連載 中学受験のイロハ 鳥居りんこ

中学受験を選ぶの理由の「悪い例」|中学受験のイロハ 鳥居りんこ(3)

専門家・プロ
2016年6月02日 鳥居りんこ

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私事をもちだして恐縮ですが、アタクシの第一子が中学受験適齢期には丁度、世の中は「円周率は3」に代表される「ゆとり教育」となっておりまして、それに危機感を覚えた庶民に一大中学受験ブームが巻き起こりました。

ブームに乗り中学受験へ

「流行り物にはとりあえず乗る」という志向のアタクシは、偏差値の高い順に各学校を見学しに行ったのです。各学校はキャッチ―な言葉でアタクシを誘います。

「25歳の男作り」
「6年かけて男を作る」
「促成栽培はしない」
「紳士たれ」

公立小学校で煮え湯を飲まされてきたアタクシには衝撃でした。そこでは校長も担任も「自分の在任期間中には問題は起こさない」(=つまり、問題があっても、ないことにする)という一大方針が貫かれておりましたから学校というところに「理念」と「教育方針」があるということにまず驚いたのです。

さらに、追加で次のような情報が上乗せされていきます。

超優秀大学合格実績、考え抜かれたシラバス、国際教育の充実、コンピューター教育、キャリア教育、部活の豊富さ、圧倒的設備……。

これが毎月6万円以下(純粋な学費ですね。大学付属はこの倍かかることもあります)でわが子に提供できる!? 完全に舞い上がります。

「なんかわからんが、中高一貫校という船に乗せたら、それから以降は美味しい汁をチューチュー吸える人生が待ってるんじゃね!?」

とアタクシは思ったのです。

「中学受験は子供を勉強漬けにする虐待」とまで巷で言われてはおりましたが「いっときの頑張りで将来が保証されるならお安い御用よ!」って感覚でした。

当時はアタクシ、子育て10年生だったものですから、わが子と母は一心同体。「母の願いは子供の幸せ」=「母の願いは子供の願い」。

子供と自分は別人格で、やがて独立する生き物であるという概念は全くありませんでした。

自分の理想を子供に押し付けてしまうことに……

その頃、アタクシは「こちらヒューストン」という職業の人に憧れていて、これさえいえたら、電話交換手でも良かったんですが、とにかく「息子がNASAに入らないかなぁ」と思っていたんです。要は自分の叶わぬ理想を息子に押し付けたことになります。

そこでNASAに入るためにはMITというアメリカの大学に行くのが早道という情報をゲットしまして、中高一貫校の先生にも聞いて回ったものです。

結果的に息子が在籍した一貫校の先生はこう言いました。「お母さん、安心なさい。あなたの息子さんのためにアメリカ留学の制度も整えておきましたよ」と。

「男は大海原に航海に出る生き物。6年、海を見つめながら、その準備をせよ」ってなことも、そのシーサイド学校が言うものですからアタクシは脳内が加山雄三になったわけですね。

皆さん、もうおわかりのように、ここに息子の意見がひとつも入っておりません。息子は今もそうですが、小さい頃から天体にも海にも何の興味もないんです。

しかし、アタクシは「私立中高一貫のレールに乗せさえすれば、美味しい汁!」のスローガンのもと、息子をお菓子で釣って、良かれと思い中学受験塾に突っ込むわけですが、それからのアタクシは偏差値の上がり下がりにしか興味がなく、クラス発表があるたびに喜んだり凹んだりのジェットコースター状態になりました。

生身の息子がいるのに、偏差値越しでしか息子を見れなくなったんです。まず最初に理想の息子ありきで、その理想に近づけようと必死でした。

この愚かしい間違いをあなたはしてはいけません。結果的にアタクシの強烈な洗脳を受けた息子はその学校が気に入り、楽しいだけの一貫校ライフを満喫しましたが、それはたまたまの偶然です。

大切なのはあなたの理想ではありません。わが子の将来です。

今、アタクシのもとに舞い込む思春期のご相談のほとんどは「生身のわが子」を置き去りにした結果です。「どうして中学から私立なのか?」という答えが「美味しい汁」ではいけないのです。

中学受験に足を突っ込む前にしっかりと考えましょう。

「わが子に将来どうなって欲しいのか?」
「それはわが子の適性に添っているか?」
「その適性を伸ばしてくれる場所はどこか?」
「ある程度の負荷を数年かけてまで、わが家にとって中学受験は必要か?」

時代背景、世の中の空気、いろんなことが母を不安にさせます。そんな状況ゆえに、親が「より安全」だと思う道に子供をいざなうのは仕方のないことですが、そこには「考え抜かれた戦略」がなければなりません。

単純に「流行りがこっちだから」とか「隣がそうだから」ということではなく、わが子を見つめて、ここでこういうシャワーを浴びさせれば、この方向に伸びるという「適性」を見極めないといけないのです。

母と子供は別人格。このことをはっきりと認識できるようになるには、恐ろしいくらい時間がかかるのですが、母の理想と子供の適性は違うということを肝に銘じ「戦略」を持って、踏み出してほしいなぁと思っています。

※この記事は、「マイナビ家庭教師」Webサイトに掲載されたコラムを再編集のうえ転載したものです。


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※記事の内容は執筆時点のものです

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