連載 今一度立ち止まって中学受験を考える

思考力や記述力が求められる時代に、暗記って必要なの?|今一度立ち止まって中学受験を考える

専門家・プロ
2018年12月20日 石渡真由美

近年、中学受験では思考力を問う問題が多く出題されています。2020年度から始まる大学入試改革においても、思考力重視に変わるといわれているので、今後さらにこの傾向は高まっていくことでしょう。

すると、こう言う人達がいます。「これからの時代は思考力を伸ばすことが大事。従来のパターン学習はやめるべきだ!」

中学受験の弊害はパターン学習と言うけれど

この言葉からは、「パターン学習」=「悪いこと」というニュアンスが含まれているように感じます。確かにパターン学習は、やり方を間違えてしまうと弊害になります。

例えば受験算数には、特殊算と呼ばれる文章題が出題されます。特殊算には「旅人算」とか「つるかめ算」といった中学受験特有の問題を扱いますが、それらには一定の解法があり、その式に当てはめれば答えを出すことができます。

しかし、それはあくまでも基礎レベルまでの話で、入試レベルの応用問題を扱うようになると、複数の解法を組み合わせて、試行錯誤しながら解いていかなければならなくなります。

ところが、解法をただ丸暗記している子は、「なぜその解法を使うのか」という根本的な理解に欠けているため、少しでも変化球的な問題が出ると、太刀打ちできなくなってしまいます。

では、パターン学習は悪いことなのでしょうか?

いいえ、私はパターン学習も必要なことだと考えます。いくら思考力重視とはいえ、0から100まで思考力のみで問題を解くわけにはいきません。

では、「思考力」とは何なのでしょうか?

辞書によると、「思考力とは、観察や経験によって脳に記憶されたさまざまな情報を、お互いに関連づけ、新しい関係・概念・法則を見つけ出す力」と書いてあります。

つまり、思考力とは知識量によって裏付けされるということです。受験算数であれば、いくつかの解法パターンを覚え、問題に応じてどれを使うか考えたり、どれとどれを組み合わせたら解けるのかと試行錯誤したりして、習った手法を用いて答えを導き出す。それには、どれだけ解法パターンが身についているかが重要になります。

学習の基本は覚えること

パターン学習は決して無意味なものではありません。例えば、野球選手がホームランを打つために、ひたすら素振りの練習をしますよね?

実際の試合では、相手のピッチャーがどんな球を投げてくるかわかりませんが、基本的な動きをくり返しておけば、実戦でも瞬時に球筋や球質を見分け、「おっ、低めの変化球が来たな。だったらこう打とう」と動けるわけです。同じような理由で、パターン学習を十分に積むことで、実戦(入試)でも通用する力を培うことができます。

学習の基本は覚えることです。近ごろの教育は、「思考力」という言葉ばかりが重視され、「知識を取得する」ことが軽視されているように思えてなりません。もちろん、「思考力」は大切ですが、それを支える「知識力」をないがしろにすることは、あってはならないと思います。

「知識力」はくり返し覚えることで習得していきます。つまり、知識を蓄えるためには、パターン学習もある程度は必要だということです。

暗記と丸暗記は似て非なるもの

ただし、ひとつ心に留めておいてほしいことがあります。それは、同じ覚えるでも、「暗記」と「丸暗記」は違うということです。

「丸暗記」とは、情報をそっくりそのまま覚えることです。算数でいえば、「旅人算であればこれ」「つるかめ算であればこれ」と、ただ公式を覚えるだけ。それでは、「なぜこの問題のときにこの公式を使うのか」という理解が得られません。

丸暗記をする子に「どうしてこの式になったの?」と聞くと、「だって、先生がそうやって解けって言ったもん」と答えます。それでは、納得して理解しているとは言えませんよね。

ですから、解法を覚える時は、「なぜこうやって解くのか」をしっかり理解したうえで、知識として身につけるようにしましょう。「パターン学習が悪いこと」と言われる所以は、この「丸暗記」にあるのです。第一「丸暗記」したものは、忘れるのも早いものです。

知識を軽視すると「思考力」も「記述力」も身につかなくなる

算数に限らず、中学受験では国語も理科も社会も、覚えておくべき知識があります。特に理科・社会は暗記型科目と言われるように、覚えるべき内容がたくさんあります。

例えば、社会の歴史なら年号と出来事を覚えなければなりません。しかし、最近の入試はただ単に年号や名称だけを聞かれる問題は少なくなりつつあり、記述で答える問題が増えています。

例えば「なぜ太平洋戦争が起こったかについて日中戦争を言及しながら述べよ」という記述問題が出題されたとします。これを論理的に記述するためには、出来事と出来事の関連性についてきちんと覚えていなければなりません。ただ年表を覚えるだけでは、太平洋戦争が勃発した理由を上手に説明できませんし、まして日中戦争との関連性を指摘することもできません。

つまり、記述問題を解くためには、それを裏打ちする知識力が必要ということです。知識量を増やすには、やはり暗記することが不可欠です。そして大事なのは、ただ丸暗記をするのではなく、出来事の関連性や因果関係など、一つひとつの意味を意識しながら暗記をすること。そうして覚えた知識は忘れにくいため、一生の記憶となって残ったりするものです。

「思考力」や「記述力」が重視される今、改めて「知識」の大切さを知っておいていただけたらと思います。


これまでの記事はこちら『今一度立ち止まって中学受験を考える

※記事の内容は執筆時点のものです

宮本毅
宮本毅 専門家・プロ

1969年東京生まれ。武蔵中学・高等学校、一橋大学社会学部社会問題政策過程卒業。大学卒業後、テレビ番組制作会社を経て、首都圏の大手進学塾に転職。小学部および中学部で最上位クラスを担当し、多数のトップ中学・高校に卒業生を送り込む。2006年に独立し、東京・吉祥寺に中学受験専門の「アテナ進学ゼミ」を設立。科目間にある垣根は取り払うべきという信念のもと、たった一人で算数・国語・理科・社会の全科目を指導している。また「すべての子どもたちに自発学習を!」をテーマに、月一回の公開講座を開催し、過去3年間でのべ2000名近くを動員する。若い頃からの変わらぬ熱血指導で、生徒たちの「知的好奇心」を引き出す授業が持ち味。

■著書

『はじめての中学受験 これだけは知っておきたい12の常識』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)
『中学受験 同音異義語・対義語・類義語300』(中経出版)
『文章題最強解法メソッド まるいち算』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)
『中学受験 ゴロ合わせで覚える理科85』(KADOKAWA出版)
『中学受験 ゴロ合わせで覚える社会140』(KADOKAWA出版)
『ケアレスミスをなくせば中学受験の9割は成功する』(KADOKAWA出版)
『合格する子がやっている 忘れない暗記術』(かんき出版)

この記事の著者

フリーライター。子供の誕生をきっかけに、わが子の成長に合わせ、ベビー雑誌、育児・教育雑誌、塾専門誌で取材執筆。6年前に子供の中学受験を経験したものの、国立大学の附属中学で併設高校が無かったため、その3年後に“高校受験生の母”、またその3年後に“大学受験生の母”も体験。中・高・大の3つの受験を知る受験ライター。

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