにより理解が深まる」ことは家庭学習にも応用できませんか?たとえば家庭教師はもともと「先生」と「チューター」の両方の役割を持つと思うので、アクティブ・ラーニングを取り入れた教え方ができないかと思うのですが。

双方向の学習は可能だと思います。たとえばセッションの終わりに、今日勉強したことのまとめを生徒に話してもらい、それを先生がフィードバックする。先ほどの例は同級生同士の学び合いでしたが、先生と生徒の関係が近い方が、学習が促されるという研究もあります。そう言った意味で、年の近いと関係が近くなりやすいため、年の近い学生が生徒を教えるときには、何かしらポジティブな影響があるかもしれません。

教室に限らず、さまざまな場で能動的な学びが取り入れられるといいですね。今日はどうもありがとうございました!

※この記事は「マイナビ家庭教師」Webサイトに掲載されたコラムを再編集のうえ転載したものです

※記事の内容は執筆時点のものです

吉田塁
この記事の著者

2010年東京大学 工学部 システム創成学科 卒業。同学 新領域創成科学研究科 修士課程、博士課程を経て、現在は東京大学 大学院総合文化研究科・教養学部 附属教養教育高度化機構 アクティブラーニング部門 特任助教。

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